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4ー36. 美怜と籠神社

〇美怜〇


 伊勢神宮というのは行ったことが無い。

 そもそも私の家では神社に行くことが少ない。

 普通の日本人でも近年はそうじゃないだろうか。

 正月だけ、という方も多いと思う。

 とはいえ、大きな参道を望と歩いていると、特別な日という感じは沸いてきて楽しくなる。


かごと書いて、『この』とは読めないんだよ」

「確かに。

 竹籠を編んで船にしたことの故事から籠。

 それにめる、つまり命を編みこむ、心血を注ぐ、という意味を付与するため助詞の、『の』をつけたようだ?

 結果、『この』神社となったらしい」

「昔の人って言葉好きだよね……。

 これを駄洒落というのかは判らないけど」

「好きというか、謎かけや、そもそもに知識と教養を示すモノだったからね。

 よく考えてごらん?

 言葉というモノは、受け手が理解する必要があるだろう?

 言葉遊びも同様さ」

「確かに。

 言う方だけだとただの言葉なんだよ。

 アメリカ人に日本語で話しても理解してくれないんだよ」


 会話というモノは受け手が必ず必要で、前提が同じでないと齟齬が発生する。

 実際、街の中で外人に話しかけられたり、外人と間違えられて英語で話しかけられることがあるので判る。

 白い容姿というのが、日本人から掛け離れているのが原因だ。

 私の英語は中学レベルでしか喋れないので、いつも困る。


「人の名前もそうだね?」

「確かにそうなんだよ……」


 私の名前には、お父さんとお母さんの願いが込められている。


「望の名前の由来は?」

「望の意味は希望から来ている。

 お父さんがつけた名前で、自分の在りたいように努力して掴むという意味だね」

「……名前は人を示しているんだよ……」

 

 ふと、思う。


「望はお父さんがつけた。

 つまり、その前の名前もある……?」

「……」


 望の眼が淀んだ。

 トラウマに類することなのかもしれない。


「翼」


 漢字一文字、読み三文字までは同じだが、違う単語が望から端的に述べられた。


「……へ?」

「これが、望になる前の僕の名前だね……っ。

 これぐらいなら大丈夫か」

「翼……」

「まぁ、由来は知らないんだがね?

 そう名前と誕生日が書かれた紙が置かれていたらしい。

 迎えに来るという文字もあったが、ついぞ誰も現れなかった」


 っと、ここまで望が一気に言葉にし、深呼吸する。

 トラウマの部分に触っている感覚がある。


「家族が出来たからか、これは耐えられるようになったね。

 美怜の顔を観ていたら気が楽になった」


 っと、言いつつ、背をかがめ、私の目線に合わせて抱きしめてくる。

 ちょっと痛いぐらいだ。

 周りに人が多く、何事かと視線を集めてしまう。


「落ち着くまでは抱き着いてても良いけど、人前だよ?

 学校ならまだしも」

「おっと、取り乱したね。

 僕らしくもない」


 っと、言いながら離れない。

 否、離れられないのだろう。

 体が震えているのが止めようとしているのは判るが、力が入らないようだ。


「よしよし」


 頭を撫でてあげる。

 いつもとは逆だが、姉らしくしてあげたいと思うし、こうしてあげられるのも家族だと思う。

 望の白い髪の毛が手を零れ落ちる。


「ありがとう、美怜」

「もっと日常的に甘えていいんだよ?

 望はもっと甘えるべきだと思うんだよ」


 フンスと鼻息を荒くして言ってあげる。


「それはちょっと、色々とね?

 僕は兄らしく在りたい」

「お姉ちゃんて呼んでいいんだよ?」

「それは禁止だ」


 それにだ、と望は続ける。


「美怜の前ではカッコつけていたいんだ」


 そう離れながら、微笑んでくる。

 ジワリと嬉しい感情が高鳴ってきて、


 ――トクン。


 私の心臓が限界を迎えて爆発した気がした。

 嬉しさが抑えられず、頬が熱くなる。

 

「十分、望はカッコいいんだよ……」


 と今の気持ちを述べ、私は社の方、前へと出る。

 望を後ろにしたのは、顔を観られたくなかったからだ。


「そうだね、僕は完璧さ」

「ふふ、いつもの望だよ」


 振り返り、思いっきり笑みを向けてあげる。

 それに対し、嬉しそうに笑みで返してくれる。


「弱気は良くないね、全く。

 ありがとう、美怜」

「いえいえ。

 望のためだったら何だってしてあげたいんだからね?

 これは忘れないでね?」


 と、言ってあげると、驚いた様子の望は眼を見開いていた。

 そして、頬を人差し指でかきながら、


「あぁ、頼りにしてる」


 と言ってくれた。

 私だって成長しているのだ。

 少しは当てにして欲しいという欲は有って、それが満たされて嬉しくなる。


「さて、ここでドラマじみた事をやっていると注目を集めてしまっている様だから、奥に行こうか」


 見れば、さっきより観ている人が増えている。

 私も望も人より目立つのだ。


「ほら、手を」

「うん」


 望の差し出す左手にはリングが嵌っていた。

 それを私は右手で握り返して、手をつなぐ。


「デートだし、これもいいよね?」


 腕に抱き着いて胸を押し付けてやると、望の腕が私の胸に包まれる。

 一瞬抵抗しようか悩んだようで腕が強張るが、結局、私の柔らかさに任せてくれる。

 大きいことは良い事だ。

 霞さんではないが、これだけは誰にも負けないと、最近、思う。

 望の口元がバッテンになるが、戸惑いという所だろうか。


「望、可愛いんだよ♪」

「ぐふっ」


 クリティカルしたらしい。

 うろたえている望は珍しい。

 いつもは涼しい風してる癖してソラさんやリクちゃんを弄り倒してる癖にだ。


「望、純粋な好意に弱いよね……」

「まぁ、致命的な弱点でも無い。

 悪意があれば見抜けるし、問題ないとは思うがね?」

「私に悪意があったらどうする?」

「美怜が悪意を見せたら、何かあるのだと裏を考えるね?

 僕みたいに、相手の事を思ってだろうし」


 信頼を見せてくれて嬉しいが、話題がずらされた気がする。

 こういう所はズルいと思う。


「弱いよ、僕は。

 美怜みたいに好意的にされると」


 驚いた。

 赤くした眼で見開いて望を観る。

 彼は若干、頬を赤らめていて、何故こんなことを言ったのだろうかと悩んでいる。

 私はどう言葉を繋げれば良いのか判らない。

 けれど、腕を挟み込む力を強くして、離さないようにした。

 こういう強気のキャラが弱みを見せる時は何かの悪いフラグだと、ゲームでは多いからだ。


「美怜、神様に挨拶しようか」


 黙ったままであったが、幸い何も起きず、無事に拝殿につく。

 二礼、二拍、一礼。


(望に悪いことが起きませんように)


 と、フラグ消すことをまず願い、


(望と一緒に居られますように)


 と、私的なことを願う。

 終わり、望を観ると真剣な表情をしていた。


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