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3-37.仕込みは上々。

〇望〇


「お父さん!」


 妙法寺に向かう途中、お父さんと鉢合わせした。


「唯莉は⁈」


 肩で息をしながら、お父さんが問うてくることを観るに美怜は成功したようだ。

 流石、美怜である。


「鳳凰寺に拉致られて……!

 車で何処かへ!」

「っ!

 あいつの所なら、心身喪失した唯莉なら無力化できるか!

 唯莉に色々されてるから、意趣返しでもするつもりか……」


 嘘はつかない。

 お父さんを誤魔化すには細心の注意が必要だ。

 伊達に美怜の父親で、僕を育てた人ではないのだ。


「僕を足止めするやこんな書面を捨てていきました……」


 っと、六道氏からの手紙を渡す。

 封を蝋でしており、格式を見せつける様だ。

 ビリビリと焦るようにお父さんはそれを破く。


「……っ!」


 詳しい内容は知らないが、

 『唯莉を預かった』

 これにプラスアルファの挑発で頼んである。


「……」


 お父さんの眼に強い意志が宿った。

 観たことが無い、感情の動きだ。


「拝見していいですか?」

「あぁ……」


『唯莉、お前が要らないなら貰う。

 外人萌えが直ったと思ったら、ロリコンだからのう。

 丁度いい。

 孕ませば、悠莉みたいな娘も生まれるだろう。

 取り返したければ、小細工せずに因縁の場所に来い。

 お前のライバル、六道』


 プラスアルファ二乗ぐらいであった。

 しかも、お父さんが肩を震わせる程の威力があったようだ。

 幼馴染だからかツボを心得ているという奴だろう。


「……あの野郎……」


 そう怒りに駆られたお父さんが唇を噛んだ。

 しかし、ふとした瞬間、力を抜いて僕を観て笑った。

 

「望。

 お前が裏で糸を引いているな?」

「はて、何の事でしょうか?」


 ワザとらしさを消しながら、驚いたように返す。


「この手紙を受け取った時点で、お前なら開封している筈だ。

 開封しなくてもいい理由があるか、あるいは中身を知っていたかだが……。

 後者だろうな」


 想定の理由だ。


「……」

「図星か」


 僕は黙ったままで、相手の推論に身を任せる。

 勝手に自己解釈し、それを正解だと思わせることが狙いだ。

 こんな手法が普段通じる相手ではない。

 だが、今の彼は冷静ではない。


「美怜の行動とお前の不可解な行動。

 つまり、お前は俺と唯莉をくっ付けようとしているのは明白だ。

 望、お前は唯莉が逃げることを予想していた。

 となると、小牧の娘とお前の許嫁相手である鳳凰寺に話を持ち掛けるはずだ。

 唯莉を止めるにはそれぐらいする必要がある。

 そこで六道は色々と便宜を図る傍ら、あいつ自身は楽しみの機会を伺う。

 こんなところだろう」


 口元をバッテンに作る。


「では、僕の処遇はどうします?

 監禁でもしますか?」

「いや?

 息子の悪戯に本気になる親はいないさ……。

 あえて乗ってやろう。

 それにだ、僕のためを思ってやってくれたことだ。

 例え、六道を使っているようで使われていても、嬉しくないわけが無いだろう?」


 但し、と彼は続けて、


「息子を利用して今の状況を楽しんでいる六道……。

 おせっかいな親友はどうすかは決めてないがな?

 さてさて……」


 少年のような笑いをした。

 お父さんが僕に見せる初めての表情で、楽しみを感じられるモノだった。


「とりあえず、望、美怜を回収してきてくれ。

 場所は高校だ」


 と言い残し、大通りへ。

 タクシーを使うつもりだろう。

 その背中を口を曲げて見送る。

 きっと悪い笑みをしているのだおる。


「望、悪い顔してる」


 っと、言われ顔を上げると美怜がいた。

 肩で息をしており、急いできたことが伺える。


「美怜、バレた」

「それも想定内でしょ?」


 ニヤりと笑い返す。

 ワザと封筒は開かないままにした。


「これぐらい良いじゃないか

 六道氏に使われていた、そういう風に見せだだけだね。

 これで大人同士の喧嘩が無料かつ、お咎めなしでかつ、特等席で楽しめるのさ。

 反抗期としても大人しいもんだね?」

「ふふ、そうだね。

 お父さんはもっと痛い目にあえばいいのに」

「とはいえ、お父さんが勝つのが判っているからね。

 今から六道氏の敗北が楽しみだね?」

「そこは信頼してるんだ」

「僕を育てた人だからね」


 美怜が「そうだね」と納得しながら、息を整える。


「美怜も大概、お父さんにセメントだね?」

「唯莉さんを虐めすぎてるから、これぐらいは許されるんだよ。

 足長おじさんではあったけど、唯莉さんの方がよっぽど親しいもん」


 結局のところ、人間の親しみというのは触れる回数の多さ、つまりザイオンス効果も大きく占める。

 同じコマーシャルがテレビで何度も流れる理由はこれだ。


「実際、家族が出来て、よく理解できたんだよ。

 血が繋がっているだけなら、他人だと。

 血の繋がらない望や唯莉さんの方が、家族で在りたいと、そう思えるもん」

「血の繋がりより、実際の絆。

 全くもってその通りだね」

 

 とはいえ、ここで余りお父さんを貶めすぎているのもな、っと思う。

 僕だって人だ。

 僕を育ててくれたお父さんには恩も、気持ちもある。

 美怜とは仲良くして欲しい。


「とはいえ、ちゃんとお父さんしてくれるようにしてくれればなとは思うけど」

「それはお父さんの反省点だね?」


 杞憂だった。

 美怜は良い子だ。


「望、幽霊って信じる?」

「……唐突な話だね?」

「お母さんが私に言葉を言わせたんだ。

 お父さんが心配で出てきちゃったんだよ」


 ……ちょっと、何を言っているか理解出来ないが、否定はしない。

 そういう不思議なことも起こるだろう。


「どんな人だった?」

「私に似ていたんだよ。

 それと……愛が深い人だなっと感じたよ。

 私にもお父さんにも」


 美怜の眼は赤いが澄んでいた。

 やはり嘘はなく、感情が昂って、興奮しているのが判る。


「あんなにお母さんに思われる人なら、もっとしっかり娘の事も観て欲しいんだよ。

 だから、痛い目にあうべきなんだよ」


 美怜が嬉しそうに話す。

 事実なのだろう。

 なら、それを信じるのが僕だ。


「さて、あまり遅いと見世物が終わってしまう。

 急ぐとしようか」


 僕らも大通りに足を向け、タクシーを拾うことにした。

ここが最新話|ω・`)感想、レビュー、ブクマ、評価して頂いた方には感謝を! うれしくなります!


|ω・`)次はブクマ200迄@98! 総合点数500まで@196!

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