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4-39.まるで揺蕩う様に。

〇美怜〇


(危なかった……)


 望に抱き着かれた時、あのまま望が抑えてくれなかったらキスだけでは済まなかった気がする。

 自分の思考では何を次にするか、理解が出来ていない。

 けれども、エロゲーで言えばCGシーンになることが脳裏に浮かんでいる。

 つまり、望を求めて、私を埋めてと欲してしまった可能性が高い。

 否、間違いないだろう。

 最近、私は望を使うことが多いからだ。


(私達の関係が変わってしまう)


 それは恐怖だ。

 一時の欲望の動きだけでしてしまえば、それはもう元には戻らない。

 私はずっと望と家族で居たいのだ。

 望もそうだろう。


「美怜、大丈夫かね」


 問われ、大丈夫じゃないと答えそうになるが、抑える。

 そして、望の視線が底を観ていることから、水中の足元のことだろう。


「立っていて肩が丁度つく程度だから、大丈夫だよ。

 心配性なんだよ、望は」


 と言いつつ、慣れない感覚に戸惑っているのは確かだ。

 動きづらい。


「力づくで押すというより、身体を横にして、水を切りこむという感覚の方が歩きやすいかな。

 表面積に対して、抵抗が少なくなるから」

「あんまり変わらない気もするんだよ……というか、胸が抵抗を受けて横向きの方がバランスが難しいんだよ」

「小牧君あたりが聞いたら憤死しそうだね?」


 言われれば確かにと思う。


「さて、美怜、先ずは水に浮いて観ようか?」


 望が私の手を取って、身体を浮かすように促してきた。

 結論から言えば、身体を浮かすこと自体は難しい事では無かった。

 ただ、


「うーん、進まないんだよ。

 トレースも体の動きがそもそも基礎が出来て無いから出来ないし」


 っと、望に手を持たれながらバタ足をしてそう感想を述べる。

 推進力が無駄に水しぶきになっているのだと思う。

 そして力尽きて、仰向けでプールサイドで転がっている。

 満月が奇麗に見える。

 望はそんな私を観ながら微笑んでくれている。


「ゆっくりでいいさ。

 今日出来なかったら、また来ればいい」

「それって……またデートしてくれるってことだよ?

 いいの?」

「悪い筈が無いだろ?」

「えへへー」


 嬉しくなってしまう。

 望とはもっと家族になりたいのだ。

 こういう特別な機会は多い方がいい。


「美怜は可愛いなぁ」


 空を見上げる望の端正な横顔。

 ぽそっ、独り言のように漏れた望の言葉。

 いつも面と向かって言ってくるのに、今日は自分だけで処理しようとしたのだろうか。

 それは彼の本心だということが判り、


 ――トクン


 っと、明確に心臓が跳ねた。

 それは消えない。

 頬が熱くなる感覚を覚える。

 頬だけじゃない、体が熱い。


「まだ少し練習するんだよ」

「ん、僕は少し夜風に当たるから、無理しないように頼む」


 望から顔を背けたまま、プールに浸かる。

 少し火照りはマシになるがそれだけだ。

 もどかしさにチャポンと、全身を沈める。


「ぷはっ」


 二〇秒ももたない息。

 でも、苦しさに気がまぎれ、少し落ち着く。

 望に眼をやれば。


「……」


 月明かりに手をかざして、何かを思いふけっている。

 その真摯な顔と、その姿は何というかゲームの一枚絵のようだ。

 望はやっぱり美形だ。


「望……」


 名前を呟き、彼が何を思っているのかを思いはせる。

 けれども、やはり情報が足りず、トレースできない。

 まだ、彼の全てを知っているわけではないのだと思うと、胸の奥が軋んだ気がする。


(恋愛感情の件……、関東の件……、孤児院の件……)


 関東の件は何となく想像が付きはじめている。

 彼が自身を悪だと断じる理由だ。

 恋愛感情の件は半分は理解出来ている。

 唯莉さんだ。

 後半分は孤児院の件に紐づく。


「望のことを知りたいんだよ」


 水面みなも揺蕩たゆたい、満月に眼を向けながら、そう自分の心を露わにする。

 教えてくれるとは思う。

 けど、彼のトラウマが解決しないと彼からは無理だ。


「望の力になりたいんだよ」


 私を救ってくれた。

 トラウマは無くなり、家族が出来た。

 だから、私は彼の力になりたい。


「……(ニコっ)」


 眼があい、望が微笑んできた。

 嬉しくなる。

 そして、望もプールに飛び込み、私の傍にくる。


「美怜。

 すっかり浮けるようになったな」

「それだけだよ。

 少しは動けるようにはなったけど」


 っと、仰向けのまま、バタ足をしてみる。

 すると推進力を得た私は、頭元にいた望にぶつかる。


「大きな進歩さ。

 ゼロから一になったのだから。

 ゼロにはなにを掛けてもゼロだが、一なら増やしていける」


 冗談ぽく笑って、私を覗き込んでくる。


 ――トクン。


 まただ。

 心臓が跳ねた。

 すると体が硬くなったのが判り、


「あぶぶぶ」


 予想外に私の体が沈んでしまう。

 水面にあがろうと手も足ともにもがくが、もがけばもがくほど、沈んでいく。

 望の体に手が当たったりしているようだが、気にしている余裕がない。

 腋を抱えられる感触が私を水面に引き上げてきて、

 

「力抜きたまえ、大丈夫だから!

 僕が支えてるから!」


 言われ、身体から力が抜けて望に支えられたまま、浮かび上がることに成功する。


「あ、ありがと……」

「良いパンチがボディに入ったが、気にしなくてもいい」


 冗談らしいことは、口調から判る。

 落ち着かせてくれる。


「まだ僕が居ないとダメみたいだね?」

「うん、ダメなんだよ。

 望が居ないと私はダメなんだよ」

「自立する力をつけて欲しいモノだがね?」


 どうしたものやらと望は困った顔を隠した浅い笑みを浮かべる。

 とはいえ、嬉しさ半分、心配が残りという感じだ。


「望」

「なんだい?」

「望は……私のこと、どう思ってる?」


 何を言っているんだろうか、私は。

 言葉が勝手に紡いでいた。


「依存先、妹、大切な人、愛くるしい存在。

 これでいいかい?」


 っと、事前に用意したのであろう言葉で返される。


「私とソラさん、リクちゃん……誰が一番大切?」


 ……なんで、私は恋愛ゲームやドラマのようなメンドクサイ女性の台詞を吐いているんだろう。


「決まっているだろう、美怜だ」

「……望の言っていたあの人、好きだったお姉さんよりも?」


 望が少し固まった。

 トラウマに関わることだ、けれども私は踏み込んでしまっていた。

 抑えられないのだ、言葉を。


「当然だ。

 僕にとって美怜が一番だ」

 

 けれども、望は言い切ってくれた。

 嬉しさが沸いてくる。


「……望は私の事、喜ばせるの上手だよね」

「君が当然のことを聞いてきただけだろう?

 家族として、依存先として、これからも居てくれないと困る」


 チクッ。

 嬉しい言葉の筈なのに、とげが私の心をひっかいた気がした。



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