4-42.不機嫌な望。
〇美怜〇
「そういう時は起こして欲しい」
憮然とした表情で、私を観る望の眼が怖い。
悲しみも少し含まれている感じだ。
昨日、温泉に入る時に裸で突撃した時よりも腹の虫の居所が悪いようだ。
「望、機嫌なおしてよ……。
そもそも望起きないもん、絶対……」
「信頼されていない訳ではないことは判っているがね?
逆に起きないと、そう理解されているのは嬉しくも思うがね?」
その言葉は嘘ではないと判るので、少し気が楽になる。
「まぁ、無事で良かった。
何かあったら、本当に僕はどうなってしまうか判らないからね?」
寝床に戻るとまだ寝ていた望。
ようやく起きてきた時に、夜の事を話したのだ。
で、今だ。
朝御飯はビュッフェだが、まだ私も望も何も取ってこない。
二人でコーヒーだけを取ってきて、座っている。
湯気が抜けたカップに望は口を付け、
「……起こし方を教えとこうか……」
望がテーブルの上に手を出してくる。
そして、その手の甲を逆の手でつねる。
「こうすれば、起きる。
本当に危ないと思ったら使ってくれていい」
「うん」
また一つ、望の事を知れたと嬉しくなる自分が居る。
不謹慎かな、っと思いながら、心内を晒さないようにする。
「……望。
ごめんなさい」
「そう言えるのだったら言いさ。
同じようなことが有ったら言ってくれ」
そして微笑んでくれる望。
「なんや、二人とも辛気臭い顔して」
っと、声の先を観れば唯莉さんだ。
てんこ盛りに盛られた、左右頭に皿が三つも抱えられている。
「邪魔するで」
っと、私の隣に座り、テーブルに皿を広げていく。
「唯莉さん、昨日は手間をかけたみたいで」
「別にええよ。
あれは紬が原因みたいなモノや」
「お父さん、やっぱり一回、何とかしなきゃいけない気がするね?」
「俺を何とかするって?」
ぽんっと、肩に手を置かれた望が口をバッテンにしている。
「……おはようございます。
お父さん」
「おはよう、望」
振り返らずに望が言うと、嬉しそうにお父さんが返す。
「……何かいいことあったんですか?」
隣に座ったお父さんに眼を見開いた望が怪訝そうだ。
「娘の好感度を上げることに成功した」
「美怜、騙されてはダメだ!」
「あはは。大丈夫だよ。
ダメ親父という認識はそうそう変わらないから」
こう正直に述べると、お父さんの口元がバッテンになる。
そんな様子を唯莉さんは楽しそうに観ている。
「美怜。
先に料理を取ってきたらいい。
ちょっと二人と話したい」
「ん、了解だよ」
夜のことだろうと、私は了承し、立ち上がった。
「……悩んじゃうなぁ」
五分ぐらいは必要だろう、と考えていた私。
ビュッフェを観て、十分は欲しいと思った。
豪華なのだ。
普段食べないような食材を使った料理もある。
ワクワクしてくる。
「とはいえ……セーブが必要かも」
私はかなり食べる方らしい。
小牧さんなんかと同じくらいで、それが常識だと思っていた。
リクちゃんやソラさんの食量を観るとそれが非常識だということに気付いたのが最近である。
「なんともだよ」
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