4-22.美怜、到着。
〇美怜〇
東舞鶴駅についた瞬間、騒動が起きていた。
いつぞやのチンピラが、祭りの警備に囲まれていたのだ。
「嫌な予感的中かな……」
っと、様子をうかがうが、リクちゃんは居ない。
チンピラに姿を晒す前にと私もそこから離れる。
いかんせん、私の容姿は目立ちすぎるし、相手の記憶にあるだろう。
「なにしてんの、唯莉さん」
「いやー、簀巻きやね?
三対一で負けてもーて、見世物にされとるんや」
っと、次の人だかりにいくと、唯莉さんがグルグル巻きにされ電柱から吊り下げられていた。
その胸元にはプラカード。
『作家、平沼・唯莉先生の舞鶴高等学校の伝説の再現です。
まつり実行委員会許可済み』
何が起きたのかわからない。
しかし、
「先生ファンです!」「いやー、いい試合だったなー」「いや、ホントに小さいのな」
っと、一緒に写真にとられたりしているので、ある意味で人寄せになっている。
「で、リクちゃんになんであんなこと教えたんですか……」
「そういうことを教えるのも大人の義務やろ?
どうせ鳥のも三塚のもおしえてなかったんやろし」
聞いてみたが、悪いことをしていないと言い張る唯莉さん。
しばらく、放置しといていい気がした。
「……で、望は?」
「ミナモちゃんと今、事後処理中」
唯莉さんをそのままにし、離れて望に電話をしてみる。
が、電波の悪い位置だと機会音声が流れ、繋がらない。
望にはおろか、リクちゃんにも、星川さんにもだ。
祭りが混んでいるのが理由かとも思う。
「リクちゃん……」
嫌な予感とリクちゃんの顔が浮かび、焦りで強く携帯電話を握りしめてしまう。
『マスター』
「何?」
携帯から話しかけられるが、ぶっきらぼうに応えてしまう。
どうせ今の現状で役に立たないのだと決めつけたからだ。
『花火用に祭りの間、一般共有されている定点カメラにリクさんの姿が』
「⁈
何処!」
声を高めてしまう。
指示された位置に急ぐ。
少しは体力がついてきているらしい、それほど苦でも無い。
坂をのぼり終えると流石に息が切れたが。
「……嫌なんです!」
「とはいえ、覚悟を決める必要はあるぞ?」
リクちゃんが良く知った顔に迫られていた。
イヤイヤとリクちゃんが横に頭を振っているのに、何かを強要するかのようだ。
「霞さん……なにしてんだよ!」
思い浮かぶがリクちゃんのことが理想だとか言っていた記憶と、今の現状だ。
っと、頭が沸騰した感覚に襲われ、身体が動いた。
走り出して、
「……⁈」
霞さんのお腹に体当たりをかましていた。
まるで自分の体ではないかのように力が出ていた。
完全に不意をつけたのか、よろめく霞さん。
『男性の場合、急所を狙うと効果的ですわ』
というのはソラさんの言葉だ。
その言葉に従い、膝で蹴りをぶち込む。
奇麗に入ったのか、悶絶し、地面に転がる霞さん。
「お姉ちゃん……⁈」
「もう大丈夫だよ、そこのセクハラおっぱい星人に何をされていたんだよ!」
っと、リクちゃんに抱き着きながら安心させようとする。
「ぇっと、相談に乗って貰っていただけですの」
「……ん?」
言われ、冷静になる自分が少しづつ出てくる。
霞さんは、おっぱい星人とはいえ、悪意のある人ではない。
それは小学生からの付き合いで間違いない。
「……霞さん?」
恐る恐る顔を向けると、ピクリとも動かなくなった霞さんが居た。
「ごめんなさい……!」
「いやいいさ、ミナモで慣れてるから」
っと、笑みで返してくれるのは幸いだ。
ここは先ほどと同じ場所。
ベンチに霞さんをリクちゃんと二人がかりで運んだ。
そして携帯が唯一繋がった小牧さんに言われるまま、買ってきた水をかけたところだ。
それで治ると言われ、確かにその通りになった。
「しかし、あの平沼ちゃんが暴力とはなー」
「うう……」
責められているというよりは感慨深いなと言われているようだが、自己嫌悪が激しくなる。
長年の付き合いの中で初めて暴力した気がする。
「おっぱい星人とは……?」
「……この人、胸にしか興味がない変人さんなんだよ。
性的にも観てこないから安全といえば安全なんだけど」
とはいえ、リクちゃんに聞かれると正直に応えてしまう。
「まぁ、事実だしな。
男なら当然だと思うんだぞ」
「それを自身で公言するのはどうかと思うんだよ……」
否定する気が無いことは知っているからとも言うが。
竹を割ったようにサッパリとした性格なのは昔からだ。
「リクちゃんのことを助けてくれてありがとうございます」
「いやまぁ……助けるだろ?」
それなら小学校で私が虐められてた時も助けて欲しかったとは思うが。
これは出会う前だし、クラスも違っていたからだからなのだから、仕方ないことではあるが。
さておき、
「で、何を相談していたの?」
「望への恋心の整理」
「あー……」
霞さんが項垂れながら言うので、可愛そうになる。
不憫である。
ようやく自分の理想を見つけたと思ったら、もうその子は他の人が好きなのだ。
そして霞さんは基本善人で、相手の意思を尊重する。
「はいですの。
お兄様の子供を体が求めてしまっていてどうしたらいいか……。
それにはしたないと思われたら、もう、身体が砕けてしまいそうで……!」
うん。もっと酷かった。
こんな言葉を私もリクちゃんから聞きたくなかったし、霞さんはもっと聞きたくなかっただろう。
クフフと脳裏で唯莉さんが笑うのはどうにかして欲しい。
とはいえ、リクちゃんの顔は恋する乙女そのものだ。
顔を赤らめ、眼を潤ませて、呼吸が速い。
「重症なんだよ……」
私自身も該当する欲望はコントロールしているモノの判らなくはない。
事実、望には隠している。
「俺は砕け散ったが……。
というわけで、覚悟を決めて望に会えと言っていた訳だ」
「うう、嫌ですの。
嫌われたら、リクが変わってしまったと思われたら……」
重症だ。
とはいえ、この世界は行動しなければ結果は出ないと、望も言っている。
「……まぁ、霞さんの言う通りしかないんだよ。
胸のことと成績以外ならマトモのは保証するし」
「平沼ちゃん、口悪くなったよね……」
「褒めたつもりなんだよ?」
「……望がうつってる……」
褒められたが、さておき、
「リクちゃん、思いの丈を望にぶつけてみたら?
今までも十分、危ない発言してるから大丈夫だよ」
それにだ、
「リクちゃんの知っている望はそんなことで人を判断するかな?
そんな人にリクちゃんは恋したのかな?」
「違いますの……」
そしてリクちゃんはもう一回、心を確かめるように頷く。
「違いますの!
私の大好きな、大好きなお兄様は、リクの事をちゃんと見てくれて。
間違ったら諭してくれる人ですの!
飾った言葉で安易な慰めもせず、真摯に向き合ってくれるですの!」
そして拳を強く握り、強く言い放った。
「嬉しいことを言ってくれるね、リク君」
望がリクちゃんを観て、微笑んでいた。
星川さんも複雑そうな顔をサングラスの下に隠しながらその後ろに居た。




