4-19.電話前:健全なデート。
〇望〇
「デートですの♪
ついにソラ姉様を出し抜けました……!」
デートと言えばそうなのかもしれない。
こんな感じで上機嫌のリク君を伴ってお昼ご飯休憩に出た。
笑顔で僕の腕に抱き着かれている。
女性であることをアピールされている気がするが、それは無視しておく。
「何か食べたいものとかあるかね?」
周りを観れば屋台がずらりと列を成しており、何でもある。
「初めて見るモノばかりで悩みますの。
こういう所は初めてですから」
「あー……」
三塚のあの人を浮かべると、まぁ、さもありなん。
後ろに居るであろう星川氏も進んでこんなところに連れてこないだろうし。
過保護な環境で育てられていた箱入りなのは良く判っている。
「お好み焼き、やきそば、イカ焼き……名産だからか生牡蠣なんかも出ている。
……僕もアワビを露店で焼いているのは初めて見たね?」
「迷っちゃいますの」
と結局、お好み焼きだ。
理由は、
「望お兄様に初めて教えて貰いましたから、好きなんですの」
と、ヒナギクが咲いたような、あどけない笑顔で言ってくれる。
計算しているのか、あるいは無垢なのか、どっちか判断しかねる。
しかし、どちらにせよ言われると嬉しくはなるのが人間というモノだ。
リク君あざとい。
さておき、
「祭りの手伝いの件、改めて礼を言う。
ありがとう、リク君」
「いえいえ、こういう所でポイントを稼いでおかないとソラ姉様に勝てないので」
みなと公園まで足を延ばし、二人でベンチに座って食べ始める。
尚、素直に打算を見せてくるリク君は腹黒い笑顔を浮かべている。
最近、
「それにお礼は……き、キスで良いですの」
「はい、キスでつくった蒲鉾」
「判ってていってますの!
意地悪ですの!」
といいつつ、僕の差し出した蒲鉾フライを美味しそうに食べるリク君。
舞鶴の蒲鉾は柔らかさがウリの名産品だ。
最近、小田原などの他所にあわせて硬くしようとしているらしいが、柔らかいままで良いと思う。
「うー。
どうやったらリクの事を認めてくれますの?
具体的に」
「貯めこまれるよりずっといいし、努力の方向を間違えない素晴らしい質問だ。
しかし、回答に悩むね?」
リク君が不思議そうに曇りの無い無垢な眼で僕を観てくる。
「簡単なのは僕に勝負で勝つことだがね。
全然具体的ではなくて申し訳ないが」
「前も言われましたの。
それをどうやってかが判らないんですの……」
リク君から見れば僕は巨大な壁にでも思えるのだろう。
「知っての通り、ソラ君と僕は敵同士だった。
といっても一方的に貶めた訳だが。
そして恋をしてくれて、僕に勝って、今では悪くないと思える関係がある。
それに美怜にも色々負けている」
美怜に関しては、勝ち負けで判断するような関係でも無い。
更に言えば、認めて欲しいとも逆に思う関係で在る訳だが。
美怜の魅力に負けているとも言えば、負けているのだろう。
どうしようもなく、彼女は僕の依存先だ。
「まぁ、一例さ。
リク君は妹みたいに扱う一面の方が大きいからね?」
「それはそれでいいですが、悔しいですの。
ちゃんと女として観て欲しいですの」
「そういう言い回しが出来るのは十分女性だとは思うがね」
「子ども扱いですの、それを言うのは……」
まぁ、こういう話が出来るのは楽しいとは思うが、それを口にはしない。
人間何だかんだと言って、好意を示してくれる人を邪険にできないのだ。
リク君が頬を膨らませるのを、嬉しく思える。
「リクだって十分に大人なんですから」
えへんと胸を張る。
そこに関しては確かにソラ君に比べても大人ではある。
それを言えば、美怜に比べて子供になるわけだが……。
胸が無い方が美人形容できる周りというのはどうかとも思う。
なお、嘆きの壁の小牧君は知らない。
さておき、
「そういえば、リク君にファンが出来たな。
商店街でみかけたり、走っているのを見かけたりしたとかで聞かれた」
「……うーん、どうなんでしょうね、それ。
下手するとその人死にかねませんの」
「九条さーん、その人の情報くださいなー。
沈めてきますので」
地獄耳か何かであろうか、いつの間にか後ろに現れる星川氏。
「一応、友人なのでね?
勘弁してあげてくれたまえ。
なお、声を掛けてきたら、容赦なくしてもらって構わないがね?」
「はーい」
と、言いつつ、情報をメールで渡すと気配が消える。
水戸は良い奴とはいえ、リク君を託せるかと言われるかと聞かれると無い。
せめて僕を超え……そんな人材はいないね、うん。
「望お兄様、本当にお兄ちゃんみたいになってますの」
言われ確かにと思う。
……最近、ますます独占欲の強い兄ムーブになってるきがするね? うん。
家族が無かった分の反動で美怜にも強く出ている感情だ。
「……それより恋人ムーブして欲しいですの。
妹ポジならソラ姉様には出来ないことですが、そこで固定されるのは嫌ですの」
っと、上目遣いをした緑色の眼で見てくる。
「九条さん」
不意に家名を出された。
ただ、その声はいつも家名をだす時のモノではなく、微笑みが浮いている。
まるで試すような物言いだ。
「……望さんの方が良さそうですの。
九条と言うとなんか堅苦しいですので」
「それはそれで妹ポジションというアドバンテージを失うかもしれないがね?」
「うーん、難しいですの」
コロコロと表情が変わるリク君。
それも彼女の魅力ではあるが、本人は気づいていないのだろう。
嬉しくなった僕はポンっと頭に手を当てて、美怜にやるように撫でてあげる。
「まぁ、他の人から見れば十分、彼氏彼女に見えるかもしれないがね」
「~♪」
っと笑顔を綻ばせ、嬉しそうにしてくれる。
「さて、食べ終わったし、小牧君の演舞の時間も近い。
見に行ってみようか?」
「はいですの♪」
っと、腕に抱き着いてきた。




