4-18.非日常:美怜とお留守番。
〇美怜〇
「望は楽しんでるのかなぁ」
っとクーラーの効いた部屋で新しくなったパソコンを触りながら一人呟く。
お父さんが誕生日に送ってくれたモノだ。
最新式のゲーミングPCを娘に送るのはどうかと思うが、色々スペックが凄くて持て余していたのだ。
「ミリィ、これでいいかな?」
『はい、問題ないかと』
携帯で繋いだミリィがそう保証してくれるのでパソコンを再起動する。
そして起動が終わり、アプリケーションをダブルクリックすると、ミリィが画面に映る。
そう、ミリィを動かしてみようと思ったのだ。
「出来たね。
カメラもあるけど、そっちからも見えてる」
『はい、問題ないです』
結果、全然問題なく、細やかに動いている。
携帯のスペックとは比べ物にはならない描画に顔がにやけてしまう。
『マスター。
これでミリィのアバターを使ってゲーム中継とかも出来ますよ』
「それは魅力的だよ」
出来ると言われて、やってみたいと思うぐらいには実況動画に慣れ親しんでいる私である。
アバターもあるし、超スペックパソコンも揃った。
ゲームの腕前だけは自慢出来るレベルだし、トークさえ何とかすれば出来てしまう。
「とはいえ、それは望に言ってからかな」
『?
それはミリィが信用ならないという事ですか?』
「違う違う。
望は、私が相談したい相手なんだよ。
それすらも目的なんだよ」
『……理解不能です』
「まぁ、これは私が望に対して依存症だからなんだけどね」
誰に言った所で私と望の関係は理解されないモノだ。
それが生まれたばかりのAIなら猶更だ。
『ミリィもある意味で、マスターには依存しております。
これは自己の確立が難しくなるからです。
美怜さん、あなたの反応や言葉で私は自分を作っているのですから』
「……それは私の望との関係にそっくりだね」
今ある自分は、基本的に望によって作り出されたと言っても過言ではない。
元々の素養を引き出しているのだと望は言うのだろうが、結局、それが許さる環境にしてくれたのは望だ。
確かに、私は望が居なければ自分がどう進めればいいかわからなくなるだろう。
依存的な意味でミリィの言っていることは正しい。
『理解しました』
一歩成長したらしい。
こうコミュニケーションを取っていると、ミリィのAIは驚異的なモノだと感じる。
当然、詳しくないのだが、人と話している感覚に陥ることがあるのを凄いと思うのは間違いないだろう。
「ミリィ、今、お祭りの方も観てるよね?」
『はい』
っと、ミリィの視点がパソコンのウィンドウに映し出される。
小さな子供が驚いたように手を振っている所を対応している様だ。
「私と話していても、対応してるんだよね」
『はい、スペックさえあれば同時対応可能ですので。
聖徳太子のようなことも出来ます』
「望は近くにいる?」
『いえ、先ほど、リクさんと確認できた方とお昼に向かわれました』
またデートか……。
っと、私の中で黒い感情が沸く反面、リクちゃんにも頑張って欲しいと思う私が居る。
だからこそ、昨日、林間学校から帰ってきたリクちゃんに代理を依頼したのだ。
「望はソラさんもリクちゃんも娶ってしまえばいいんだよ。
六道さんの言う通り」
っというのは私がズレているからだろう。
唯莉さんの件は悠莉さん一人に選択を絞ったお父さんが悪いというのが、私の中で出始めている。
両方という選択肢を取れれば、正直、あんな喜劇は起きなかったに違いない。
私にとっても悪い話ではない。
「そうすれば、家族が増えるんだから」
『マスター、それは法律的に、また道徳的に疑問が持たれます』
「そうだろね、うん」
でもね、と続ける。
「法律やルールを守ることが幸せにつながるかというと疑問に思うんだよ。
確かにそれらを外れれば、罰せられたり、ペナルティを得る。
とはいえ、この件に関して言えば、犯罪ではなく、他者に迷惑をかけることもない」
『……理解不能です』
ここで理解された方が怖いのかも、っと思うが続ける。
「ちなみにミリィ、そもそも重婚の定義は?」
『婚姻届けを受理した場合に二重になっていることです』
「そもそも婚姻届けの提出は出来るの?」
『出来ないです。
受理されることがありません。
稀に間違って受理されて、そこで発覚、検挙されます』
やっぱりな、と思う。
私を確信を得て、ミリィに右目だけ赤い視線を投げる。
ミリィが驚いた様子を見せるが、これを見せるのが初めてだからだろう。
「つまり、法律に無い形で妻にすれば問題ないんだよ。
当人同士の了承を得ていたうえという条件で聞くよ?
多人数と家族関係、この場合は性的関係や子供をもうけることを含みで、を持つことは法に引っかかる?」
これが通らなければ六道さんがソラさんの件で逮捕されている。
『……いえ、不倫などは民事なので、同意があれば問題ないです。
子供にしても婚外子の扱いです』
「望の道徳感は家族観以外は無いし……。
そういう風に誘導すれば、良いんだよね……」
民事とか、法律とか、婚外子は良く判らないが、私は納得した回答を得られたと眼を戻す。
楽しくなってきている自分が居るのは、唯莉さんの影響なのかもしれないなと思うが。
『マスター……一つお聞きしても?』
「はい」
『マスターはお兄さんと結婚したいと思われないんですか?』
「……どうなんだろ?」
不意をつかれた質問だった。
今の論でいえば、確かに私も入ることが出来る。
近親相姦の概念は私と望には当てはまらない。
血縁的には他人だし、それは問題ない。
「……どうなんだろう?」
浮かぶのは望の顔。
嬉しくなる。
「子供作ろうとか言えるぐらいには、望のことを家族として観ているんだよ」
『それはおかしなことではないですか?』
「無責任だと怒られたんだよ」
望は私を家族として観ており、そこで家族という定義で動いている。
彼の家族観一緒に寝ることすら躊躇っていたものだ。
当然、性交渉はあり得ないだろう。
とはいえ、
「望と性的関係を結ぶことについて、有りか無しかで問われれば……。
積極的に有りなんだよ」
キスの件からだ。
あそこで覚えた刺激が忘れられず、望を使ったこともあるし、たまに使う。
性的知識は唯莉さんの資料で人並み以上にある。
ただ、それらと結婚とか、そういった感情の動きは合致しない。
「望の思考をトレース……」
眼をつむり、深く潜る。
望の思考は複雑だ。
他の人をトレースするのとは格段に脳を動かす。
一番彼の人格に与えた影響があるであろうトラウマの件が全容を把握していないことも大きい。
家族観という意味でも大きく影響を与えているのは判る。
もしかしたら性格的に似ているソラさんの方が私より追える可能性すらある。
とはいえ、
「やっぱり、家族なんだよ。
それ以上、それ以下でもなく、それが私に向けてる感情かな……」
とはいえ、
「家族が一番上に来てるから、それ以上が無いんだよ」
これが結論だ。
恐らく、ソラさんと結婚しても良いと思っているのは確かだ。
リクちゃんにも惹かれつつあるのも確かだ。
しかし、それ以上を私に向けてくれていることは、今段階の結論だ。
なんというか、こそばゆい。
「結婚しなくても私たちは家族なんだよ」
私はそれで十分ではないかと思い、思考を取りやめた。
とはいえ、望のことを深く考えてしまい、身体が火照っているのを感じる。
「……していいよね」
望の家族観で考えれば見せられないが、今は家に私しかいない。
手を下着の中に入れようとし、
prrrrr!
いつもは無言の携帯が鳴った。
名前を観たら私の妹のリクちゃんなので当然、取る。
『お姉ちゃん!
ウチ、エッチな子だったんですの!』
泣きそうで、今にも感情が爆発しそうなリクちゃんの声が私の脳裏に響いた。




