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2-1.美怜の朝のお楽しみ。

〇美怜〇


 中間テストが近い。

 今は五月中旬だが、早くも梅雨の季節に差し掛かり始めた。

 ここ舞鶴もジメジメとした天気が続いている。

 アジサイもそろそろ咲いて見ごろを迎えるだろう。

 舞鶴自然文化園にはアジサイ園が整備されていて小牧さんにその写真を見せてもらったことがある。

 結構な数のアジサイが植えられ、紫や白や青のコントラストが奇麗だったのを覚えている。

 

「今度、望と行ってみるのもありかも……、

 私はインドア派だから行ったことが無いもんね……」


 でも、私自身はこの季節は嫌いだった。

 何故かというと、変装用の化粧が湿気でドロドロになり、カツラも蒸れる。

 それでも紫外線が夏に比べれば少ないのでマシではあるのだが……


「でも、今年はそんなの気にしなくても良いから助かっているんだよ」


 そう、私は変装をしなくて良くなった。

 隣で寝ている、望のおかげで私は私自身で生きることが出来るようになった。

 アルビノを隠す必要がなくなったのだ。

 

 ――色々、あったけどね


 家族になり、私が変装を止め、そして信頼できる人だと思って、裏切られて、求め求められて、また家族になった。


「ありがとうね……」


 スウスウとリズミカルな寝息を立てる望の白い髪を愛おしく撫でる。

 彼は事実的に言えば、他人であり、家族である。

 血縁関係は無い家族と、一般的に見れば少し歪な関係だ。

 でも私、美怜と望は家族として過ごすことをお互いに欲し、約束したのだ。

 お互いに依存症、お互いにお互いが居ないと成り立たなくなっている。

 望は私にとって、大切な人なのだ。

 私が望んだままにさせてくれる人だ。


「えへへー」


 笑みが漏れる。

 唯莉ゆいりさんはともかく、お父さんも出来た。

 忙しいらしく、会えないなりに連絡のやり取りはしている。

 但し、レスポンスは遅速だ。

 何を書いていいか悩んでいる節がある。

 私も悩むから仕方ないのかなと思う。


「さて、日課をしようかな」


 望を見る。

 その唇を見る。

 彼の顔を抑える。


「頂きます」


 唇を押し付けた。

 柔らかい感触が心をぽかぽかとさせてくれる。

 そして、これが私を守ってくれる家族なんだと充足感を得ていくのが判る。

 満ち足りていく、すなわち幸福なんだな、と認識できる。

 最後にペロリと望の上唇を舐めて離れる。


「今日は、若干しょっぱかったかな?」


 毎日のことなので、舐め比べて感想を述べるのが日課になっている。

 まぁ、誰に言うでも無し、いいのではないかと思う。

 尚、この日課は望には内緒だ。

 これは趣味であるし、教える理由も無い。

 バレたらきっと禁止される。


「望、変な所で固いんだもんなぁ」


 それを思うと少し、不機嫌になる。

 別段、キスぐらい、家族の表現としてはありふれたものだと思う訳だが、望の反応は予想できる。


『家族の中にも礼儀あり』


 固い。

 コンクリートのようだ。

 絶対に、風呂に一緒に入るだとか、キスだとかはダメと言うのが判ってしまう。

 自身が性的なラインだと感じる部分で切っているんだと思う。

 勝手な話だ。

 一回、風呂に突撃したことあるわけだが、望は冷静さを取り繕いながら、慌てていた。


「……の割には、私の頭をポンポン撫でたりするよね?

 手を繋ぎたかったり、触れ合うスキンシップは好きだよね?

 どうしたものやら……」

 

 それはそれで嬉しい訳だが、私も主導権を握りたい。

 そしてもっと望からも家族としてのコミュニケーションを取って欲しい。

 そうもっともっともーーーーっと欲しいのだ。

 私は彼を確認したいし、私を彼に確認してもらいたい。

 最近は唯莉さんの部屋から小説や資料(含むエロゲー)を拝借し、家族の在り方を勉強することもしている。

 自分の想像だけでは限界を感じたからだ。


「でも、ソラさんとは何処まで進んでいるんだろうか――?

 今日、例の件を実行するとか言ってたけど……」


 ふと懸念が浮かんだ。

 結局、望とソラさんは付き合うことにするらしい。

 ……条件に呆れられなきゃいいけど。

 まぁ、呆れられたら呆れられたらでもいいんだけど、仲良くはして欲しい。


「キスはもうしているのかな……

 多分しているんだと思うんだけどね?」


 私の勘がそう告げている。

 そう考えに至ると、こんな朝のことでしか出来ない私自身が蔑ろにされている気がする。

 いや、そんなことは無いのだが、と頭を横に振る。

 望自身も鳳凰寺さんは二の次と述べている。

 ソラさんとのそんな関係は私が発破をかけた訳で青春をあげるとは言った手前嬉しい事だ。

 反面、私が蔑ろにされる理由にはならないので複雑な気分だ。

 もし、そうなったら悲しい。


「なんなんだろね、私自身」


 考えても答えが出ない予感がしたので一旦思考を切り上げる。

 立ち上がり、まだ寝ている望を置いて朝ごはんの支度に入ることにした。


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