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3-31.一夜明けて。

〇望〇


「……望君、そのお怪我は?」


 っと、心配してくれるのはソラ君だ。

 いつものランチタイム、机を五人で囲う際の事だ。

 彼女は僕が手を怪我をしているのを観、優しく掴み様子を見てくれる。


「小指が折れている。

 全治二週間程度の軽いモノさ」

「望君、闇討ちならお手伝いしますわよ?

 コンクリもお任せください」


 笑顔が物騒なソラ君である。


「気持ちはありがたいが、試合の結果だからね?

 勲章みたいなものさ」

「望君、勝たれたんですね」


 ホッと、ソラ君は安心しながら僕の勝ちを疑わない。

 信頼が心に染みわたり、嬉しくなる。


「もしかして、昨日言われていた、唯莉さんという方ですか?」

「その通りだ。

 実は遭遇戦になってなし崩しに……せっかく打ち合わせのに、すまない」

「いえいえ。

 望君、左手も使えるんですね?」


 っと、箸の持ち手を言われる。


「元来、僕は左利きでね、矯正したのだよ。

 ソラ君は投げ主体だろうし、小牧君ともやりあったからネタ晴らしするが内臓も逆だし」

「くっ……」


 小牧君が睨んでくる。


「ミナモともやりあったのか、望」

「強かった。

 だが、小牧君相手も僕が勝ったさ、ふふふ」


 小牧君が顔を伏せて、水戸を観る。

 そして一言だけポツリ。


「……約束破った」 

「……あー。

 ミナモ、うん、あー」


 水戸が戸惑う。

 いつもなら水戸が殴られている時間だが、何とも言えない空気が流れる。

 僕とソラ君も戸惑いを覚えながら顔を見合わせる。

 美怜もハテナマークが浮かんでいることを観るに、二人だけの事なのだろう。

 

「ごめん。

 黙ってたんや、ズルい私でごめんなさい」


 ポツリと、小牧君が言う。


「……うーん、ミナモ。

 あの時みたいに命がかかっている訳でも無く、試合だったんだろ?」

「うん……」

「なら、少し自分を楽にしてやれよ。

 約束はそれこそ、意味的には死なないために負けないって約束なんだし、ミナモは死んでない。

 だからこそ言うか悩んでたんだろし」


 水戸が頭を下げる。


「それにミナモがさ、いつも通りじゃないと俺も調子狂うからさ。

 頼むわ」

「水戸が頭さげへんでよ……」

「だって、お前、引きずるし」

「……ありがと」


 っと、小牧君が言うと水戸は嬉しそうに笑顔を綻ばす。

 二人の関係というのは、これぐらいで良いのかもしれない。

 恋仲というより、水戸が兄、小牧君が妹みたいな扱いなのかもしれない。

 僕と美怜みたいなものだ。


「いつもこれぐらいしおらしいとミナモも女の子って感じがするけどな」

「ううっ、今日は殴れない……。

 私だって女の子なんやけど……」

「女の子なら明日も殴らないでくれよ。

 でだ、三人ともこの話は突っ込まないでくれ、頼むわ」

「あぁ、それはいいが」


 興味はあるのだが、そういわれると仕方ないと引き下がるしかない。


「望、ミナモ強かったか?」

「あぁ、強かった」

「なら大丈夫か」


 何が大丈夫なのだろうかと突っ込みたくなる。

 とはいえ、藪蛇の予感がしたのでやめておく。

 今は唯莉さんとお父さんの件で手一杯なのだ。


「すまん、飯前に変な話して」


 っと、水戸がこちら三人に頭を下げる。

 そして小牧君も頭を下げる。


「別に、うん、大丈夫だよ。

 私も試合に関係あったし……ね、望?」

「あぁ、今回は僕も原因だからね」

「私は双方に貸し一でいいですわ」


 っと、ソラ君。

 悪い顔をしている。

 まぁ、彼女に関しては今回の件、関係ない話だから仕方ないだろう。

 僕も今回の勝負勝ったはいいが、同門対決みたいなもので得たものはない。

 だったら、ソラ君が代わりに得をしとくのはありだろう。

 お弁当を広げつつ、話題を切り替えていく。

 他愛のない話。

 小牧君は少し最初は戸惑いを覚えていたものの、普通に戻ってくれる。


「そういえば奇遇ですね、私も内臓が逆なんですよ?」


 そんな中、こんな話題が出た。


内臓錯位ないぞうさくいではなく完全な内臓逆位ないぞうぎゃくいですので普段生活には支障ありませんが」

「幸運なことに僕もそうだから、助かっている」

「「?」」


 美怜と水戸がクエッションマークを浮かべてくる。


内臓錯位ないぞうさくいは一つ、あるいは数個の内臓の位置がずれることですわ。

 この場合、生まれてくる時に心臓疾患などを伴うことが多いので、五歳迄生きれることすら稀ですわね」

 

 事実だ。

 約二万の赤ちゃんに一人発生し、血管に不良が出たりするため、長生きできないのだ。

 例えば、肺が心臓の位置にあったらと浮かべて貰えば分かりやすい。


内臓逆位ないぞうぎゃくいは完全に反対になっている人の事ですわ。

 鏡写しで内臓の器官不良が出ない為、機能的には問題ない訳ですわね」

「ぇっと、つまりサウザー?

 バスケ難しいから使ってないけど」

「漫画やん、それ……。

 ていうか、内功を破られたのを鑑みるに全くその通りやんか……!」


 美怜が何か古い漫画のキャラクターを述べると、小牧君がつっこみながら思い出して頭を抱えている。

 なお、ソラ君と水戸はクエッションマークが浮かんでいる。

 ジェネレーションギャップか何かが同年代で発生しているようにも見える。


「ちなみにサウザー遺伝子というのは、ハエの内臓逆位ないぞうぎゃくいを発生させる遺伝子に命名されているんだがね?」

「どんな知識だよ、それ」


 事実である、テレビでもやっていた話だ。

 ともあれ、


「とはいえ、医者に掛かる時が怖い。

 変な診断されたことが一度二度で済まないからね?」

「ありますわね……。

 ソラはかかりつけ医がおりますが」

「僕は京都にはいるのだが、

 今度、紹介してもらっていいかい?」

「許嫁ですもの、当然ですわ」


 ソラ君が嬉しそうに了承してくれる。

 ありがたい。

 本当にこればかりは命に関わりかねない。

 そうそう傷つくような事態は起きないが、


「しかし、双子である平沼さんより望と鳳凰寺の方が似てる点多いよな。

 アルビノはさておき」


 水戸に言われ、確かにと思う。


「まぁ、偶然だろうね。

 モノの好みや思考パターンは教養のレベルが近いからだろう。

 内臓逆位なんかは珍しいが、三千人に一人程度だ。

 アルビノの方がよっぽど珍しく、大体二万人に一人発生だ」


 つまり、


「六千万人に一人で選ばれたのが僕さ。

 とはいえ、世界で百三十人ぐらいいる計算ではあるが」

「年末の宝くじ一等とどっちが確立高いんだ?」

「あれが三回当たるぐらいの確立だね」


 尚、0.000005%が宝くじ一等の確立であり、二千万くじに一つ当たりが入っている計算だ。


「うー。

 無教養で悪かったんだよ」

「ある意味で英才教育されている気もするがね……」


 美怜が頬を膨らませてくるが、僕の脳裏ではクフフと笑う永年小学生が浮かんだ。


「さて、ソラ君にお願いがある」

「はい?」

「ウェディングドレスを一着、作って欲しい」


 ソラ君の挙動が停止した。

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