4-6.日常:水戸と胸のお話。
〇望〇
「望、俺は理想の女子を見つけた!」
っと、宣言してくる水戸。
さっき吹っ飛ばされたのに懲りていないようだ。
「胸が大きな女性かね?」
「それはある。
だが、それだけじゃない!
商店街で見かけた女の子でさ。
凛々しい感じかと思えば、少女のような笑顔を浮かべて楽しそうでほんわかした」
「明日は雨かな。
胸以外で水戸が女性の魅力を語るなんて」
「そうですわね、槍かもしれませんが」
「お布団干せないと困るんだよ」
「お前ら、俺が胸しか見てないと思ってるだろ」
「「「そうだね(だよ)(ですわ)」」」
僕、美怜、ソラ君の言葉が重なると水戸が「うっ」と詰まらせる。
「私の胸、観てるもん」
「平沼ちゃんのは何というか、アンバランスさが芸術的でな……」
「水戸、もっと褒めていいぞ?」
「とは言え、良いものではあるが何故か怖い気もして、アバッ!」
次の瞬間、いつものことだが打撃音が響いた。
小牧君が殴ろうか悩んで、やっぱり殴ったのだ。
吹っ飛ぶ、水戸。
皆慣れたもので、一瞥すると昼食に戻る。
驚くのは廊下の他クラス生徒ぐらいなものだ。
「女性の価値は胸じゃないんや……!」
そう怒りを呟きながら、弁当箱を水戸の机に置く。
「いてて。
確かに俺が悪い訳だが、男として仕方ない部分もあるんだ」
何事もなかったように戻ってくる水戸はそう話してくる。
……いつも思うが、小牧君の全力を受けれる水戸の耐久力はどこから来ているのだろうか。
「自分が対象になって判るけど、最低だよ?
小学生の頃からの付き合いが無ければ、通報するところだよ。
別に減るもんじゃないし、基本男性からの視線がここに向いてるから今更何だけどね?
邪気というか、他の人と違って霞さんのはそういうの無いし」
美怜の眼は青紫色のままだ。
水戸の行動に慣れていて、彼が性欲的に観ているわけではないと理解しているようだ。
そして諦めている節もある。
「そういえば、美怜と小牧君と水戸は小学生から一緒なんだっけか」
聞いたことが無かった話だと聞いてみる。
「そうだよ。
私が引っ越してきて小牧さんと会って、小牧さんの友達だった霞さんとも知り合った形だよ」
「ミナモとは友達というか、何というかなんだけどなー」
「水戸、その話は」
小牧君が水戸を真面目な眼で見る。
「をっとすまねぇ、そこは聞かないでくれ」
おどけるように謝罪をしつつ、壁を作ってくる。
何だろうね、この二人の間にあるのは。
約束だか、何だかまでは判るのだが、踏み込めて聞けていない。
「ミナモも平沼ちゃんも、クラスで馴染めてなくてさ。
そんな二人の窓口役をしてたのが俺というわけさ」
「成程、だからその恩を盾に美怜さんを視姦していた訳ですか。
望君、この女の敵は舞鶴湾に沈めて良いですか?」
「舞鶴湾が汚れるからやめたまえ」
「なら、島流しにしましょうか」
ソラ君が真面目に怒っているのを観て、水戸はひぇっと、声を上げる。
流石に何度か僕もアドバイスを貰っている恩があるので、
「せめて苦しまずに殺してあげようか?」
「そうですわね」
ソラ君と一緒に笑みを浮かべて、水戸を観る。
「水戸、あの二人は同時に敵に回したらあかんヤツや。
改めた方がええよ……真面目な話」
「ミナモが憐れみな眼を浮かべてくるとか初めてなんだが……」
「「ちょっと、骨までとかそうかと」」
「判った。
魅力的な胸を観れなくて大変残念だが、平沼ちゃんのは諦める」
これでホッと一息。
友人として認めている彼を手にかけずに済んだ。
ようやく弁当タイムである。
「はい、美怜さん、望君」
「はい、ソラさん、望」
美怜が持ってきたのはシンプルに炊き込みご飯と焼き鮭である。
これはこれで良いモノなのだが、ソラ君のお弁当箱と水筒が加わる。
彼女のお弁当箱の内容は卵焼き、野菜サラダ。
水筒はお味噌汁。
つまり二人でお昼を作ろうと二人で打ち合わせていたみたいだ。
仲が良い事でほっこりするね?
「で、その理想の女の子ってどんな子なんだい?」
おかずと炊き込みご飯を楽しみながら聞く。
「金髪ツインテールの女の子でさ」
「金髪ツインテール……」
「京都のカトリック系の中学生の制服でさ」
「んん?」
「朝、走ってるのもたまーに観るんだが、気持ちよさそうに走ってるんだわ。
その笑顔も可愛くてさ」
僕の頭の中に該当が一名。
「瞳の色は?」
「鳳凰寺と一緒な翠色だな」
間違いなさそうだ。
「リクちゃんだよね、それ」
「平沼ちゃん、知り合いか。
紹介してくれ! 頼む!」
「死にたくないならやめておいた方がいいですわよ」
と、代わりに答えるのはソラ君だ。
美怜も同意見だと、顔に書いてある。
「水戸、やめておけ」
「なんだよ、三人とも変な顔をして」
「その子な、ソラ君の妹だ」
「げ」
ソラ君の顔を観て、心底ヤバいと感じたのか、悲壮な顔をする水戸。
「あの天使が、この偽乳悪魔の妹だと……?
ひぇ⁈」
「ソラ君、美人が台無しになってるから、とりあえず落ち着こうか」
「ソラさん、お茶どうぞ」
般若だとかに形容できそうな顔はあまりして欲しくないモノだ。
美怜からお茶を受け取り、落ち着きを取り戻し、いつものソラ君に戻る。
ただし、ゲジ眉は吊り上がっており、怒りを示している。
「ともあれ、リクが可愛いのは認めますわ。
その点では審美眼を評価いたしましょう」
但しと付け加え、
「鳳凰寺家の次当主に何かしたら、冗談ではすみませんわよ?」
事実を述べただけだが、脅しのように聞こえる。
いやまぁ、一人、保護者がついているのでその人の反応的には正しいかもしれない。
「それにリクちゃん、望の事好きだから相手にもされないんだよ」
「……望、お前が憎いと初めて思った」
「視線が心地いいね?
ともあれ、リク君は妹みたいなものだがね?」
「……それ、平沼ちゃんと同じ扱いに近いって意味だよな。
お前のシスコン具合から考えると死を覚悟しろと言われた気もするが?」
「命拾いしたね?」
流石にこの手で友人を葬りたくない。
……さっきも同じような思考をした気がするね?
さておき、
「水戸。
遠くから眺めるぐらいにしとおきたまえ。
あの子には怖いボディーガードがついているからね」
「あー、あの黒服の無乳の人か。
何か怪我か後遺症を庇ってる感じがあるが」
妙な所で鋭い。
僕も美怜に言われなければ後遺症には気づかなかったであろう。
美怜がかつてやったように肌色の化粧で火傷を隠しているとのことだ。
「水戸、あの人、私と同じくらい強いからやめとき」
「ミナモにこう言わせるのか……」
割と謎の多い星川氏である。
「うう、悲しいなぁ」
こればかりは運命だと思ってもらうしかない。
僕もリク君を渡す気はないのだ。
独占欲だね?
さておき、
「夏休みも近いが、水戸は部活か」
「そうだなー。
今年は福知山に負けちまったから甲子園も出れないし。
顧問はOBから色々言われたみたいだがなー」
なお、舞鶴と福知山は何につけても仲が悪い気がする。
歴史で言えば明智家と細川家の件、今は公官庁の取り合いをしたり、何だかんだである。
細川家と言えば、鳳凰寺家が関わり合いがある訳だが、何とも。
「そういえば、望は?」
「美怜とデートだね」
当然の流れで聞かれたので、当然に返した。




