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4-27.悪例と美怜。

〇美怜〇


「こっちの打ち上げに参加してよかったん?」


 っと、眼鏡に三つ編み、制服に着替えたいつもの小牧さんが心配そうに言う。

 その手には簀巻きのまま、猿轡をされた唯莉さんが抱えられている。


「何が?」


 何でもないように返す。

 決めたことだ。


「九条さんと花火」

「良いんだよ。

 今日はリクちゃんに迷惑かけたし……そこの唯莉さんが」


 何か言いたげにモガモガ言っているが無視だ。

 リクちゃんにこれぐらいは謝罪として受け取って欲しい。


「しかし、まぁ、事の顛末を聞いたら笑いものやったね?

 ねぇ、水戸?」

「うるせぇ……あそこまで惚れてたら手を出しようもないさ。

 あー、きっぱり諦めるさ」

「いい加減、周りを観たらいいと思うんやけど……」

「?」


 いつも通りの二人の掛け合いだ。

 数か月前までは、この三人で送っていた日常生活もこんな感じだった。

 望も、ソラさんも、リクちゃんも居ない。

 変わったのは私の容姿だけだ。


「しかし、まぁ、いつも通りミナモと花火が見れるのは嬉しい事なんだろな」

「……なによ、急に」

「後、数年したら、この景色もない可能性もあるのかと思うとな?」


 ふと、足を止めてしまう小牧さん。

 見れば、その眼を見開かれ、気づいたように驚きを示していた。


「俺も頑張って野球続けたいしな。

 市の外に出る可能性は高いしな」


 対して、なんでもないかのように言う霞さん。


「ミナモは道場つぐんだろ?」

「……そやね」


 一緒に行きたいと言えないのだろう。

 何というか唯莉さんも小牧さんも結局、自分を抑える。

 ……あれ? 自分も今そうなってないかな? と気づく。


「血は争えないんだよ……」

「?」


 小牧さんがクエッションマークを浮かべ見てくる。

 何ともである。


「でも、霞さんが河童だったなんてね」

「水戸、バラしたの?」

「バレた。

 仕方ないレベルだから、勘弁してくれ。

 後、お前が鬼だとバレてたのも理由だ」

「まぁ、これもそうだから、いずれはと思ってたし」


 っと、これと示された簀巻きを前に掲げる。


「唯莉さんなぁ……、あ、お久しぶりです。

 鬼だとは流石に思ってませんでした」

「こんなのに頭下げんでもええよ。

 今日も色々やらかしてくれたんやから……」


 扱いが酷いお母さんであるが、自業自得である。

 少し反省して欲しい。


「まぁ、水戸は悪い人外じゃないから大丈夫よ」

「それはまぁ、何年も付き合いあるし……」

「とはいえ、これみたいなのばかりじゃないから、会ったら逃げや?

 基本的には鬼の気に怖気づくから大丈夫やと思うけど」


 小牧さんがそう私に真剣な表情を向けるので、頷いておく。


 prrrr prrrr


『マスター電話です。

 望さんです』

「望か……」

「出なくてええん?」

「いいんだよ。

 望は頭良いし、言わなくても判ってくれるんだよ」


 一度決めたことだ、なら通すのが良い。

 出たら、揺らいじゃいそうだし。


「ミリィ、電話オフで」

『了解しました』


 これで完全に割り切れた。

 ふぅ、っとうつむいて深呼吸を一つし、前を向くことにする。


「予想通りだね?」


 望がそこに居た。

 怒っているような、呆れたような、予想内だと言いたそうな、複雑な顔だ。

 そしてその横にはリクちゃんも居る。


「お姉ちゃん、行きますの」

「ぇっと、え?」


 その小さな手が問答無用と私の手を取る。


「花火、一緒に特等席で見ますの」

「……二人で見てきたらいいんだよ?

 折角だし、デートしてきたらいいんだよ」

「お姉ちゃんも一緒がいいですの」


 っと、エメラルドグリーンの眼がクルンと私を観てくる。

 絶対に断らせない、そう強い意志が見える。


「リクにとって、お姉ちゃんが居て、望さんが居て、が一番良い形ですの。

 それに望さんがお姉ちゃんを置いておいて楽しめるとでも?」


 私に抱き着くリクちゃんはいつものな行動ではない。

 振りほどく行動を悪だと思わせるように、計算尽くの行動だ。


「振りほどけませんよね?」


 有無を言わせない迫力も私より小さい体からにじみ出て、言葉を詰まらせる。

 望とはまた違う、有無を言わせない凄みを感じる。


「……その言い回し、ズルいんだよ」

「お姉ちゃん♪」


 口では文句を言いつつ、リクちゃんの頭を撫でる。

 リクちゃんが気持ちよさそうにそれを受け入れ、ペンギンの様に身を振るえる仕草が可愛らしさを増長させる。


「望、この子、結構、腹黒いのか?」

「本人の前で言うのはある意味で大物だね、水戸。

 伊達にソラ君に継承権を移されない訳だよ」

「あー……」


 霞さんが失礼な事を言って望と話しているが、ある意味で真実だと思う。

 私の前では妹であるが、今、見せてきた当主モードの方もリクちゃんなのだ。


「美怜」

「なに」


 望に名前を不意に呼ばれたので憮然ぶぜんと返してしまう。

 人の気遣いを汲んでくれなかったから、ちょっと怒っているのだ。


「唯莉さんみたいに、自分を引くのはやめたまえ。

 自分が傷ついて、最後にはそう在るべきだと追い詰めてしまう。

 リク君に負い目を感じるべきは唯莉さんで、美怜じゃない」


 それは怒気を含んだ望の言葉だった。

 望は私の思考を汲み取ったうえで、否定してくれた。

 家族として、正しく訂正してくれているのだ。

 事実、唯莉さんは悪例だ。


「……それなら仕方ないんだよ」


 嬉しさで顔がにやけてしまう自分をうつむいて隠しながら受け入れた。

 悩んでいたのがバカみたいに思える。

 

「それじゃ、船に行きますの」

「……船?」


 リクちゃんの聞きなれない言葉に私は問い返すしかなかった。

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