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4-29.平沼・美怜と星川。

〇美怜〇


 星川さんの礼に驚きながら、


「これぐらいはリクちゃんのためですし」


 私は笑みを浮かべる。

 すると星川さんも笑みを浮かべてくれて、


「どうです、一杯?」


 っと差し出してくれるのはコーラの瓶。


「頂きます。

 あれ、栓は……」

「ぽんっとな。

 どうぞー」


 と、指で瓶の蓋を外して、手渡してくれる。

 何気に凄いことをしている気がする。


「さっきは複雑な表情されてどうしたんですかー?」

「いえ、何だか自分が良く判らなくなって。

 望の横顔を観ていたらなんですけど」

「彼、美形ですからねー」

「げふっ……。

 星川さん⁈」


 口を付けていたコーラでむせ、噴き出してしまう。

 確かに、望は美形だ。

 初めて見たときから、そう思っている。


「取りませんからご安心をー。

 リクお嬢様の信頼を奪ったことへの意趣返しとでも思ってくださいなー」

「ぐ……」


 それは全くもって言い返せない。

 星川さんの真意を確認しようと顔を観るが、楽しそうだ。


「リクお嬢様にぶっ殺されるじゃすみそうにもないですしー。

 星川が出来なかったことに対しては礼を言いたいぐらいですし、ご安心を」


 っと、腰を屈めてくる。

 何というか、大人の余裕を感じるので、悔しく思う。

 周りの大人が落ち着きの無い人たちばかりなのもあるだろう。

 唯莉さん、お父さん、六道さん……碌な大人が居ないのはどうかと思うが。


「九条さんは弟が居たらあんな感じなのかもしれないとは思いますが」

「へ?」


 珍しい感想だ。

 私以外に、弟と捉える人は初めてじゃなかろうか。


「ムリして背伸びしてる感じが何処かあるんですよね。

 それが好ましくもあるんですが」

「あー……」


 間違いのない感想だ。

 望は時折、子供らしい部分を見せる。

 霞さんとの勝負する大人げない姿、私に甘える姿など、あれらは本来の望なのだとも思い始めている。

 

「そんな風な彼がホロっと、年相応の感情を出したら、ギャップ萌えはありますよねー。

 花火を観てとか」

「……それですかね」


 しっくりくる回答だ。


「基本しっかりしていて兄のようで、時折子供っぽい所もあって根っこは甘えたがりですから。

 抱きしめて欲しいとか言われた時は、それはもう……」

「星川は何を聞かされているんでしょうかねー」


 呆れられてしまう。

 何故だろうか、理解が出来ない。


「まぁ、家族仲は悪いよりはですねー。

 リクお嬢様も最近はソラお嬢様と上手くやっておりますし。

 昔はもう、ソラお嬢様の部屋に監視カメラやら盗聴器……おっと」

「……聞かなかったことにするんだよ」


 リクちゃんの闇が見えた気がする。


「収音機を持たれてた方の言葉とは思えませんがねー」

「あれは唯莉さんのなので……。

 とはいえ、年相応の少女らしさを取り戻しつつあるリクちゃんは可愛いと思います」


 ……ん?

 私はあることに気づき、疑問を口にする。


「あれ……?

 もしかしてリクちゃんと望は似た者同士?」


 意識していなかったことだが、そう辿り着くと合点がいく事案が多数ある。

 ムリをしていて、今現状で子供っぽさを取り戻している点なんか特にだ。

 立場も似たようなもんで、それぞれ次当主だ。


「あー、確かに似てますねー」


 星川さんも大きく頷いてくる。


「二人の笑顔とか、ほんわかするじゃないですか?」

「笑顔……」


 確かに。

 リクちゃんの笑顔も、望の笑顔も絵になるし、何というか抱きしめたくなる。

 庇護感をかきたてられる。

 ソラさんとお似合いかと思いきや、実はリクちゃんの方が根っこの部分ではお似合いな気がしてきた。

 望も甘やかすのも好きだし、純粋な好意に強く惹かれる傾向がある。

 成長しているリクちゃんを望が受け入れるのは時間の問題だろう。

 良い事だと思う。


「……?」


 また、胸元が変な感じだ。

 ちくっとしたトゲのような感覚。

 嘘のようにすぐ戻ってしまったが、確かに痛みを感じた。


「どうしましたかー?」

「いえ、何でも無いです」


 何でもない、うん、そうだと思いながらふと目線が船の前の方に向いてしまう。

 

「気になりますか?」

「そりゃ気になります、二人の姉としては。

 リクちゃんが変な事をしないか」

「そこが九条さんじゃない所は同意ですねー」

「望は唯莉さんと同じでヘタレなんで……」

「あー……。

 親や師匠に似るってやつですね。

 星川としては、九条さんと戦うことだけは避けたいですが」

「あははは……」


 何だかんだ負けなしの望である。

 私以外に負けたことを口でも、力でも見たことがあまりない。

 ソラさん?

 二人ともじゃれ合っているようなものなので、本気で勝ち負けしていない。

 あの二人は似た者同士というか、白黒のオセロみたいなものだ。

 喧嘩は同じレベル同士でしか発生しないとも言う。


「美怜さんなら勝てるとは思いますけどねー」

「……どうでしょうか」


 確かに勝ってはいるが手加減されている感じがある。

 私は一つ武器、トレースを手に入れたが、所詮、周りの最大値をコピーするだけだ。

 望相手だと、最大で引き分けだ。


「ゲームなら勝てるんですけどね」


 これに関してだけだが、実は負けたことが無い。

 私の部屋にあるPC、据え置き機問わずである。

 ジャンルも格闘、STG、SLG問わず、百日の長がある。

 逆に、外にも出ずにこればかりしていたのに、負けたらちょっとどころじゃなくへこむ。

 望曰く、私は眼が良いらしい。

 しかし、


「リアルでは体がついていきませんので」


 ミジンコ並みの体力であることは自覚している。

 最近、走り始めて特に思う事である。

 望についていけない所か、どうペース配分してすら判らないのだ。


「鍛えたらいいんですよー、星川みたいに」

「星川さん、割と知ってる中で極限な気がしますが」

「人としてのリミッターは外れていますけどー、結局は鍛えた結果ですからねー。

 美怜さんも遺伝だけで見れば、あの唯莉さんぐらいにはなれると思いますが。

 九条お父さんの方も、私の銃口を観て急所に合わせるぐらいは出来てましたんで」


 確かに、お父さんは星川さん相手にも、条件は有れど互角にやりあっていた。


「よければ、私がお教えしますよー?

 リクお嬢様に九条さんが家庭教師などで相手をされている間だけですけどー」

「……」


 言われ、悩む。

 確かに純粋に好意的な提案でもあるのだろう。

 同時にこれは星川さん的には、望とリクちゃんを二人きりにしたいという目的もあるのが判る。

 とはいえ、私自身、何とかしなければいけないと思っているのは事実で、だからマラソンを続けている。

 答えは決まっている。


「……お願いします」

「承りました。

 こちらこそよろしくお願いしますー」


 星川さんが、こちらに握手を求めてきたので握り返した。

 その手は力強かった。

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