4-43.デートの総括。
〇望〇
伊根に船で向かい、そこで美怜と二人っきりだ。
お父さんらは酒蔵に向った。
ピンク色をしたお酒が有名らしいが、流石に未成年の僕らが行く理由もない。
唯莉さんの見た目が言われるかもしれないが、まぁ、大丈夫だろう。
さておき、
「体中が痛いんだよ……」
美怜が不調であった。
慣れない水泳をしたこともあり、普段使われていない筋肉が起こしたものであろう。
その上、夜中に出歩いていた。
自業自得のことこの上ない。
そんな美怜を歩かすわけにもいかぬと、舟屋を改造したカフェでまったりしている。
木目調の店、ガラス扉近くの席で島が見え、穏やかな日本海が奇麗である。
伊根が、日本のベネチアと言われるだけあると、実物を観て感じる。
「観光に焦るだけが、旅ではないし、デートでも無いから、ゆっくりしたまえ」
「うん、ありがと」
机に突っ伏す美怜である。
流石に慣れない旅に疲労が出てきたのかもしれない。
変な夢もきっとその影響だろう。
しばらくすると、寝息が聞こえてくる。
『マスターが天女伝説をどこかで見たモノかと思いますがね』
唸っている美怜の代わりに会話をしてくれるのはミリィだ。
姿かたちは美怜をデフォルメ姿で、猫耳をしている。
恰好は何故かメイド服だが。
バージョンアップしたとのことで、美怜の携帯でもヌルヌル動いている。
科学の進歩とは恐ろしいモノだね?
「僕と美怜で娘を三人とはね」
っと、聞いた話を反芻する。
突っ伏している美怜がビクンと動いた気がするが気にしないことにする。
情報として咀嚼している時に、変な感情を入れたくないのだ。
「しかし、本当に輪廻という話であるならば、美怜は豊受姫。
あるいは元になった人物の生まれ変わりという話になる。
僕はよく知らないが、神様とは流石だね?」
『全く非科学的ですが』
「まぁ、得てして科学だけでは説明できないこともある。
全部否定するには材料が足りない。
とはいえ、肯定するにもだ。
話半分が正しいところだろうね?」
『なるほど、理解』
「とはいえ、現世に影響するかと言うと否だ。
結局、人間というのは、今、何が出来るかだ。
一生においても過去の罪を問われ続けるということは、無いわけでね?
情報化社会に入る近代以前は、過去の自分を消して新しく過ごす人も多かった訳で」
『科学の発達も考えモノですね。
あ、これAIジョークです』
このミリィ、どういうシステムなのだろうか、純粋に興味が沸いてくる。
とはいえ、詳しいことは突っ込むなと会長から釘を刺されている。
こういうのは使い手が問題なく、リスクなく使えればいいのだ。
餅は餅屋である。
「お待たせいたしました」
っと、置かれるのはホットティーの二カップとパウンドケーキだ。
ホンノリとお酒の匂いが香る。それもそのはず、酒かす入りである。
「美怜、起きないと全部食べてしまうぞ?」
「食べる……」
っと、寝ぼけ眼で上半身が起き上がる。
見事な胸がテーブルの上に乗っているが、気にしてはいけない。
「ほら、あーんだ」
「あーん」
その口に切り分けた、パウンドケーキをフォークで口に入れてやる。
美怜の眼が見開く。
「……?」
食べなれない味わいに驚いたようだ。
「今、あーんって……」
「何か問題があるかね?
ほら、もう一口」
「う、うん」
戸惑う美怜を無視してフォークで口に入れる。
今度はゆっくりと咀嚼するように、味わいながら。
そしてゴクリと美怜の喉が鳴る。
「美味しいんだよ。
酒かすが甘さの中に独特の風味を加えてくれているんだよ」
紅茶を飲んで、頭を整理し、そう感想を述べてくる。
そして、自分でフォークをもち、もう一口。
「レシピ的には再現可能かな……」
「出来たら、食べさせてくれたまえ」
能力の応用を利かしていく美怜は頷きながら、食べる、考える、飲むを繰り返す。
そして、
「あ、全部食べちゃったんだよ」
「別に良いさ。
美怜が満足してくれたのなら」
申し訳なさそうにする美怜をニコニコと観る。
「どうだい、調子は?」
「少し戻ったかな。
新しい味覚の発見が刺激になったんだよ」
「それは何よりだね」
食べることが好きな美怜であり、それを観ているのは楽しい。
だから、僕が料理するときも本気でやる。
「……どれくらい寝てたかな?」
「モノの五分ぐらいさ。
店員の人からも微笑ましい笑みを向けられていたね?」
「夜更かしはダメだね……。
所で、望。
あーん、ってしてくれたけど、なにか心境の変化があったの?
全く躊躇いがなかったように見えたんだけど⁈」
美怜が目を見開くので、してやったりと思う。
「別に家族でなら普通だろう?
美怜に振り回されるのを観て、シャクに感じたから認識を切り替えたんだ」
「……負けず嫌いだよね、望」
「それは、僕の根っこだからしかたないね?
ともあれ、改めて、美怜を家族と認識し、親しい家族ならそれこそ普通のことだと。
僕らの家族観には明確な平行線があったのを覚えているね?」
「うん。
一緒にお風呂入ったりとか、寝たりとか、キスだったりとか。
全部、望は拒否してたよね」
「今では全部解禁されている。
昔の自分が見たら恐ろしいことだと思うだろう。
しかし、今の僕はそれを自分自身が求め始めている事実が否定できない」
昨日のプールが顕著な例だ。
トラウマのお陰で自制できたとは言え、危なかった。
それは言葉にすると流石に家族関係が危ないので置いておきつつ、言葉を続ける。
「僕もそうだ。
最初、そう最初だ。
学校で、僕も常人の家族観ではしないような過剰さを演出した。
あれは僕の家族に向ける行動としては問題ないモノで、今もだし、本心だ」
「あれはちょっと、うん、物凄く戸惑ったんだよ。
今では全然、当たり前だと受け入れているけど」
「そういうのを積み重ねているとだね、家族になっているっていう感覚が沸かないかね?」
「間違いないんだよ」
コクリと頷く美怜に、僕もコクリと頷き返す。
共通認識というモノは重要だ。
親密感を更に育ませる原動力になる。
「家族になる……。
何だかんだ、今回のデートはそれがテーマになっちゃた気がするんだよ。
お母さん、お父さんのことも理解を深めたし」
「それは間違いないね。
結果的に家族デートとしては成功だろう。
僕としても色々と勉強になった」
「うん。
望、ありがとう」
えへへー、っと美怜が花を笑顔で開かせる。
美怜が嬉しさを見せてくれると、僕をほんわかとさせてくれる。
そんな美怜の頭を撫でたくなるし、もっと色々してあげたくなる。
全くもって僕は彼女に依存症なんだと改めて思った。




