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4-24.リクちゃんと望。

〇美怜〇


「お兄様」

「なんだい、リク君」

「ウチに性を教えてください」


 意を決した、エメラルドグリーンの強い意志を含んだリクちゃんの眼が望を射抜く。

 それを聞いた霞さんが暗い顔をしているが無視しよう。


「女にしてくださいの方がいいですの?」

「大変、嬉しい提案だが出来ない」


 望は予想通りだと、リクちゃんにキッパリと断りの言葉。

 リクちゃんの顔に悲しみが浮かび、


「九条氏、どいてください」


 家名を出す。

 そのエメラルドグリーンの眼には雫が浮かんでいる。

 だが、


「嫌だね、リク君。

 これは僕と君の話だ。

 逃げられないことは判っているだろう?」

「く……」


 名前で応じる望。

 リクちゃんが足に力を込めたのを観て、警告も兼ねてだろう。

 常人の範囲であるリクちゃんが逃げれはしない。

 望の指が壊れたままの現状でも、全然問題ないだろう。


「星川!」

「流石にこれは拒否しますよー。

 話聞いて頂いてから、それでもならお呼びください」

「くっ……」


 っと、腹心にも反抗されるリクちゃんは頬を噛む。

 望と一緒に来たのだ、話はついているのだろう。

 でなければ、望はまず、星川さんを排除する。


「安心したまえ、ちゃんと間違いを諭してあげよう。

 だが」


 答えを出してきているのだろうか、戸惑いの様子もない。

 こうなったら望は強い。


「美怜にはあんまり聞かせたくないのだが……」


 さておき、っと私に目線を一瞥。

 予想外だ、と読める。

 流石の望も私がここに来ることは読めなかったのだろう。


「別にいいんだよ。

 私もそこまで清純派というわけでもないんだよ」

「それは知っているのだが……まぁ、いい」


 知っているとはどういうことだろうか。

 疑問を視線にのせてぶつけておく。

 望は私から逃げるようにリクちゃんに目線を向けなおす。


「リク君。

 結論から言うが、僕は君が嫌いではない。

 それよりも好意的であると言えるだろう。

 僕を好いてくれているのは偶然の積み重ねとはいえ、ありがたいことだと思う」

「……なら、なぜですの?」

「君の為だ」


 言い切った望にリクちゃんがクエッションマークを浮かべる。

 狙い通りだと、望は口元に笑みを浮かべる。


「君は初潮がまだだね?」

「はいですの」

「……ホルモンバランスって知ってるかい?」


 クエッションマークが浮かぶリクちゃん。

 私も詳しくは知らない。


「簡単に言うと女性なら女性らしく、成長するための要素だ。

 例えば、平沼家の話は聞いての通りで、途中から成長出来なくなる。

 唯莉さんが好例だね?

 これの理由は遺伝的にホルモンバランスが崩れやすいかららしい」

「それが何の関係が?」

「つまりだ、リク君が今の状態でしてしまうとだね。

 ホルモンバランスが崩れて、成長を妨げる、何らかしらの障害を残す可能性があるのだよ。

 つまりソラ君に女性らしさで勝てなくなる可能性が出る」


 ソラさんを引き合いに出してきた望の狙いは判る。

 リクちゃんは何だかんだと、ソラさんを意識している。

 目下最大のライバルもソラさんだ。

 負けると言われると、感情が動くのは自明の理だ。


「……!」

「それに悠莉さんの話からも判ると思うが、成長が不十分な状態で行うのはリスクが伴う。

 僕はリク君を大切にしたい。

 僕だって男であるからにして普通ぐらいの欲はある。

 だが、それが君を傷つける理由になるかい?」


 同意を取りにかかる。

 そして、理解できるだけの時間を与えて、


「ならないだろうね」


 言い切った。

 答えは何だと聞き手に浮かばせて、与える手法だ。

 昔、学校での委員長選を制したやり方だ。


「……大切にしたい……」


 それと望の気遣いが心に刺さっているようだ。

 口の中で飴玉を転がすように、望の言葉を反芻するリクちゃんの顔が恍惚に染まる。


「リク君は今、熱狂に取りつかれており、正常な判断がついていない。

 そうだね?」

「……はい」


 っと、リクちゃんに近づき、望は腰を下げて目線を合わせる。

 そしてニコリと微笑み、柔らかくリクちゃんに抱き着き、


「先ずは落ち着こう、いいね?」


 頭を優しく撫でながら、声を掛ける。

 リクちゃんはビクンと一瞬、小動物のように震えた。

 それでも、驚いたように顔を赤らめ、コクリと頷く。


「ハシタナイ?

 知らないね、そんなことは。

 男だったらそう思われて嬉しくない人が居ると思うかね?

 否、居ないだろう。

 なぁ、水戸?」

「確かにだが、俺に振るな!

 ……すんごいショック受けてるから」


 鬼畜か何かの所業かな。

 望はワザとやっているのが透けて見えるので意地が悪い。

 霞さんの顔が悔しさで歪んでいる。


「彼も言う通り、僕も求めてくれることでは嫌いにはならない。

 なりようがないという話でもあるがね?

 そう言った感情を向けてくれるというのはむしろ嬉しい」

「はい……♡」


 リクちゃんの顔が綻び、望に強く抱き着く。

 観てて思う、いつもの望だ。

 私が子供作ろうと暴走した時にも抑えてくれた望で、理性的な望だ。

 しかし、私の中でこのジゴロどうしてやろうかとぐらいには、モヤモヤとしたものが沸く。

 とはいえ、


「良かった……」


 これで一安心だ。

 リクちゃん相手なら仕方ない。

 あのまま拗れてもよくはない


「望お兄様。

 リクのこと、大切ですの?」


 再びの問い。

 聞き返しだが、あえてだろう。

 ギュッと、望に抱き着く力を強くするリクちゃん。


「あぁ、大切だね。

 そう思えるぐらいには感情が動いている」

「お姉ちゃんやソラ姉様と比べても?」


 キツイ質問だ。

 私なら言われたくないし、ずるい問いだ。

 本来、リクちゃんが好きなのであって望は答える理由は無いのだ。

 しかし、答えなければ、あるいはノーを突き付ければ、望はリクちゃんの言葉に対して負い目となる。

 イエスと言えば、ソラさんにアドバンテージを取れる。

 リクちゃんらしいとも言える一手だ。


「判らなくはないけど」


 私も一番に観て欲しいから判るので、そう口の中で言葉を転がした。

 否、私の場合は、女でなくても望には一番に見て欲しいのだが。

 家族だから。


「……まだまだだね?」

「……あ♡」


 望は小さく答えを告げながら、抱きしめる力を強くした。

 するとリクちゃんは満足したかのように、声を漏らし、胸元に頭をうずめる。

 ズルいやり方だがリクちゃんを傷つけない意味では正解だろう。

 言葉の印象を五感で打ち消したのだ。


『マスター、ああいうのを女たらしというのですか?』

「その単語は間違いないんだよ」


 ミリィの突っ込みに、お父さんのことを人たらしと言っているが望こそがそうだと強く思った。

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