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4-21.電話後:リクの悩みと霞・水戸

〇美怜〇


「つまり、望と子供を作りたいと身体が求めていたのを唯莉さんに暴露されたと。

 性行為の説明付きで」


 何をしているんだろうか、お母さん。


『ぅう……恥ずかしくなって、望お兄様の顔を観るのが……。

 そしたら頭を整理するために一人になりたくて、逃げてしまって』


 リクちゃんの思考を読まなくても混乱しているのが判る。

 これは直接会って話したほうが良いかもしれない。

 声が色艶を含んでおり上擦っている。


「……星川さんも置いてきたのかな」


 こうだろうという予測を聞く。


「はいですの」

「あー……。

 リクちゃん、今から行くから変な人についていかないように」


 ゲームでよくあるパターンを回避しておくことにする。

 大抵はここで悲劇が起きる選択肢が出る。

 祭りの日、浮かれた人も多いだろうし、リクちゃんは可愛い。

 リクちゃんが悲しむのは見たくもない。


『判りましたの』


 っと駅前に場所を決めて通話を切る。

 制服に着替えながら、パソコンへ声を向ける。


「ミリィ、リクちゃんを捕捉しておくことは出来るよね?

 防犯カメラでも観れるよね。

 学校ので実験してたから」

『可能ですが、ハッキング等は法律に……』


 ミリィを観れば、悩んだ仕草を見せているだけだ。

 その姿は昔、おどおどしていた私自身に被って、イライラが募っていく。

 とはいえ、理解できた。

 自分の価値観や常識から一歩踏み出すのは決断が必要だ。


「そしたら、リクちゃんの携帯の位置情報を把握お願いするんだよ」

『それは……』

「わからずや!」


 っと、私は議論を切り、西舞鶴へと向かった。



〇リク〇


 お姉ちゃんに連絡をしたら少し落ち着いた。

 走った。

 人の波をぬうように走り、いつの間にか北吸トンネルも抜け、東舞鶴駅前に居た。

 最近、マラソンしているからか、疲れはない。


「はぁはぁ……熱い……」


 しかし、体を木陰に落ち着けると体の火照りを感じてしまう。

 まだ呼吸は乱れていないのに、動悸が激しい。

 まるで自分の心臓で無いようだ。


「お兄様ぁ……♡」


 思考を落ち着けると浮かぶのはお兄様の顔。

 すると、更にドキンと心臓が跳ねてしまう。

 いつも抱いている望お兄様への気持ちが、それ以上に溢れ出てきてしまっている。


「んっ♡」


 お風呂場で見た望お兄様の姿が思いだされ、ピクンと、お腹の奥が跳ねた。

 初潮も来ていないのに、望お兄様のことを思うだけで、寂しく感じてしまう。

 つまり、子供が欲しいと雌になっているのだと自覚してしまう。


「こんなにもウチは望お兄様の事が……」


 ハシタナイと思われるのだろうか、怖い。

 ウチは初めての感覚に戸惑い逃げてしまった。

 あの場に居たら、何を望お兄様に求めてしまうかという恐怖もあった。


「顔をどう合わせればいいんですの……!」


 言って頭をブンブンと振る。

 手を差し出されたのに、その手が取れなかった。

 望お兄様の悲しげな顔が浮かぶ。

 今まで見たことが無いそれはリクの心に突き刺さっている。


「はぁ……」


 考えるが答えは出ない。

 帰ってしまおうかとも思う。


「いつぞやの……!」


 タイミングが悪いことは被るものだ。

 声に振り向けば、二度、ウチに突っかかってきた男性が怒りの形相で詰め寄ってきていた。

 観れば、数人仲間とみられる人もいる。

 逃げなきゃ……!

 足を走らせようとし足がもつれた。

 腕を掴まれ、囲まれてしまう。

 

「よう、久しぶりだなぁ。

 散々な目にあったぜ……」

「助けて下さいの!」


 声をあげるが、周りは遠目に見るだけだ。

 確かに偽善でケガをしたら、と思うと、ウチも動けなくなるだろう。

 星川のガードを外したのが悔やまれる。

 ソラ姉様や望お兄様ならこんな人たちは苦にも成らない。

 お姉ちゃんだって、何とかするだろう。

 頭を回せ、ウチだって鳳凰寺の次期頭首だ。


「はぁ……俺の連れなんだけど、どいてもらえるかな」


 人の輪をかき分けて声を掛けてきたのは知らない男性だった。

 スポーツをやっているのかガッツリとした体型と、丸刈りが印象的だった。

 制服姿で判断すると、お姉ちゃんたちと同じ高校の人だ。


「……あ?

 白髪の男でも、女でもねぇ、お前は誰だよ」

「名乗る程のモノでもねーよ、っと。

 缶ジュースの束、やるから勘弁してくれ」


 っと、彼の手元から空中に投げられる缶ジュースの束。

 ウチも含め、男たちもそれに視線が奪われの上を向き、


「よっと!」


 それらの一つに彼の投げた石があたり破裂した。

 ジュースの雨が降り注ぐの雨が見え、


「顔伏せてな」


 ウチの体が持ちあげられながら言われたので、顔を下にする。

 同時に冷たい液体が夏の暑さを緩和するのを感じられた。


「……っあ!」


 周りの男たちは、顔を背けるのに間に合わなかったのが砂糖の入った炭酸が目に直撃し、苦悶の声をあげる。

 その上に中身の入った缶が雨の様に降り注いだ。

 ゴン、ガンゴンと鈍い音が響く。


「逃げるから捕まってろよ……!」


 彼はウチをお姫様抱っこにしたまま、走り出した。



「たく……練習、早めに切り上げてミナモの様子を見に来ただけなのに。

 差し入れもパーだし……まぁ、暴力沙汰にならなくて良かったが」

「ありがとうございますの」

「普通は助けるもんだからキニスンナ」


 赤レンガ倉庫の裏手にある山の上、そこまで私を運んで疲れたのかベンチに座り込む彼。

 悪い人ではなさそうだ。


「鳳凰寺の妹だよな?

 ウチの制服着ている理由は突っ込まないが」

「ソラのことをしってますの?」

「クラスメートという奴だ、望や平沼さんやミナモと一緒だ。

 朝、走っているのを見かけたことがあるんだが、記憶にない?」

「あー……」


 知らない人ではないという判断がついた。

 確かに朝、見かけたことがある。

 ミナモという文字も確か、あの小牧氏の下の名前だ。


「鳳凰寺・リクちゃん。

 次当主とか、望のことが好きだとか、話は聞いてる。

 俺はかすみ水戸みと、よろしくな?」

「はい、よろしくお願いいたします。

 改めて鳳凰寺・リクです」


 問題なさそうだ。

 というか、そこまで深く考えているような顔をしていない。

 嬉しそうに笑う彼の顔からは悪意は読み取れない。

 何というか、いい意味でバカっぽい人というのがウチの第一印象だった。


「望は確か、高校のブースか……そこまでは一緒に行くわ。

 あいつなら何とかするだろ」


 っと、彼は言うがウチは横に首を振る。

 怪訝そうな顔をされるので、


「今、会い辛いんです」

「好きな人相手にか?」


 コクリと縦に頭を振り、


「望お兄様の子供を欲しいと体が求めてしまいますので」

「ぉ、ぉう……」


 何故か、近くの木に頭を付けてバンバンバンと拳を叩きつけ始める。

 クエッションマークが浮かぶが、とりあえず置いておくことにした。

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