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3-28.望と唯莉さん(前編)

〇望〇


「やっほ、望」


 ソラ君を送り、鳳凰寺家で所用を終わらせて家に帰ると化け物が居た。


「久しぶりの我が家、マイホーム、何ともねー」


 リビングで座る小さな紫髪の家の主、平沼・唯莉だ。

 つまり永年ロリ小学生モドキだ。

 僕の師匠でもある。

 予想外の事に身構えてしまう。


「なんや構えよって、やろか?」

「いえ、やりたくないです」


 当然拒否する。

 そんな挙動不審の僕を見て、美怜がニコニコとキッチンから顔を出してくる。

 エプロン制服な美怜はいつ見ても良いなと、ちょっと現実逃避しておく。

 白い姿に、白シャツ、褐色のチェックスカートの上にフリルのついたエプロンだ。

 母性的な、ぐっとくる魅力がある。


「なんで居るんですか、僕と美怜の家に」

「唯莉さんの家なんやけどなぁ……?」

「家出して帰ってきていない人は知りませんよ」

「ただいま、って言えばええんやな?」


 くっ、ああいえば、こう言う……。

 姿かたち通りなら小学生であり、生意気な子供そのものの言動だが、中身はおばさんだ。

 質が悪い。

 とはいえ、


「ちなみに権利は美怜に移しておきました。

 六道氏は快く手続きに協力いただけました」

「なん、やと……」


 っと、土地と建物の登記簿謄本の写しを戸棚から取り出し見せる。

 これはこの前、会った時についでにお願いしといたのだ。

 嬉々としてやってくれたので、六道氏の唯莉さんへの鬱憤は相当深いものな気がする。


「ほんまや……」


 愕然とする唯莉さんが見れて嬉しくなる。

 初めてやり込められた気がする。


「望、あんまり唯莉さんと遊んでると私が怖いよ?」

「……美怜、なにか吹き込まれたのか?」


 言われ振りむくと、美怜の顔が怖くなっていた。

 青紫色の瞳なのでセーフゾーンだと思うが、仁王立ちされてしまう。


「望がラブレターを唯莉さんに出したことがあるって」

「ぉぉう……」


 頭が痛くなった。

 若気のいたりである。

 過去の自分の超大きい汚点である。


「望、ソラさんのことも、リクちゃんのことも、好きって言ってないのは……

 もしかして引きずってるの?」


 口元がバッテンになる。

 予想外のところから追い詰められている感じがある。

 唯莉さんを見れば、クフフと笑っている。

 その姿はとても悪魔である。

 どうしてやろうか、


「そうだが何か?

 今も唯莉さんのことが好きでたまらない。

 頭が上がらないわけだね?」

「ぇ……、あ、え?」


 こう言ってやると、美怜の眼が見開き、オッドアイ状態になる。

 唯莉さんもこれは予想できなかったのか、その赤い目を見開いてくる。


「望、ロリコンさんだったの?

 だから、胸の小さいソラさんとも上手くやれるの?」

「……望、あんたの気持ちは嬉しいが、唯莉さんはあんたのお父さんが」


 大混乱状態に陥る。

 よし、と僕はほくそ笑みながら、場を納める言葉を続ける。


「冗談だが、真に受けてしまったかね?

 すまない」


 一気に静かになる。

 怒り。

 美怜と唯莉さんの顔にそう浮かんで、僕を見てくる。


「「望!!!」」


 四つの赤い目が威圧してくる

 まったく、落ち着いてほしい。


「ともあれ、ある意味事実ではあるのだがね?」


 言ってみろと目線で美怜に訴えかけられたので、続ける。


「僕は師匠として、唯莉さんについては尊敬している。

 これは師弟という意味では好きに属するから、実は嘘でもないわけだね。

 それに何だかんだ、世話になっているし、好悪で言えば好きなのだろうね」


 事実だ。

 トラウマの件しかり、何だかんだ唯莉さんは面倒見がいい。


「お父さんは言葉をくれた。

 けれども、心技体の部分でいう、技と体の部分は明らかに唯莉さんの影響が強い。

 つまり、ある意味で僕は唯莉さんの子供と言えるのだろうね」

「望、ちょっとそれ言われるのは恥ずかしいわ」


 唯莉さんがこそばゆそうに、湯呑に入ったお茶をすする行動に逃げる。

 とはいえ、これは別の狙いがある。

 美怜へ視線を向ける。


「……なるほどだよ」


 予想外の反応だ。

 美怜が納得したのだ。

 少し、思考をまわしている動作、上目を向いて天井へ視点を向け思考をまわしながら、


 ――人間、五感からの情報を減らすことで集中力が増すのは証明されている、


 をしながらも納得の動作が出たのだ。


「……唯莉さん、美怜のお願いについて回答を変えましたか?」

「かえたでー、美怜ちゃん娘計画開始しとる」


 と、気楽に言ってくれるのでちょっとどうしたものかと思う。

 取り越し苦労をした気がする。

 正直言えば、今日叩きつけてきた六道氏への負担も少なくて済んだかもしれない。

 とはいえ、最後の詰みでの念の入れようは必要だと気を取り直し、無駄ではないと自分に言い聞かせる。


「望、今、唯莉さんに美怜ちゃんを認めさせようとしたやろ」

 

 思いっきり狙いがばれていて口元がバッテンになる。

 やりづらいうえこの上ない。


「だから、望が唯莉さんの息子だという論法から攻めようとした、ちがわへんよな?

 ありがとうな、無駄やったけど」


 ちょっと、どうしてやろうか悩む。

 美怜の件は僕がソラ君と帰り道で詰めていたというのに無駄になった。


「唯莉母さんて呼べばよろしいでしょうか?」

「まだはやい」


 動揺を誘おうとしたのだが、きっぱりと対応される。

 やはりこの人は苦手だ。


「望も唯莉さんが母親だと嬉しいんだね?」

「……どうなんだろうね?

 ちょっと母親に見るには小さすぎる」


 誤魔化すために冗談を飛ばしながら、言うべきか悩んでいる部分に少し思考を向ける。

 纏まる。


「こっぴどく振られたのは事実だし、苦手意識がある。

 正直、戸惑いすら覚える」


 隠しても仕方ない。

 トラウマとは言わないものの、苦手意識の根本はここだ。

 能力、勝てない事実、云々もあるがここが原点である。


「ソラ君やリク君には大変申し訳ないと思うけどね。

 好きという気持ちを伝えて霧散した経験がさせているモノだと理解してくれ」

「唯莉さん、どんな振り方したの?

 望にこんなこと言わせるなんて」

「ぇっとな、ラブレター、お父さんに渡された。

 で、実年齢バラしてきたりと追い打ちをされた」

「最悪な対応だよ、それ。

 夢見る少年が現実に直面して夢破かれるパターンだよ。

 望がこんなにひねくれた理由が良く判るよ……」


 捻くれ者と言われている気がするが、気のせいだろう。

 僕は純真だ。


「世の中見た目に騙される良い教訓やったと思うよ?」

「確かに、僕はそれで見た目に誤魔化されることはなくなったがね……」


 嫌な思い出だ。

 美怜の同情が凄く染み渡る。


「望」


 クフフと唯莉さんが笑いながら続ける。


「今でも唯莉さんのこと恋愛的な意味で好きなん?」

「それは無いです。

 憧憬であり、また羨望であっただけで、性的な欲求はまるで沸きません」


 呆れながら断言する。

 今の僕から見れば、色々な意味でこの人は無いのだ。


「あらら、ふられてもーた。

 性的欲求は沸いたら、ロリコンやしなー。

 もうこのネタでからかえんなぁ」

「心の奥から沸くような、自分の底から沸くような感情は全く無いですしね。

 独占したいだとか、僕のモノにしたいというね。

 勝ちたいとか、追い抜きたいという感情はありますが。

 後は多分ですが、美怜の感情と同じモノはあるかと」

「……同じ?」


 美怜が疑問を向けてくる。


「つまり、母親になって欲しいという望みだ。

 今までの説明から当然にそう求めるのはおかしくないでしょうし?」

「母親なら、なってええで。

 言うて何も変わらんと思うけどなー」


 いつもの意地悪い笑みが浮かんでいた。

 それは僕が初めて会った時から変わらないモノだ。

 

「望」


 唯莉さんの赤い眼が僕を観る。


「師匠として最後の勝負しよか」

「……判りました」


 僕は拳を強く握った。

 

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