4-45.九条家の墓の前で。
〇望〇
「ここが、九条家の墓だ。
と言っても、最近、奇麗にしたから特に感慨も無いがと思うが。
墓がここのあちらこちらに散らばってたから纏めたんだ」
っと、お父さんが示すのは、真新しい御影石の岩柱だ。
名前を観れば、九条家の墓と彫られているだけで特に何もない。
「名前とか経歴は、全部、紙にしてある。
まぁ、気にしなくても良い」
そう言いながら、水栓の蓋を投げてくる。
それを近くの蛇口にはめて、持ってきたバケツに水を入れてこいという事だろう。
「私は……」
「美怜はいい。
足場も悪いしな」
確かに。
お世辞にも舗装されているのは大きな道だけだ。
支線に入ると、デート行きの足元では危ないだろう。
ただでさえ、神社側から歩く際には結構な坂で危なかった。
(……僕もいつかはここに入るのだろうか?)
水を入れながら墓を観て、ふと思う。
確かにこのままなら僕は九条家の跡を継ぐ。
しかしながら、僕は何処と誰とも知らぬ血筋の人間だ。
天から様々なギフトを貰っている僕ではあるが、その一点で言えばそれは事実である。
周りを説き伏せるのは問題ない。
しかしながら、
「?」
墓の前に居た美怜が僕の視線に気づいた。
そう、美怜が居る。
正直、どんな道でも良いと言われているが、彼女にとって僕は最善の道を選びたいなとは思うのだ。
それぐらいには僕は美怜に依存している。
「奇麗に保たれてるんですね」
「あぁ、近くの知り合いに頼んでるからな。
ありがたい話だ」
「……挨拶の必要は?」
「俺の方から、年二はしている。
子供が居るとは言ってないから、驚かせたら悪い。
流石に御年九十だ」
そう言いながら、お父さんは受け取ったバケツから水を墓石にかけていく。
そして前で拝み、それだけで終わる。
特に報告することもなく、形式ばったモノだけだ。
「いいんですか?」
「まぁ、九条家がそれなりに力を持っていた時の残滓だからな。
それにふんぞり返るとこんなものしか残らないという、訓戒としてる、俺は。
俺まで来ている直系、他の傍流、一切合切を一緒にしてしまったのもあるが、特に思うことは無いのさ。
まぁ、親父にはちゃんと寝て欲しいとは思うが」
「ここに祖父も眠っていると?」
「そうだ。
善人な人でな。
苦労をたくさんしてきて……最期には、鳳凰寺……というか、その元当主筋に殺されたがな」
黒い話が出てきた。
「元当主筋ですか?」
「本来、あそこの当主筋は違うんだ。
あそこだけ、苗字に六の文字が無いだろ?
傍流には名前に付けるんだ。
漢字を置き換えたり、そこら辺は工夫をしたりするが、基本継承権もちは数字を付ける。
あるいはそれに付けなおす」
確かに、九条、三塚はあるのに鳳凰寺という苗字に六の文字は無い。
「さておき、祖父は何も取り柄も無いんだけど、ふと気づくと要所に居る。
そんな人だった」
「せやったねー。
あの人、良くも悪くも普通の人やったやん?
そんな人が対等にやりあえる訳なかったんや。
よー可愛がってもらったけど」
口調が軽い唯莉さんを観れば、拳を強く握りしめている。
……唯莉さんの鳳凰寺嫌いはここも理由のように見える。
「よくそんなことがあって、六道氏とは仲良くしてますね……」
「逆だ逆。
親父が殺されたからあいつと俺の今の仲がある」
歪んだ関係にも聞こえそうな発言だった。
怪訝そうにしているとお父さんが続けてくれる。
「腐れ縁てやつでさ、最初は家同士のしがらみでいがみ合ったのさ。
親父はそんな六道とも何だかんだ上手くやっていて、親しい仲だった訳だ。
まぁ、それが嫌で俺自身がますます拗れたのもあったが……その内、親父が殺されたんだ。
その時な、あいつはそれを許さないって言ってくれたんだ。
それがきっかけでお互いに復讐の為に色々つるんで、本家を潰して家長権を鳳凰寺に奪った訳だ。
まぁ、その経験は関東でも大いに発揮できたわけだが」
昔を懐かしむように遠い目をするお父さん。
「あいつは打算で行動するが、それは教育からだ。
本来のあいつは情に弱いのは知っての通りだろ?」
「……ソラ君やリク君の件から良く知ってます。
後、この前の結婚式の件や悠莉さんの件、然り」
「お節介すぎるんだよ、あいつは……身内だと判断するととことん甘い。
だから折角奪った家長権、自爆で失ったしな……」
ドロドロしすぎている気がする。
だから、僕たちが歪んでいる理由なのかもしれないが。
ソラ君もリク君も当然に何処か歪んでいる。
美怜はいわずもがな。
僕だって自覚している。
「三塚に乗っ取られるかと思ったら、まぁ、上手くやったもんだ。
あれは俺には出来ないからなぁ」
「女性の扱い方ですか?」
「……まぁ、その通りだ。
ハーレム願望もなかったし、愛を伝えるなら一対一が当然だとな。
これだけは常識に囚われすぎてるかもしれんが、それが普通だと思ってるからな」
「珍しいですね。
常識とか利用して踏み倒してるのに。
女性なんかも使い捨てることを教えて頂きましたし」
その願望が有ったら、唯莉さんが拗れなかったかもしれないが。
「……あれは手段だから、割り切れる。
あれは女性の扱いというより、雌だが」
「僕もそういう扱いしか習ってなかったせいで、
正直、好感で当たってこられると……」
っと、美怜を一瞥。
それに気づいた彼女は? っと、顔に浮かべてくる。
僕が美怜やソラ君やリク君に弱い理由である。
「望、ちょい」
お父さんに顔を引き寄せられる。
「お前が望むのなら、モノ扱いしないと誓うなら、美怜を預ける。
俺と違ってお前なら多数に好意を持たれても、大丈夫だろう」
そう美怜に聞こえないようにして囁き、離れる。
「?」
再び美怜を一瞥。
白いアルビノ少女、髪まで白く、青紫色の眼は幻想的だ。
一番最初に会った時から変わらず、美しく、可愛く思う。
子供っぽい顔つきも見る人が見れば背徳感を煽られる事請け合いだ。
それに反して体つきはアンバランスだ。
それも魅力だ。
最近、美怜の魅力に負けそうな自分が居るのも自覚している。
「それは家族に対してではありませんよ」
生唾を飲みこもうとする自分を抑え、自分の根源から否定を行った。
僕と美怜は家族であって依存症なだけなのだから。




