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4-32.男同士の語らい。

〇望〇


 どうしてこうなったのだろう。

 美怜と家族デート! っとテンションをあげていた僕が居たのは確かだ。

 ソラ君にコーディネートしてもらった美怜は良く似合っていて、僕の為にと嬉しくなった。

 船の上で美怜が胸元に転がり込んできた時も、嬉しくなったモノだ。


「……とはいえ、仕方ないか」


 っと、前を観る。

 話しながら、天橋立の中、松林を歩く美怜と唯莉さんは楽しそうだ。

 何というか白髪同士の姉妹みたいに見える。

 久しぶりにゆっくりと話せていることもあるのだろう。

 僕としては、横からプレッシャーを感じなければもっと良いのだが。


「望」


 歳による白髪が交じり始めたお父さんが僕を観て、名前を呼んでくれる。

 家の中では無気力で居ることが多かったのだが、今は外行きの厳しい目線だ。

 僕の憧れたお父さんで、


「はい」


 それに緊張してしまうのは仕方ないことだ。

 そもそもお父さんが僕の名前を呼ぶことは少なく、呼ぶときは重要なことがある時だったからだ。

 最近はそうでも無くなっていると判っていてもだ。


「お前のお陰で色々踏ん切りがついたわけだが」


 っと、言葉を切り、


「色々やらかしてくれたな?」


 内心が冷える。

 それをおくびにも出さずに、


「僕としては、お父さんの為ですから。

 致し方なかったんですよ」

「……まぁ、感謝はしている。

 が、仕返しは楽しみにしといてくれ」


 犯行予告される。

 どうしたモノやら。

 とはいえ、予想がつく。


「……お父さん。

 もしかして、ソラ君と僕の結婚式……はないとしても、六道氏と企んでません?」

「さーてな」

「というか、鳳凰寺のお盆に参加予定とかも聞いてますけど」

「許嫁の親として、俺は参加してるからな?

 お前が来ないと、面白いことになるかもな?」

「ぐ……っ」


 藪蛇な気がした。

 何というか、やはり相性が悪い感じがある。

 暴力に訴えかければ、負けはしない事実は心に余裕を持たせてくれるのが幸いだ。

 冷静になれる。


「……お父さん、何が狙いですか」

「六道への恩返しというとこだな。

 あとこの前の借りも返さないとな」


 端的に理由が述べ、晴れやかな笑みをしてくる。

 正直な感想としては、恐怖という感情が沸いている。


「まぁ、悪いようにはならないさ」


 そう言われるが、関東での惨状を思い出すとその言葉の頭には、『自分たちの』という単語が付くのであろうことは判る。

 舞鶴湾が血の海に染まるまである。

 事実、横浜の海はなったし、僕自身もなりかけた。


「そういえば、お父さん。

 孤児院に顔を見せる決意が出来ました」

「……ほぅ?」


 興味深そうに黒い瞳が僕を観てくる。

 家ではやる気のない姿が多かったお父さんが時折見せてくれた、マジメな姿。

 嬉しくなるのは、この反応を求めて色々やってきたからだろう。

 承認欲求、僕は人一倍強いのかもしれない。


「火事の後、どうなったか知る決意が出来たのか……、自分で」


 お父さんはそう、呟き。


「望は強いな」


 不意を突かれた。

 一瞬、頭の中が真っ白になり、その後嬉しさが込み上げてくる。

 こういう所はズルいと思う。


「俺は結局、唯莉、望、美怜に助けられてばっかしだからな。

 トラウマに関しちゃ」

「……事実、美怜には情けないお父さんとしか思われて無いですしね」

「まぁ、事実だからな……」


 哀愁漂うお父さんである。


「美怜にお父さんの稼業の事は教えるつもりが無ければ、ぬぐえなさそうな感じではありますね」

「……一生無理そうだな」


 あんまり人に言えない稼業のツライ所である。

 美怜が知ることで危険を伴う事案は多々ある。


「お父さん、一つ」

「何だい?」

「六道氏に姉妹で貰えと言われてます」


 お父さんが渋い顔をする。

 六道氏の思惑通りともいえ、僕としてもしてやったりである。


「後は養子に来ないかとも」

「……あいつ、よっぽどお前の事が気に入ったんだな……。

 まぁ、望が良ければ九条の家名は捨ててしまっても構わんぞ。

 どうせ、俺の代より前に一回滅んでる」


 鳳凰寺に滅ぼされたという話だけは聞いている。

 が、詳細は知らない。

 

「捨てたら美怜が生贄にならないですか、それ」


 僕はお父さんを睨みつけて、確認する。

 本来であれば、家督を継ぐのは僕ではなく正統な血筋である美怜だ。


「しないさ。

 俺で終わらせていい。

 九条の拘り云々は、子供達に背負わすべきではない。

 だから、唯莉と再婚した今でも平沼のままにしてんだし」

「なら……安心ですが」

「望、逆に一つ聞いていいか?」

「なんでしょう」

「九条を継ぎたいか?」


 真摯な眼で見つめられ、言われる。

 大きなターニングポイントな気がする。


「昔の僕なら間違いなくハイですが……。

 今は表のみで何とかならないかを模索するつもりです。

 出来なければ、それこそ潰してしまうのもありかと」


 黙示的かつ消極的にイエスと答える。

 僕自身も一般的に言えば、悪いことをしてきた。

 ただ、罪の意識とか、懺悔とかは全くなく、浮かべているのは美怜の笑顔。

 それとお父さんへの恩義。


「そうか」


 お父さんは複雑そうな顔をして、頷く。


「望が、望むがままに好きなようにすればいい」

 

 そう軽く微笑み、僕の頭に手を乗せてきてワシワシとしてくる。

 昔のお父さんなら考えられない行動だ。


「今更、子ども扱いですか?」

「そうだよ、お前は俺の子供だよ」


 こういうモノ言いは卑怯だ。

 美怜やソラ君には、望もだと言われそうではあるが、この人に憧れ、真似た結果だ。


「お父さん、もう二つ」

「なんだい?」


 意を決して聞く。


「星川氏の件、彼女は何者ですか?」

「答えられない」


 端的に切られる。

 これはこれ以上、聞いても無駄だ。

 なら、諦めて、


「二つ目、僕の人形、ぺー太君。

 あれ、平沼・悠莉さんの作品だって知ってたんですか?」


 茶色い兎のぬいぐるみ、ペー太君。

 いつも机の上に飾ってあり、僕が割と可愛いモノに弱い元凶でもある。

 最近はその隣に、美怜から貰った白兎が仲良く置かれている。


「……あぁ。

 ただ、ついぞ一体も悠莉の作品をみたことが無くてな。

 結びつかなかったんだ。

 だから捨てさせたりもしなかったし、何かの縁だと感じお前を引き取った」

「成程。

 あれだけ用意周到に悠莉さんの物品を処分していたのに、ぺー太君だけ残していた理由が気になっていたもので」

「今度、改めて見せて貰っていいか?」

「良いですよ」


 悠莉さんの形見は少ない。


「ただ、余り悠莉さんのことにかまけていると」

「……」


 唯莉さんが振り返り、涙目でお父さんを睨んでいた。

 そしてズカズカと、こちら側に来ると。

 

「……」


 ムンズと、無言のまま、お父さんの袖を掴む。


「昔からだよな、唯莉。

 悠莉とか、小牧とかにかまけてるとこう不機嫌そうに袖を掴んでくるのは」


 その頭を申し訳なさを示すためか、撫でるお父さん。


「そりゃそうや……。

 私、二人に比べたら色々弱かったし。

 こうアピールするしかなかったんや」


 ……弱いとかいう恐ろしい発言が聞こえたが、聞かなかったことにしたい。

 まるで乙女の様にか弱い声な唯莉さんも恐ろしいし、最弱な事実とかも恐ろしすぎる。


「……誰かさんは気づいてもくれへんかったんやけど」

「妹みたいなモノだったしな。

 唯莉も俺の事は『お兄ちゃん』呼びだったし」

「せやな……妹ポジションのままでいたんは失敗やったんや……」


 ……リク君に余計なことを吹き込んだのは、自分の失敗を省みてか。

 確かに、僕はリク君を美怜と同じように妹扱いしていた。

 あの事件以降、リク君は自分の性を自覚してアピールしてくる。


「……妹ポジションはダメなのかな。

 やはりお姉ちゃんポジション……」


 美怜がそう呟くのは聞こえなかったことにした。

 

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