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4-23.望と星川。

〇望〇


「九条さんは、リクお嬢様のことをどうしたいんですかー?」


 リク君を発見する少し前、唯莉さんの件をお祭りの実行委員会などへの根回しで時間がかかっていた。

 何とかかんとか片付けて二人でリク君を目掛けて走っている時にそう聞かれた。

 リク君の位置はGPSで判るとのことで任せている。

 星川氏の口調は軽いモノだが、その視線は厳しく僕を観ている。


「どうしたいんだろうね、僕は」


 だが、明確な答えは無い。

 正直な話、僕はリク君の好意は戸惑い半分、嬉しさ半分で受けていた。

 別に体面上の話で、ソラ君と付き合っているからとか、一夫一妻を厳守だとかそう言った考えは当然に無い。


「ソラ君にしたってそうなんだけどね?

 最初は戸惑ったし、素直に受け取ることは出来なかった」


 そもそも美怜に対してもそうな訳で、家族という前提があったモノの、無条件で受け入れてくれている関係には非常に感謝している。

 その意味で、唯莉さんの企みは的を得ていた訳だ。


「単純に、僕は好かれるような人間では無いからね。

 嫌われて、虐められて、その復讐をして恨まれて……。

 だから、好かれるということに戸惑いがあるわけさ。

 どうしたら良いのか判らないのだよ」


 何でこんなことを、美怜でも無いのに話しているのだろうと、疑問が浮かぶ。

 とりあえず、周りに居ない大人だからかもしれないと、理論づけておく。


「なるほどですねー。

 それで決めかねていると。

 ソラお嬢様も未姦通のようですしねー」

「女性がそういう発言はどうかと思うがね?」


 あはは、と星川氏が笑う。


「女性扱いされるの慣れてないですから、どうしたらいいのか判らないんですよー」


 意趣返しだったようだ。

 一本取られたような感じを覚えるが、不思議と不快感は無い。

 

「一般的に言えば、僕は許嫁が居る身で、九条家の次の当主な身分だ。

 ソラ君を娶れば、それこそ九条家と鳳凰寺家の関係は明確に良好だと示せる。

 僕自身、今ではソラ君に指輪を送るぐらいには好感度が高い」


 だが、


「僕も驚いたことだが、独占欲はどうやら強い方でね?

 他の人にあの好意をぶつけてきてくれるリク君を失いたくないというのは事実だね。

 正直な話、モノにしたいという欲があるのは事実だね」


 この話で美怜の顔も浮かぶが、家族で在るからにして当然だと処理する。

 性とか、恋とかいう話の対象ではないし、それ以上に依存同士な訳だ。


「ふむ。

 一般的な回答で言えば、最低ですねー。

 独占欲と言えば、女性側もそうなんですから、男の方だけ多を認めろというのはエゴですからねー」


 っと、内容は否定だが、星川氏の口調は軽い。


「結局、リクお嬢様やソラお嬢様とのお話次第ではありますからね。

 恋だとか愛だとか、あやふやな理由でモノを言われなくて安心しました」

「ドライだね、君も」

「旦那様は何だかんだ情に弱いですが、私はそれを切り捨てて育てられましたので」


 まぁ、育て親が悪いのだろう。


「結局は、人間は何をしたいか見定めて、それに合わせて現実を変えるしかないので」

「……経験かね?」

「はい」


 僕と似たような価値観だ。

 しかし、何だろうか、底が読めない。


「聞いても?」

「単純な話ですよー。

 火傷だらけで何もできず、それを悔しく思った。

 拾われた恩すら返せない

 だから、私は今の星川になったわけですよー」


 っと口でどうとでも無い様に言うが、僕と同じなのだろう。

 努力を積み重ねた重みが感じられる。

 僕もお父さんに認められよう、そうあろうとして、今の自分になった。

 成程、僕が星川氏に感じているのは共感なのだろう。

 だから、こんなことを話していると納得出来た。


「九条さんもそうでしょう?

 九条・望とは本当のあなたの名前ではないですしー」


 だから、その答えにはコクリと頭を縦に振るしか選択肢はない。

 サングラスの奥。

 その瞳がニコリと微笑んだ気がした。


「何処まで知っているのかね?」


 とはいえ、警戒をしつつ、聞く。

 本当に汚い部分を見せたことはソラ君はおろか、美怜にも見せたことが無い。


「関東のことはあらかた。

 全部、奇麗にしているのも確認してますんで、それが問題にならないことも」


 スイッチが入りそうになる。

 消さなければいけないのではないかと思考が回り始める。

 一呼吸。

 思考を戻す。

 この人なら知っている可能性はある。


「六道氏かね?」

「はい。

 旦那様から伝言ですよー。

 九条からは全部聞いてるし、その上で気に入ってるから、と。

 例え、ソラを同じように貶めいれる算段をしていた過去があっていたとしてもじゃぞ。

 っとのことですねー」


 掌の上という奴だろう。

 この前の結婚式の意趣返しも含めて言いつけてあるのかもしれない。


「ご安心を、ソラお嬢様にもリクお嬢様にも言っておりませんからねー。

 人間、言わなくても良い事というものはあるものですからねー」

「言うべきことではあると思うがね、僕は」

「それはご随意に。

 ともあれ、九条・望さんが本当の名前で無いことは、養子だと聞いているからですよ。

 養子になる前の話は聞いておりませんしねー」

 

 孤児院の話が出てきてトラウマを刺激されることもないと判り、一呼吸。

 自分が制御できなくなる話は、今、この場では避けたい。


「とはいえ、先ほどの唯莉さんみたいなことは勘弁してくださいね?」

「それは間違いないね?

 とりあえず、今、この場は落ち着かせる。

 リク君が逃げるための指示を出しても従わないようにお願いしたいが?」

「リクお嬢様の為ですからねー。

 了解ですー」


 ただ、っと付け加えるように彼女は続ける。


「傷つくだけで、糧にならないのは本意ではないですので。

 今回のは処理がこじれたら、リクお嬢様のトラウマになってしまいそうですしねー。

 間違いない処理を願います」

「判った、約束しよう」


 ふと、丘の上にくると見知った姿が三つあった。


「美怜……と水戸?」


 予想外の人物が二人も居た。

 とりあえず、水戸をどうしてくれようか。

 状況を伺いながら近づき、


「違いますの!

 私の大好きな、大好きなお兄様は、リクの事をちゃんと見てくれて。

 間違ったら諭してくれる人ですの!」


 思いがけず、リク君から嬉しいことを言われた。


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