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3-33.当日、お父さんを出迎える。

〇望〇


 西舞鶴駅。

 人を美怜と待っていた。

 僕は黒いスーツ。美怜も黒いワンピース。

 別段、墓参りなんぞは黒でなければ行けないわけではないが、何となくだ。

 アルビノとのコントラストで目立つのか、ちらちらと視線が僕らに向けられる。

 旅行客さんや、僕らを写真に収めてどうするのかね……。

 美怜の可憐さなら判らなくはないが。

 さておき、


「お父さんを迎えるってどうしたらいいのか、判らないんだよ」

「普通にしてればいいさ、普通に」


 と言いつつ、僕も美怜の手を強く握っている。

 緊張、自分らしくもない。

 墓参り、唯莉さんの件をどうするか、そして誕生日。

 イベント尽くしの土曜日である。


「弱気な望は珍しいんだよ」

「……僕らしくなかったね」


 深呼吸。


「よし」


 気合の入れ直しが終わる。

 結局、唯莉さんとは連絡がついていない。


「多分、今日何処かで……墓参りでしかけてくるとは思うのだが」

「私もそう思う。

 恐らくはお墓の前」

「論拠は?」

「私が唯莉さんならそうするから」


 なら、正しいのだろう。

 美怜の能力に疑いはない。

 僕もそうくるだろうと予測している。


「唯莉さんがもし、お父さんに断られたらどうすると思う?」

「逃げると思うんだよ」


 美怜は赤い眼をして続ける。


「あんまり押しが強い人ではないから。

 自分でもそう言ってたし、六道さんの情報もそう根拠づけられてたもん。

 結局は家族計画を計画したのは、自分で一歩進めるのが怖かったのもあるんだと思うんだよ」

「同意見だ」


 僕は自分の読みが正しい事を確認しながら、続ける。


「唯莉さんが来る分には問題ない。

 問題は逃げられた場合だが、まぁ、それも手を打ってある」

「小牧さんに頼んだ件だよね?」

「それも一つだね。

 小牧君だけでは抑えきれないかもしれないから、一枚ジョーカーを配置している」


 さておき、


「もし、唯莉さんが逃げたらお父さんを説得してくれ。

 追いかけるように。

 最悪、その舞鶴に留まるように頼む。

 舞鶴市内なら何とかする」

「判ったよ。

 望が言うんだから、そうなるんだろうし」


 ニコニコと全幅の信頼を示してくれる美怜。

 僕も嬉しくなり、自ずと笑顔になる。


「お父さんとは私の方が多分、相性良いから。

 娘の扱いなんて、きっと初めてで戸惑うんだよ?」

「誕生日プレゼントをせがむのもありだね?」

「そうだね。

 お母さんが欲しいって頼むのもありなんだよ」


 黒い話を二人でしている気がする。

 何というか美怜は清き白いままでいて欲しいのだけども、最近、僕に染まってきている気がする。

 はたまた、今日墓参りに行く相手、悠莉ゆうり氏に影響されているのかもしれない。


「来たね」


 京都方面から特急電車、まいづる号が入ってくる。

 そして、現れたのは髪が白交じりになり始めたお父さんだ。

 品の良いスーツを着た初老。

 少し恰幅が良くなった気がする。


「お父さん、お久しぶりです」

「おー、望、久しぶり」


 笑顔を浮かべた気さくなお父さんに慣れないなと思いながら、どうしたものかと考える。

 トラウマが解消して以来、唯莉さん曰く、昔に戻ったとのことだ。

 僕としては知らないお父さんに近い。


「とりあえず、殴っていいですか?」

「反抗期かね?」

「はい、その通りです。

 ソラ君とのお見合いの件といい、美怜にレスポンスを返さない件といい、

 僕は怒っていい」

「なら、殴ればいい。

 望には殴る資格がある」


 開き直られる。

 く、そう言われると殴りたくなくなる心理まで利用されている気がする。

 殴ろう殴ろうと思ってた心が萎える。


「……なら、私が」


 パシン!

 

 乾いた音が響いた。

 放たれた平手の威力はないだろう。

 それでも、お父さんが目を見開いて呆けたことから効果はあったらしい。


「お父さん、お久しぶりです」


 美怜が自分の手が痛くなるのをさすりながら挨拶を行う。

 美怜の眼が赤くなっている。

 僕の代わりに怒り、叩いてくれた彼女を嬉しく思う。

 

「……娘に頬を張られるのはこたえるね……。

 久しぶり、美怜」

「メール、ライン、電話」

「?」

「何で返してくれないの?」


 お父さんが困り顔をしている。

 珍しい反応だ。

 言えない理由もあるのだろうが、それは彼の理由で在って、美怜にとっては良い訳にしかならない。


「すまない」

「謝れば済む問題じゃないんだよ。

 お父さんは私と家族で在りたいと言ったのに、それを為してないことに弁解を求めているんだよ」

「美怜と望に迷惑をかけたくなかったからだ」

「先に言えたでしょ。

 連絡が取れなくなるって、これぐらいは。

 それに望には迷惑が掛かってるんだよ、それをいうならちゃんとそれを為した後に言ってよ」


 手厳しい言葉だ。

 とはいえ、やはり美怜はお父さんと会話しても問題ないようだ。


「今後は善処する」

「善処じゃなくてやる、いいよね?」

「あぁ……」


 頷くお父さん。

 譲歩も何もせず、美怜はあっさり勝ってしまった。


「しかし、美怜。

 今のはすごく悠莉らしかったぞ。

 唯莉だと何だかんだ、自分を殺すからね?」


 何かを思い出すように目を細め、海の方向を向きながらお父さんは言う。


「知らないんだよ、お母さんなんて」

「そうだろね。

 唯莉に頼んで全部、痕跡は消して貰っていたから。

 そういえば、唯莉は?」

「知りません。

 きっとお父さんの我儘に切れて、愛想をつかしたのではないですか?」

「それはそれでいいな」


 そして自分を笑うような笑みを浮かべ、

 

「そしたら、望が唯莉を貰ってあげればいい」

「冗談を。

 お父さんが仕込んだ許嫁もいる身ですよ、僕は」

「ふふ、そうだったな。

 とはいえ、僕の様に純愛を通さなくてもいいと思うぞ?」

「そしたら、僕は……」


『美怜を貰いますよ。

 血縁は無いですし、養子同士なら問題ですから』


 と言ってやろうか悩んでやめる。

 止めた言葉にクエッションマークを浮かべて、見てくる美怜。

 美怜に聞かれた状態でこれを言うと、後が怖い。


「六道氏にはリク君、つまり姉妹で頼むと言われてますね」

「受けたらいいさ。

 両方とも器量よしのお嬢さんだろう?

 僕としても六道の娘なら、望にも十分だろうと思ったからあいつの提案に乗った。

 自分の息子ながら、合う相手はそうそう居ないと思うからな」

「確かにその点では、慧眼かと」

 

 ソラ君は言わずもがな。

 リク君も幼いとはいえ、自分で成長出来るようになり、将来性が高い。


「望を道具にした視点はあるよね?」


 赤い眼をした美怜がお父さんに詰め寄る。


「ある。

 とはいえ、それはそれ、親としても両方合致した結果だ。

 悪いようにはなっていないだろう?」

「先に望に伝えとくべきだったんじゃないの?」

「そしたら望は引く。

 どんなに美味しい御馳走を置いても、自分からは望は手を付けない。

 それは唯莉の影響だろう」


 確かに事前に知っていたら、僕はソラ君と許嫁になることを回避しようとしていただろう。


「お節介ではあった点は謝ろう。

 しかしだ、望はその点では唯莉に似てしまったからね。

 何事も踏ん切りがつかない。

 変わるためのきっかけを与えるぐらいは親としてしてやりたかったんだ。

 女を知れば男は変わる。

 体だけじゃない、付き合う、この事実だけでも変われる。

 僕がそうだった」


 美怜が攻め手に欠け、黙り込む。

 やはり純粋な話術だけでも、お父さんは凶悪だ。


「でも、やっぱり望に言うべきだったんだよ」


 それでもと、美怜は思考を纏めたのか言う。


「ちゃんと説明すれば、望だって考えた上で拒否も、肯定もした筈。

 家への義務感で縛り付けて、そうせざる得ない状況で判断させるのは、望の意思を冒とくしているんだよ。」

「意見の平行線だとは思うが、善処しよう。

 僕は僕なりに望を思っている。

 美怜は美怜なりに望を思っている。

 それだけの事だろうからね?」

「それだけじゃないよ。

 望を蔑ろにした事実には私は怒るからね。

 それが望を思ってだろうが無かろうが」


 今後はお父さんが黙り込む番だ。

 そしてフフフと笑い始め、大きな声になる。

 彼の魅力的な声に何事かと周りの視線が集まる。


「降参だ、降参。

 ダメだね、僕も。

 娘には勝てない」

「息子には勝てるような言い草はどうにかしたいと思うのは正しい感情ですよね。

 反抗期的に」

「それは良い。

 それこそ、望が成長をしている事実を証明させるからね」


 くっ、ああいえば、こう返ってくる。

 とはいえ、今も了承が出た。


「望、いいよ。

 お父さん相手は私がするから」

「助かる。

 ただ、僕も方法が無い訳ではない。

 美怜が出来たんだからね?」


 だから、折れていない左拳を握り、


「人を人形みたいに扱うのはやめて貰おうか、お父さん」


 大きく振りかぶって殴りつけてやった。

 心がスッキリし、今まで勝てないと思っていた心が晴れる。


「相手の土俵で戦う必要は無いのでね。

 お父さんもそう常々いっていたから、ご了承かと」

「くー!

 息子に殴られるのも効くなー」


 そうお父さんは嬉しそうにしながら、立ち上がる。

 手加減しすぎたかもしれない。


「大きくなったな、望。

 起こしてくれ、頼む」

「判りました、お父さん」


 そして手を掴みながら、引き起こしてやった。


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