4-25.美怜と水戸の正体。
〇美怜〇
「元気だしたら、霞さん」
っと、リクちゃんと望を学校ベースで見送って、霞さんと二人になったので慰める。
なんというか、暗いままの彼がウザかったのもある。
小牧さんに何度殴られても、笑っているのに、見慣れぬ弱気の姿というのが気持ち悪いのだ。
何だかんだ、小学生の頃からの付き合いだ。
幼馴染とも言える仲だ。
「と言ってもなぁ……。
望も良い奴だし、判らんではないが、はぁ……」
いつもなら切り替えるのに、ウダウダと言っている。
何ともらしくない。
「おっぱい星人が、カーニバルのコスプレイヤーにも反応しないのは重症なんだよ」
某ゲームのコスプレには結構、胸を強調するものもある。
何というか、女の私から見ても際どい。
そういうモノが前を横切っても意気消沈したままで、息をつくだけだ。
『別の女をあてがうのが正解とでましたが?』
「私は嫌だよ」
即答しておく。
確かに私の胸は大きいし、リクちゃんとも背丈は似ている。
しかし、これっぽちも恋愛感情は無い。
ただの哀れみで付き合おうとは思わないし、それは霞さんにとっても失礼だ。
「とりあえず、水を被せれば、良いとは聞いてるけど」
ドバドバドバっと、ミネラルウォーターを容赦なく頭から流す。
肌艶が心なし、良くなったが意気消沈は変わらない。
「俺と望、何が違うんだろな……」
「全部」
マジレスで返す。
基本的に私は嘘をつかなくなっている。
望を真似ている訳だが、最近は言葉を濁すこともしない。
口が悪くなったというのも、事実、望に影響されたからだ。
「判ってるんだよね?
望はハイスペックだよ。
眼は刃物のようでキリリと怖いけど、カッコいい。
運動も出来る。
性格も悪い様に見えて、面倒見がいい」
「……勝ててないもんな、俺」
はぁ、っとため息再び。
「リクちゃんとは星の巡り会わせなんだけどね。
最初は、ソラさんの妹だなんてこともお互いに知らなかったし。
運命なんて言葉は嫌いだけど、リクちゃんと望はそうとしか言いようがないんだよ」
事実だ。
私と望は仕組まれた出会いだった。
ソラさんと望の戦いは、目的に対して、必然だった。
だが、リクちゃんだけは違う。
本来、運命の人と言う言葉があるのなら、リクちゃんと望はそうなのだろう。
少なくともリクちゃんにとってはそうだ。
「はぁ……」
「ほら、もう一本かけてあげるから」
ザバザバザバーっと頭からかける。
「……ミナモに聞いたのか?
落ち込んだりした時に水をかけろって」
「そうだよ。
さっき聞いたんだんだよ」
「そうか」
……そう言えば、私、霞さんのことを『おっぱい星人』としか認識してないんだよ。
っと思い至り、好奇心が働いている部分を聞くことにする。
「霞さんも、もしかしてだけど、人間じゃない?」
突然の問いだったのだろう。
驚いた表情で私を観てくる、よく見知っている顔。
図星のようだ。
『マスター、何を?』
代わりにミリィが携帯から問うてくるので答える。
「小牧さんも鬼の血が流れているらしいんだよ。
その小牧さんの言葉の節々に、水戸は人じゃないって発言があるんだよ。
それに人間外に使う技があることも、唯莉さんや小牧さんは時折漏らしてる」
つまり、人外は存在し、
「霞さんも私たちと同じで人外の存在ということじゃないかなっと」
『流石に無いです』
ミリィを無視して、見知った顔を観る。
張り付いたような笑顔が向けられている。
威嚇でもない、悲しみでも無い、どうしたら良いのかわからない、そんな表情が霞さんに張り付いていた。
「霞さん、あなた、河童だよね?
勝負に対してこだわる所も多分、そうなんじゃないかなと。
望に負け続けてるのに、未だに挑み続けてる」
「うーん……平沼ちゃん。
そういう話をするときは消される覚悟があると思って話してくれ」
警告を含めて言われる。
「大丈夫だと踏んだから聞いたんだよ。
私もそうだから」
ぎょっとした顔をして、私を観る見知った顔。
その表情は見たことのないモノだった。
「小牧さんと遠縁、これで伝わるよね?
私は発現してないけど、唯莉さんを浮かべて貰っていいかな?」
唯莉さんは非常に分かりやすい例だ。
「あぁ……あの人も、あだ名通りに鬼なのか。
そりゃ、ミナモも勝てない訳だ」
一人で納得してくれる。
「なるほど、何だかんだ言って、平沼ちゃんに惹かれないのは怖いからか。
確かに凄い胸だと思ったが、何故か惹かれはしなかったからなー」
「それはそれで失礼なんだよ」
「改めて、自己紹介しておこうかな。
霞・水戸。
河童だ……とはいえ、人間の血の方が強い。
後、皿を頭にのせてる伝承は嘘だからな?」
「平沼・美怜。
鬼らしいんだよ」
『ミリィです。
AIです』
「人外しかいないな、ここには」
と、ここで霞さんは嬉しそうに微笑む。
『河童。
人を引きずりこむために化けることもあり、恐ろしい印象があったりします。
また、伝承では神として扱われたり、時代によってかなりイメージが違うと出てきます』
「まぁ、大体は誤解だ。
確かに人に追われて、恨みを持ってる連中もいるが、基本的にはもう人と同化して、変りはほぼない。
ここらへんは鬼と一緒だ」
確かに私も小牧さんも人として生活している。
霞さんもずっと人として生活してきているのを観ている。
「しかし、ミナモ以外にも人外が居るとはな。
望もか、もしかして」
「違うんだよ。
少なくとも、平沼と小牧以外は人間だと聞いてるんだよ」
「望は人間であれなのか……鳳凰寺は何となく理由が判るが」
ソラさんやリクちゃんの家にも何かあるのか、含みに興味が沸く。
とはいえ、三、六、九の家と言われるだけの歴史があるらしいし、所以があるのだろう。
……すると九条家って、もしかして何かあるのだろうか。
本来、私はそっちが正しい。
「ミナモの仕事のことはどこまで聞いてる?
こっちの稼業の話で」
「何にもだよ」
「だったら、言わない方がいいかな」
『小牧家。
インターネットの海からオカルト絡みもとか断片的に出てきましたが、眉唾物ですね』
「……」
目線が私の携帯に行く。
警戒している様だ。
『他言は致しませんし、言っても誰も信じません。
トラスト・ミー』
「私は何も聞いてないんだよ」
「はぁ……。
好奇心は猫を殺すから、マジで簡便な?」
霞さんが大きく、ため息をついた。
「とはいえ、少し気がまぎれた。
サンキュー、平沼ちゃん」
「いえいえ。
私も霞さんの事を初めて知った気がしたんだよ」
お互いに微笑みあう。
「とはいえ、あの天使、ホント可愛いな。
リクちゃん」
「ダメだよ?」
「判ってる判ってる。
望には勝負に負け続けてるんだから、とやかく言わないさ」
そういうサッパリとしたところも河童な気質なのだろう。
そんな物語を聞いたことがあり、ピースが合致した。
「小牧さんに慰めて貰えば?」
「なんで、ミナモなんだよ……」
と本気で言っている。
「何がミナモなんだよ……なんや?」
「げ、ミナモ」
っと、鬼のような形相で睨みつけている小牧さんが居た。
胴着を着ており、眼鏡も外し、髪も解いていていつもと印象が違う。
しかし、よく見知った顔立ちの小牧さんは仁王立ちだ。
「さっき、大立ち回りしたってきいて心配したわ。
容姿を聞いてあぁ、水戸だなと。
殴ってないのは聞いてるけど」
っと、霞さんに小牧さんが心配そうに近づいてくる。
「怪我はなさそうやね?」
「ミナモに毎日殴られてれば、頑丈にもなるさ」
「元々な気もするんやけど?
さておき、どうしたん、練習は?」
「終わったから、ミナモを観に来た」
小牧さんの顔が一気に赤くなる。
好意がバレバレ愉快なのに、霞さんは全く気付いていないようだ。
いや、先ほどの話を鑑みれば、鬼のイメージが強すぎて、そういう対象に見られていないのかもしれない。
すると色々と説明がつく。
「そ、そ、それなら、特等席で用意するからみてきーや。
平沼っちもどうや?」
断る理由は無かった。