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3-42.メインイベント。

〇望〇


 ここまでは座興だ。


「誕生日おめでとうは会場で歌ったが」


 と、喧騒が残る体育館を観る。

 お父さんの良く響く声と、六道氏がここの校歌を高らかに歌っているのが外にも聞こえる。

 楽しそうだ。

 良かったとは思う。

 しかし、今から始めるイベントは僕が主人公だ。


「休憩かね?」

「はい」


 校庭のベンチから夜空を見上げていれば、気配が近づいてきた。

 ソラ君だ。

 ドレス姿のまま、隣へ座ってくる。


「今日は色々と助かった。

 ありがとう。

 あと、自分に合った色合いのチョイスでドレス姿も奇麗だね」

「ふふ、その言葉だけでソラは幸せ者ですわ」


 ニコニコと僕の言葉に嬉しそうに返してくれる。

 所々にあしらわれた緑色のレースの花、彼女の瞳と一緒の色である色合い、良く似合っている。

 彼女のセンスの良さがここぞとばかりに発揮されている。


「それにリクからも誕生日プレゼント貰えましたし」

「ほう」


 と見せてくれるのは緑色のエプロンだ。

 よく似合うだろうと、脳内妄想から結論付けた。


「ケーキは結局、ウェディング仕様だったね。

 結構、悩んでたと思ったが」

「方向性が決まって逆に良かったのですが手間はかかりましたわね。

 皆に助けていただきましたし。

 ……昔のソラなら、全部一人でやろうとしてパンクしてましたわね」

 

 自分の事を思い返してか笑みを浮かべるソラ君がそれはさておき、と続ける。


「良い予行練習にはなりましたわね」

「リク君の結婚式用かね?」

「いじわるですわね、本当に」


 意図して言うと、微笑みながら口をとがらせて返してくれるソラ君。

 いつも通りの僕らだ。


「一つ、過去にケリがついた。

 ありがとう」

「デートの時に言われていた件、事の顛末が最悪だった件は今回と別なんですのね?

 今回の過去も観ようによっては十分に最悪だったかと思いますが……」

「まぁ、唯莉さんの件は最悪というか、苦手になっただけだから。

 ともあれ、よく覚えているね?」

「望君との初体験ですもの」


 モノの言い回しか、こそばゆく感じる。


「話せるようになったら、話したくなったら、おしゃってください」

「ありがたいね。

 まだ、先になるとは思うけどね」

「ソラは望君のですから、いいんですよ」


 美怜との関係は当然に歪な訳だが、ソラ君との関係も当初から相当に歪なのだ。

 彼女ではあるが、美怜に指摘された通り、好きだと言ったことは無い。

 許嫁ではあるが、自分の所有欲を満たすために受け入れている。

 とはいえ、お互いにそれを楽しんでおり、受け入れているので悪い事ではないはずだ。


「怖い顔してますわよ?」


 考えが深みに足を踏み込んでいたらしい。

 心配そうに僕を観てくれるソラ君は、近くなって僕の顔を抑えていた。

 彼女の特徴的なゲジ眉も真剣だ。


「僕から好きだと言ったことが無いなと思って、考えていた所だ。

 ソラ君相手なら言えると思うんだけどね?」

「それは悲しめばいいんですかね?

 嬉しいと微笑めばいいんですかね?」


 ソラ君は僕から目線をそらし、夜空に向ける。

 絵になる。

 ドレス姿もあるが、彼女の整った横顔……金髪、褐色肌、ゲジ眉……全てが、月光に当てられて輝いている。

 言葉にすると陳腐に感じてしまうのが悔しい。


「好きだと言ってほしくないと言ったら嘘になりますわ」


 そして僕を観る。

 そのエメラルドグリーンをしたまなこは真剣だ。


「でも、好き以上に成っていただきければと、ソラは望みますので。

 言ってしまってそれで関係が固定される方が嫌ですわね」


 ゲジ眉と目を弓にして、微笑んでくれる。

 正直、ドキリとした。

 彼女は奇麗で魅力的だ。

 そして僕だけに向けられる表情も愛しく感じる。

 

「ふふ。

 望君赤いですわよ」

「僕も人並みの感情があるということだよ。

 そんなふうに言われて嬉しくないわけないだろう?」

「そう素直に言われるところも望君はズルいですわよね。

 ソラまで嬉しくなってしまいますわ」


 フフフと頬を赤らめるソラ君は可愛いと思う。

 ふと、その彼女の後ろに白い気配が。


「キスしてもいいですか?」

「ソラ君、僕もしたいのは山々だが、後ろに怖い人が立ってる」


 ソラ君が振り向けば、ニコニコとした顔の美怜が仁王立ちしていた。

 手には何やら袋が二つ。

 それをベンチに置きながら、笑顔のまま、


「二人で抜け出してデートかな?

 結構、探したんだよ?」


 笑顔をとは本来威嚇のためにあるという言葉を思い出した。

 ソラ君が美怜を観ると、お化けにあったかのように口をバッテンにする。


「いや、休憩してた所さ」

「ご休憩?」


 トゲのある美怜の言葉回し。

 オカンムリノヨウダ。


「美怜さん」

「何ですか、ソラさん!」

「先にされます?」


 ……美怜が固まった。

 珍しい反応だ。

 というか、ソラ君にこうされるのは初めてじゃなかろうか。


「えっと、うんと、えっと」

「今更恥ずかしがることでもあるまい。

 クラスで叫んだこともあるだろう?

 ほら、おいで」

「……ぅん」


 っと、座ったままで美怜に前に来てもらう。

 高さ的には美怜の方が高くなり、新鮮味がある。

 そして軽く、僕の唇を啄ばみ、離れてしまう。

 いつもより大人しい。


「やっぱし、ソラさんに見られてると調子狂うんだよ!」

「ふふふ。

 じゃぁ、次はソラの番ですね」


 ソラ君は隣で座った状態のまま、手を添えて僕の顔を彼女の方へと向ける。


「軽めでいいかね?」

「ご随意に」


 軽く、僕の唇を啄ばみ、離れる。

 

「人のキスを横で見るのは、何かいけないことしてる気分になるんだよ」


 っと、美怜が頬を赤くする。

 自分にされているでもないのに、何を慌てているんだか……。


「ソラは別にこれはこれで良いかと思いますけどね。

 美怜さんとは間接キスですし」


 と、ソラ君は自分の唇を右の人差し指でなぞる。

 僕と美怜の唾液で唇を塗っているようで艶めかしい。


「女の子同士なんだよ、それは……」

「いいじゃないですか、って前に言った覚えがありますね?」


 ふふっと、ソラ君が笑うと美怜も笑う。


「そしたら美怜さん、私とキスしてみませんか?」

「ぇっと、その、うんと」

「悩むならやめといた方がいいと思うがね?」


 美怜に助け船を出す。


「……ソラさん、やってみましょうか。

 誕生日ですし、特別です」 

「……判りました」


 受け入れられたソラ君が一瞬、どうしたらいいか悩んだのがゲジ眉の跳ね上げ具合から読み解けた。

 とはいえ、自分から言い出したことだと意を決したことまでは読めた。

 美怜がソラ君の前に立ち、屈む。

 そしてお互いに頭に手を添え、唇同士を軽く当て、そして離れた。


「……」

「……」


 二人が気まずそうに俯く。

 どうしたものやら。


「ソラさん、案外悪いモノじゃなかったですけど」

「……というか、触りだけでしたが弾力が良くて、病みつきになりそうです」

「ソラもです……」


 二人の顔を改めてみてみれば、頬が赤くなっている。

 まぁ、仲良くなることは良いことだと思考を放棄しておこう。

 僕としても二人が仲良しの分には問題ない。


「はいはい、二人とも感傷に浸ってないでくれたまえ。

 僕が嫉妬してしまいそうだし、誕生日プレゼント、渡したいからね」


 とはいえ、余り深く仲が進みすぎても寂しいので、現実に引き戻すことにした。



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