3-44.家族計画の余韻。
〇望〇
全てが終わり、僕らは家へ。
先ほどまで騒がしかった分、二人の家が寂しく感じる。
「唯莉さん、幸せそうだったね?」
っと、風呂を沸かしている間、二人でお茶の間で寛いでいると美怜がそう話題を振ってきた。
もうドレスは外しており、今は兎パーカーを羽織っているラフな姿だ。
あの後、二人に挨拶をし、見送った。
さっさと子供作れとお父さんに振ると、そのつもりだと返ってきたので、何ともである。
とはいえ、
「無事に終わってよかった。
まぁ、病院が先だろうがね?
唯莉さんに初潮すら来てなかったのは流石に想定外だった」
「そうだね」
っと、二人でお茶を飲みながら落ち着く。
唯莉さんの体に変化について思考を巡らせる。
さんざん殴られたり、投げられたりしていて、身体の時計が進んだ可能性がある。
とはいえ、妊娠した後がどうなるかは未知数だ。
体は子供でありながら、既に妊娠適齢期を過ぎている歳だ。
何とも前例がない話であり、お父さんの頑張りと六道氏のバックアップが必要なのは明白だ。
「唯莉さんに子供が出来たら、僕らの弟か、妹か……」
「想像つかないんだよ。
でも、妹なら望は溺愛しそうだよね、私みたいに」
「美怜こそ、弟なら甘やかしそうでね?
嫉妬しそうだ」
「大丈夫だよ、望以上は無いから。
望こそ、どうなの?」
「僕もだよ」
っと二人で意見が一致し合うので笑いがお互いに零れる。
「双子だったりしてね。
僕らとは違ってちゃんと血の繋がった」
「可能性としてはあるんだよ」
「美怜の家族観を真似しなきゃいいけど」
「……?」
美怜の顔にクエッションマークが浮かぶ。
相変わらずである。
とはいえ、美怜らしいと微笑みが浮かぶ。
「そういえば美怜のドレス姿、凄く良かったね。
ソラ君の見立てもあっただろうけど、瞳に合わせた色合いも良かった。
何より、とても新鮮だった」
っと、色々な雑事に追われ、ちゃんとした感想を言えなかったので改めて伝える。
感想は伝わらなければ意味が無いのだから、露出は必要だ。
僕らはエスパーではないのだ。
「……褒めても何も出ないんだよ?」
「じゃぁ、僕から出そう」
っと、顔を赤らめる美怜に出したのは二枚の写真だ。
「なになに?
あ、さっき皆でとってた写真と家族四人の写真なんだよ」
「美怜が持っていくといい。
データも今、送ろう」
「うん、ありがと、望」
美怜の白い眉毛がしなり、口元も柔らかく、嬉しそうだ。
美怜と唯莉さん、ついでにお父さん当てに送る。
「家族四人。
こんな日が来るとは思わなかった。
私はこんなにも幸せになれるとは思えなかった。
何度目かのお礼になるけど、私が望と出会う前の願いも叶えてくれてありがとう」
「そう言ってくれだけで、僕は報われるさ」
僕自身、美怜と同じ考えだ。
母親が出来るとは思っていなかった。
誕生日も祝えた。
僕的にはお父さんの結婚はついでではあるが、二人が幸せになってくれるのならいい事だ。
「写真の中の望も微笑んでるし、望にとっても良い事だったんだよ」
言われ、確かにと思う。
小牧君の家で見た、お父さんたちの笑顔に負けていない気がした。
ピロリん☆
唯莉さんからはラインが来た。
『ありがとや。九条・唯莉より』
これだけだったが、十分に頑張った甲斐があった気がするから不思議だ。
何だかんだ、
「今までの恩返しとしては上出来だろうね。
育てて貰ったり、色々世話になってたからね。
スッキリした。
これで貸し借りは無しと、そう言えると気が楽だ。
マラソンした後のテンションの様に爽やかだね?」
「ふふ、六道さんみたいなこと言ってるんだよ。
実際は情に弱いところも含めてね?」
「何をあの人に吹き込まれてるんだか……」
ともあれ、美怜の見立てなら事実であろう。
僕は結局、関係性を踏むこまれると弱い。
美怜、ソラ君、最近はリク君も対象になっている気がする。
「望は結婚したいと思ったことある?」
「無い。
というか、想像したこともない。
そもそもに僕に釣り合った相手というのが想像できなかった訳で。
これはお父さんが気遣ってくれた部分でもあるが。
美怜は?」
「無かったんだよ。
でも、今日見て、あ、いいなと思ったんだよ。
そんな妄想の隣は望だったけどね?」
言われ、まぁ、予想内だ。
親しい男性なんてのは僕ぐらいなものだ。
ここで水戸とか言われた日には、彼の明日は無かった。
小牧君とタッグを組んで寝込みを襲う所だ。
命拾いしたね?
さておき、
「ともあれ、結婚なんてのは墓場ともいうからね。
そこはゴールじゃなくて経過の一つだと、こう考えてはいる」
「ドライ過ぎない?
夢も希望もないんだよ」
「美怜も、結婚すれば全てがハッピーで終わることではないことは判っているだろう?
悠莉さんのように死別することもあるだろう。
そうでなくても、最後は老いて朽ちる」
諸行無常である。
「そこまでに色々あるだろうし。
唯莉さんの墓場での告白はそれを意図していたわけで」
「確かに死別が前提だったんだよ……」
「物語で結婚後が書かれない理由だね。
結婚というハッピーエンド、最高地点で幕を引くためだ」
「確かに、誰もその後の日常生活には期待が結婚という時点より持てないんだよ……」
真面目に話過ぎたかもしれない。
メデタイ日にする話ではない。
「さて風呂に入ろうかと思うが、美怜、手伝ってくれ。
片手だと何かと不便だからね?」
と右手の小指を示しながら言う。
今回の唯一の損害である折れた指だ。
尚、指輪は左手にしている。
「……水着、なくていいよね?」
「先に入っていいぞ?」
「うー、冗談だよ」
油断も隙もあったモノではない。
とはいえ、いつも通りである。
何というか、昔は耳を疑ったものだが、今ではそれに安堵すら覚える。
こんな生活もいつかは終わるのだろう。
それこそ結婚の後の死別した悠莉さんの様に。
はたまた炎にまかれたあの人の様に。
必ず別れは来る。
「美怜」
「何?」
突然、名前を呼ばれて不思議そうに小首を傾げてくる美怜。
「少し抱き着いてくれ」
クエッションマークが浮かぶ美怜。
それでも僕に体を近づけ抱き着いてくれる。
「……望、震えてる」
そして、耳元でそう気遣いの言葉をくれる。
「美怜がここにいるという事を確認したかった。
幸せだからね、今。
それが夢でないか、確認したかったのさ」
「私はここに居るよ。
望が望んでくれるから」
「ありがとう、美怜」
もし欠けたらと、怖くなってしまったのだ。
お父さんの様にトラウマになるかもしれない。
間違いなくなる。
「望?」
「少し、このままで頼む」
美怜はそんな僕を観ながら、
「私は望を甘やかすよ?」
と微笑んでくれた。
呼吸の音もスグそこだ。
けれども、
「美怜も震えてるじゃないか」
「望と一緒だよ。
私も望が居なくなったらって考えたら寒気がしたんだよ。
ちゃんと抱きしめるから、熱を伝えて?」
美怜の確かな感触に身を委ね、家族は嬉しいモノだということを強く刻みこまれていく。
そして僕は本当に彼女に依存しているのだと、改めて実感した。
更に強く柔らかいモノを当ててくる。
「もちろんだ」
僕らはきっと同じ感情を抱いているが、それが何かは判らない。
答えは出ないかもしれない。
それでも良いかもしれない。
お互いにこう求め合い、お互いの震えを止め合えれば上等だ。
それは正しく依存同士と言えるのだから。
第三部完!|ω・`)ここまでお読みいただきありがとうございました。また引き続きよろしくお願いいたします!
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