4-35.小休止
〇望〇
「……昼の予約まで一緒だとは思わなかったね?」
僕はベッドの上で転がりながらそう言う。
流石にお父さんと唯莉さんの相手は疲れた
「あはは……。
というか、借りる所も棟が隣で一棟借り……
ちょっと色々予想外だったんだよ。
晩御飯も一緒に食べることになったし」
結局、予約プランまで丸被りしていた。
それならば一緒で良いかと、唯莉さんが提案し、そうなった。
「……デートと言うか、家族旅行だね。
これはもはや」
「これはこれで楽しいんだよ。
唯莉さんが居て、お父さんが居て、一番の望が居る。
こんな風な旅行なんて昔では考えられなかったんだよ」
「そうだね……満足感はあった」
僕としてもこうなるとはつい半年前までは予想も出来なかった。
予想外とはいえ、悪い事ではなく、嬉しく思える。
「まぁ、ダブルデートと言えなくもないか」
「だぶるでーと……?」
美怜の質問が隣のベッドから聞こえる。
見れば、美怜もくたっと倒れて、僕の方を青紫色の瞳で見てきていた。
「デートを四人で行うことだね。
お互いのパートナーを交えて遊びに行き、共通の知り合いを作ることを目的とすることさ。
また自分のパートナーの知らない一面を、他者を通して観たりすることも目的だね?」
「確かに……。
望はお父さんのことをよく知ってるけど、私は知らなかったんだよ。
今日、理解出来たから良かったんだよ」
「まぁ、僕も収穫あったからね」
美怜がニコリと笑みになる。
釣られ嬉しくなり、笑みで返す。
事実、唯莉さんの評価の件は予想外に嬉しかった件だ。
「そう言えば、平屋なのに家より広く感じるんだよここ。
天井が高いのもあるのかな?
2LDK……それにプールに庭。
前情報は観ていたけど、予想以上なんだよ」
「それは良かった」
起き上がり、大きさを身振り手振りで表してくる美怜が可愛い。
でも、次の瞬間、目線を下に落として。
「なんというか場違い感が……」
「最近、自己評価が高まっていると思ったが、いつものが出たね」
笑いながら僕は上半身を起き上げる。
「うー、だって」
「良いじゃないか、非日常感が感じられて、。
特別な日なのだと思いたまえ」
「……確かに、そうだね」
美怜が素直に納得し、ネモフィラを思わせる笑顔が戻る。
やっぱり美怜は笑顔が一番だ。
「ちなみにおいくらしたの?」
「諭吉が5枚。
安いね?」
「安くないんだよ……。
どこから望、お金が沸いてるんだよ……。
この指輪と言い、明らかに高校生のお小遣いの額超えてるんだよ。
もしかして、お父さんがこれも甘やかしてるの?」
と、左小指に嵌めてくれている指を見せてくる。
毎日、ちゃんとつけてくれているとはいえ、その事実を確認する度に嬉しくなる。
「甘やかされた覚えはないが……。
お父さんが僕の復讐と利益が合致して潰した時があってだね?
その時の報酬で貰ったお金を投資に回している」
「唐突に闇が沸いてきたんだよ!」
「九条家の悪名が関東に鳴り響いたのは、それがきっかけだね?」
懐かしい話である。
今頃、あの主な復讐相手だった三人はどうしているだろうか。
大手の倒産、家のおとり潰し、関東一円の勢力図の更新……色々あった。
「……悪名?
もしかしてお父さん、六道さんと同じで」
「あのやくざ者と一緒にされたらお父さん悲しむと思うがね?
一応、真っ当な経営者だ」
「一応とつく時点で色々察したんだよ……」
美怜がジト目で見てくる、悲しい。
そして、一息ついて、彼女は続ける。
「そういうのに巻き込みたくないんだね、お父さんは私を」
「そう言うことだ。
といっても、今は真っ当な事しかしてないがね?
情報関係の仕事さ」
「情報関係って胡散臭い印象しか無いんだよ……」
「インサイダーにはならないように気を付けてるよ」
「……」
美怜が赤くなったジト目で見てくる。
まるで犯罪者を観る目で、ゾクゾクしてくる。
「さて、このまま晩御飯まで寝ていても良いが……どうしようかね。
念のため、時間を空けていたが」
「うーん……」
ザブーン!
悩んだ瞬間、大きな水音が隣の一棟から聞こえた。
思考が途切れると同時に、
「つむぎー、こっちこっちー」
良く通る嬌声が聞こえる。
唯莉さんがプールではしゃいでいるらしい。
元気な人である。
「プールはまだだよね……」
「今三時だから日が沈むまで時間はまだまだあるね……」
流石にリスクだ。
自分自身なら良いが、美怜をリスクに晒して、白磁のような肌を焼けただれさせたくない。
『お悩みですか?』
ポンっとスマホから美怜に似た機械音声。
観れば、ミリィのアバターが浮かび上がっている。
「メンテナンス終わったんだ?」
『大変でしたよ。
姉……というか、私のクローン元に会ったわけですが、これが騒がしいのなんの』
「あはは。
ちょっと口調が砕けてるのも、メンテナンスしたからかな?」
『はい。
バージョンが上がりました。
というわけで、ここでの遊びですね……。
ビューランドで股覗きとかどうでしょうか』
「さっきやったんだよ?」
『かわらけ投げも?」
「うん」
僕と美怜が隣同士でやったのを唯莉さんが面白そうに写真に写していた。
丸い穴の開いたオブジェ『知恵の輪』に向かって土器を投げる「かわらけ投げ」は、美怜とお父さんが苦戦していた。
他にも色々な思い出が出来た。
『伊根まで船で観光』
「それは明日なんだよ」
『……寝てたらどうですか?
当然、籠神社はお参りしてますよね?
あとその奥宮とされる真名井神社にも』
「望、そういえばお昼の予約の時間が近いって、行かなかったんだよ」
「確かに、行ってみようか」
『……』
画面の中、ミリィの猫耳が項垂れ、嘆息した。
呆れる仕草で反応するAIとか初めて見たね。




