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4-8.日常:保健室二人でも色気は無い。

〇望〇


 保健室。


「暑いんだよ……」

「心頭滅却すれば火もまたぬるいさ」


 クーラーが壊れているこの部屋は暑い。

 窓から外を見れば、陽炎かげろう

 夏真っ盛りである。


「誰もいないから脱いでもいいかな、制服」

「却下だ却下。

 冗談でもそういうこと言ってると、品が無くなる」


 とはいえ、美怜の制服は汗で透けており、それはそれで艶めかしい。

 豊満な胸と黒いブラジャーが自己主張している。


「皆、プールで涼んでるのかな……」


 プールの授業。

 僕は右手が骨折しているため、美怜はアルビノによる日焼けが起こるために参加していない。

 基本自由にしていいとは言われているモノの、勉強をしてしまうのは僕も美怜も真面目なのかもしれない。

 とはいえ、それも終わり雑談に興じている。

 

「私は泳げないわけだけどね」

「僕は唯莉さんにみっちり教わったからなぁ。

 船の上から落とされたり」

「それ前も聞いたけど、よく無事だったね……」


 あの人曰く、人間死ぬ気になれば覚える理論とのことだ。

 最近思うに、唯莉さん自身が悠莉さんあたりにやられたことじゃないかと疑っている。


「天橋立で確定かな、デート」

「だね。

 思ったよりも良さそうだ。

 夏は牡蠣も美味しいそうだ」

「それは舞鶴も一緒だよ」


 美怜が大げさだなと笑ってくる。

 

「泊りでも良いんだが。

 どうしたい、美怜は?」

「そうしよっか」

「そしたら温泉宿か……」

「家族風呂のある所で」

「そういえば、温泉話が出た時にも話していた単語だが……」

「家族で貸切のお風呂の事だよ?」

「それは貸し切り風呂ではないかね?

 ……あるな、単語として」


 調べると出てきた。

 最近はファミリー層をターゲットにしたサービスとしてやっているモノらしい。

 確かに一緒に入れない子供たちがいると眼を放すことになるのは不安だ。


「家族風呂か……まぁ、今更ではあるか」


 家でもやっていることでもある。

 その延長と思えばまぁ、ありなのだろう。

 家よりは確実に広いだろうし。


「……」


 逆に考える。

 確かに家族風呂という単語は存在する。

 家族で入るお風呂であり、確かに僕らにとっては良いのではないか?

 なら、逆に楽しまなくてどうするのだろうか、ポジティブが大切だね?


「望、楽しそうだね?」


 言われ、思考が戻る。


「楽しいに決まっているだろう?

 美怜とデートするんだからね。

 計画も楽しめる!」

「そこまで言われると照れるんだよ……」

 

 珍しい反応だ。

 いつもは食い気味にどんどん来るのに、頬を赤らめて両手を当てている。

 僕が美怜に感化されているように、美怜も少しずつマトモになっているのかもしれない。


「少し調べたところ、天橋立とは神社の境内らしいね。

 この神社、伊勢神社が元あった場所みたいだね。

 元々、伊勢神社は点々とその所在を移しており、その一つらしい」

「へー、伊勢神宮と言えば、三重だよね」

「元々は丹後半島にあったのを、天照あまてらすさんが一人で寂しいからって豊受とようけびめを呼び寄せたことに発端とするみたいだね。

 比沼麻奈為ひぬまない神社だがね、それは」

「マナイと言えば商店街だけど」

「字が違うが、関連はあるのかもね?」


 商店街は真那井まないである。


「寂しいから呼び寄せるって人間みたいだよね」

「神とは得てして人間と変わらないモノなのかもしれないね。

 とはいえ、神という概念を作り出したのも人間であるからにして、人間らしさは抜けないのかもしれない。

 逆に自然の理不尽を体現したような神もいるけど」


 ともあれ、日本は古来から神と近しく接してきたのは確かだ。

 何処にでもいる八百万の神とは伊達ではないのである。

 さておき、


「温泉のある宿の予約だね。

 お昼はそこら辺を散策するとして。

 ディナーはあったほうがいいね。

 朝食は有ればいい程度かな……さてさて」

「そうなの?」

「得てして、そういう店はお酒が伴う店が多いからね。

 トラブルは少ない方がいい。

 それにセットにした方がはずれが少ない」


 経験則的な話だ。

 お父さんも大体そうする。

 あの人の場合は、違う理由もあると言えばあるが。


「これに決めようかな」

「どれどれ……一棟貸し……?」


 美怜が疑問を浮かべてくるのも無理はない。


「温泉もプールもついてる物件の一日貸しはこちらでは珍しいね。

 料理も部屋で食べれるらしいね。

 泉質は金か、これは僕も初めてだ」

「……高校生には不釣り合いな場所だったりしない?

 ドレスコードとか」

「一棟丸々貸し切りだから、気にしなくていいんだがね?

 さて予約完了っと。

 ソラ君と水着を買ってきたまえ。

 リク君の家庭教師は夏休みだから土日以外もいれていたが、別の日に振り替えて貰うとする」


 美怜が躊躇しそうだったので決めてしまう。


「水着……?」

「そうだ、水着だ。

 評価が高かったのはプールもついていたことだ」

「何で?」

「美怜、泳いだことあまりないだろう?

 それならこういった場所でなら人目を気にせず、夜に泳げると思ってね?」

「あ……ありがと」


 美怜が僕の顔を観て、そして俯く。

 どうしたのだろうかと思い、考えると、


「それに泳げなくても、僕が教えるから安心したまえ。

 唯莉さんのように船から落としたりはしないからね?」

「それなら安心なんだよ」


 図星だったようだ。

 ホッとした表情を僕に向けてくれる。

 確かにその点は配慮すべき点だった。

 反省。


「さて、宿と日程迄は決めた。

 夏休み中になるが、これはこれでヨシ」

「望のギブスも取れてる頃だね」


 右手の小指の話だ。

 左手を使えるとはいえ、やはり不便である。


「そうだね、金曜日は委員会の夏祭り前の集まりがある。

 木曜日に予定通りギブスがとれるか、先生に診てもらっておくとしよう」


 計画はゴールが決まると段階的に他の事も決まってくるものである。

 楽しみになってきた。

 今まで、僕の中に旅行で楽しむという概念が無かっただけに新鮮である。


「望、楽しそうだね」

「そりゃそうだ、遠くへ行くときは必ず何か目的があった。

 経験を積むなり、お父さんの指示だったりなわけで。

 純粋に遊びというのは初めてかもしれないね?」

「ふふ、それは良かったんだよ。

 私も旅行初めてだし。

 修学旅行なんかも行かなかったしね」

「お互い、初めてだね?」


 そういうと美怜は嬉しそうに顔を綻ばした。

 それだけでも計画をして良かったと思える自分が居ることを自覚していた。


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