4-1.美怜の日課と自問自答。
四部開始です。
四部は日常回の詰め合わせの予定です。
〇美怜〇
最近、私は自身が変だと思う。
キスをこじらせてオカしくなったのは確かだ。
あれは気持ちが良すぎた。
また、望を観ると嬉しさが止まらなくなることがある。
時おり、無意識に望を眼で追っていることすらある。
「なんだろね……」
答えが出ない自問自答なのは判っている。
呟きながら、寝ている望の頬をつつく。
望はカッコいい。
顔の事で言えば、整った顔をしており、目鼻をシュッとしている。
短い白い髪は私とお揃いで、自慢の家族だ。
「えへへー」
嬉しくなる。
とはいえ、外見を気にしたことは無い。
というか、最初の印象は怖いだから、違うだろう。
「私の事を本当に思ってくれる、私の家族。
唯莉さんの件も望通りにしてくれた……」
依存同士。
お互いに欠けたら、世界の終わりだとそう言える自信がある。
私にとって、望は欠けることが考えれない存在だ。
逆に望も私がそうなのだろうという確信がある。
「キス……しよっかな」
っと、少し躊躇いがちに言う。
もし、この前みたいに舌を吸われたら体がどうなるか怖いというのがある。
「……そうだ」
閃いたので、私は望の唇に人差し指を当ててなぞる。
望の弾力の良い唇の感触。
「ぇい◆」
と、唇の間に忍び込ませる。
気持ちよく、そして背徳的な感じを覚える。
「なるほどなるほど……っ!」
ピクンと体が少し跳ねた。
吸われた。
指なのに、敏感に反応してしまった。
「唇の時はもっと凄かったよね……」
とはいえ、何となく判った。
望は寝ている間は口に入ったモノを吸う傾向にある。
ペロペロという感覚もくる。
嘗められている様だ。
「背徳的だよね、何か」
イケナイことをしている気分になる。
リクちゃんとかには見せられない姿だ。
指を外しながらあることを思いつく。
「……おっぱい当てたら吸うのかな」
ふと、何を考えているのだろうと、頭を振って自重する。
望が起きたら怒られるどころでは済まない気がする。
母と子なら判るが、姉と弟、兄と妹の関係ではない。
「何か違うよね」
私達は家族で在ることで依存しあっている。
枠を踏み外したら、壊れてしまう気がして怖いのだ。
「嫌だよ、望と別れるのは」
それだけは間違いない感情だ。
ともあれ、日課だ。
「頂きます」
細心の注意をしながら、唇を押し当てる。
これだけなら望は吸ってこないことが判ったので、安心してすることが出来る。
満ち足りた感じ、私に伝わる彼の温かみが伝わってくる。
彼が私のところに居ることが判り、それが幸せに感じられていく。
キスだけで、こんだけ幸せになれるのなら……。
「――!」
離れる。
私は今、何を考えたのだろうか。
「……望」
彼の顔を観る。
嬉しくなるがもっと欲しい、もどかしい気持ちが沸いてくる。
彼をもっと感じたいという原始的な欲求が沸いてくる。
頬が熱い。
「……美怜?」
望の眼が見開いて私を観ていた。
起きたらしい。
「顔が赤いが大丈夫かね?」
「だ、だ、大丈夫だよ!」
「ちょっと熱を測ってみるか、失礼」
望の左手が私のおでこを柔らかく触る。
冷たいヒンヤリとした手だが、私の心のうちは温かくなるばかりだ。
「大丈夫だな」
「……望、変なこと聞いていい?」
「美怜が自分で変だと自覚していることは怖いのだが、聞こう」
私を真っすぐ見てくる望。
「……エッチしたことある?」
「美怜、何を言っているんだ、君は。
妊娠したら死ぬ可能性があるというのに」
平沼家の呪いのことを言いながら呆れる望。
冗談か何かだと思われたのだろう。
「ある」
ハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
そして浮かぶのは良く知っている女性で。
「ソラさん?」
「いや、彼女とは無い。
清い関係さ。
する分には、お互いに問題は無いだろうがね」
「リクちゃん?」
「付き合ってすらいないのだが?
六道氏には姉妹で貰えと言われているが」
「まさか、小牧さん?」
「とりあえず、周りの名前をあげるのをやめようか、美怜。
水戸ではないが、少しも胸が無いまな板は興味の対象外だ」
望が渋い顔をする。
「昔の話さ。
それこそ、中学時代に復讐の手段として覚えるためにね。
聞きたいかい?」
黒い話が突然出てきて、私の心が冷や水を浴びたように静かになる。
「聞かない。
望、辛そうだし、私には聞いて欲しく無い事みたいだし」
「ありがとう。
――で、何故、そんな話を?」
「望を観ていたら、キス以上の事をしたくなったから」
正直に答えると、望の口がぺー太君のようにバッテン口になる。
「ディープなキスかね?」
「……おっぱい、吸ってもらいたくなった」
「何を言ってるんだ、君は」
正直に言うと、心底呆れた口調で返される。
「胸を吸う関係なんて、それこそ、親と子だ。
今度は美怜、僕の母親になりたくなったのかい?」
「ママと呼んでいいんだよ?」
「美怜ままー……って呼べるわけ無いだろ?
唯莉さんのことをママや母さんと呼ぶ努力はするつもりだが」
「それは私もだよ」
二人で笑いあう。
「元の美怜だね」
言われると、確かに先ほどまで望を深く求める感覚が無くなっていた。
望の言葉は時折、魔法のように感じる。
私を救ってくれる、穏やかにしてくれる、願いをかなえてくれるのだ。
「うん、ありがと。
何かおかしかったんだよ」
「いつもの事だと思うがね?」
「私の何処がおかしいんだよ」
「家族にキスを求める所とかね?
で、おはようのキスはするかい?」
言われ、望の唇を観る。
したい、でもさっきみたいな感情が沸くかもと思うと怖くなった。
けれども、彼に求められたのだ
だから、
「……うん」
向き合い、軽く唇を当てる。
先ほどとは違い、衝動的な感情は沸かなかった。
むしろ心は先ほどよりももっとポカポカして嬉しくなっていた。




