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3-27.不老とお母さんの決意。

〇美怜〇


「なるほど。

 確かに鳥のとこは盲点やったわ……。

 美怜ちゃんのお父さんとも喧嘩別れしとったし、ゆり姉も沈めてたし」

 

 と納得してくれる。

 簡単に取得経緯と内容を話した形だ。

 この間、客は来なかった。


「唯莉さんも聞いてみたいけど……、いや、やめとこ。

 自分がゆり姉を倒す決心が鈍りそや」


 と、一人で納得する唯莉さんは大きく縦に頭を振った。


「で、何でそんな浮かない顔してるん?」


 聞かれる。

 何だかんだ、私の事を気にしてくれる唯莉さんに感謝の意が沸く。


「判らないことがあるからです」

「言うてみ?」


 何だかんだ、母代わりをしてくれた唯莉さんだ。

 私は抵抗も嘘もなく、喋り始める。


「なるほど、つまり、ゆり姉がお父さんに打ち明けなかった理由が納得できないと」

「はい」


 終わり、簡単に要約してくれる。

 

「それで望と子供を作ろうとするなんて、爆笑やな」


 正直に話しすぎた。


「無責任すぎました、望にも叱られました」

「やってしまってもよかったと思うんやけどね?

 責任は後からも足せるもんやから……

 さておき」


 唯莉さんが、ポケットから氷砂糖を取り出す。

 いつもの通りの唯莉さんだ。

 考え事をするときは必ず、舐めている。

 それだけ真剣になってくれているのだ。


「残したかったんやな」


 ふと、唯莉さんが別人に見えた。

 それこそ、以前、病室でお母さんの真似をしていた時のモノに近い。


「美怜ちゃん。

 実はウチの家系な、女は妊娠したら死ぬんや」


 とんでも情報が出てきた。

 望もお母さんの死については言及していたが、家系がそうだと言われたのはちょっとどうかとおもった。

 冗談かと思うが、マジメな顔をしている。


「唯莉さんのお母さんも、婆さんも出産で死んでる」

「ぇ、マジメな話ですか」

「真面目な話や」


 一歩間違えれば死亡フラグが立っていたのかもしれないと、ちょっと怖くなった。

 望の自制心に感謝だ。


「というても、ちゃんと成長できている美怜ちゃんは大丈夫や。

 唯莉さんのように平沼家は不老でどこかしらで成長がストップする。

 それが速すぎて子供産むのに適してないことが多くてなー」

「望も……子供が出来る体じゃないから死んだんじゃないかと言ってました」

「唯莉さんのこと観て、納得されると微妙な気分になるんやけど……。

 子供欲しいわ……」


 コホンと一息つく唯莉さん。


「それを前提に話すとやな。

 産みたかったんや、美怜ちゃんを」


 望と同じ答えだ。


「危険性を内緒にしてた一番の理由は、

 ゆり姉を第一に考えるあんたの父さんに絶対に止められると思ったからや。

 これは間違いなく止める。

 けれども、ゆり姉は死んでも産むって決めとったんや。

 何故やと思う?」


 問われるが、答えは出ない。


「答えは、自分がお父さんとの証を残したかったからや。

 ゆり姉、私以上に身体に歪みが出てたんや。

 普通に生きていても長生きでけへんかったん。

 こんな成りやからね、当然やね。

 中絶したら恐らく二度目は無かった筈や」

「でも、それはお父さんに甘えない理由にならないと思うんです。

 本当に甘えられるなら、相談できたはず」

「逆や逆」


 唯莉さんが手を振りながら否定する。


「そのカセットテープがどんな話かまでは細部は判らん。

 ただ、自分には判る。

 それを黙っていても最後には許してくれるだろうと、甘えてたんや。

 結局のところ、彼が責めたのは自分で、ゆり姉のことは一つも責めへんかったことから読みは正確やったんや」

「……」

「判らんて顔してるな?

 まぁ、しゃーない。

 望に内緒のこともあって、結局許して貰ったことないかいな?」


 ある。

 キスの件だ。


「あるって顔やな。

 そういうことや、そういう自分勝手を押し付けて、受け入れてもらえる甘えの部分や。

 望も同じようなこといってへん?」

「言ってます。

 望はお互いに遠慮がない関係でぶつけられると」


 一番最初に大ゲンカした時のことだ。

 あの時は裸に剥かれた。

 今を考えれば裸ぐらい大したものではないのだが。

 ともあれ、家族だからこうするではなく、望という家族だからこうしたいに切り替わった転機でもある。


「ぶつけるというのは示すだけやないということや。

 言わなければ、示さなければ人間は相手にモノを伝えられないのは確かや」


 けれども、と唯莉さんは続ける。


「それを超えれる絆というモノもあるんや。

 理解せんでもええ。

 頭に入れといてくれたら」

「判りました」

「こればっかりは本来、親が示すモノなんやけどな……。

 はぁ、唯莉さん、こんな役ばっかしや」


 ヤレヤレやわと、口では言うモノの楽しそうである。


「あ、望やミナモンにはこんな姿見せれんから、黙っといてやー。

 大人の見本で見せてるところあるさかい。

 望には唯莉さんがヘタレやとバレとるとは思うけど」

「……私にはいいんですか?」

「美怜ちゃんにはバレてまうもん。

 何とか良い大人を見せようとしたら、よそよそしいとか思ってたやん?

 だから、ちゃんとお母さんになって欲しいと思ってたんやろし」


 図星だ。

 小牧さんにいつも漏らしていた愚痴だ。


「小牧さんから聞いたんですか?」

「いんや、気づいとった。

 と言っても母親になったことが無い唯莉さんは良い大人が限界だったわけやがねー。

 唯莉さんも母親いなかった訳やし。

 こればっかりは何ともかんとも」


 重い話になっている気がする。

 血の宿命だと思うと何だかゲームみたいだが、現実に起こると悲劇にしかならない。


「とはいえ、美怜ちゃん」

「はい、なんでしょうか、唯莉さん」

「母親ってなんやと思う?

 これは純粋な興味や」


 言われ困る。


「傷つくこと、傷つけることをいとわずに本人のために叱ってくれたり、寄り添ってくれたりして、

 でも守ってくれる人」


 言って近いのは望だ。

 彼は本当に家族してくれているし、家族で在りたいと思う人だとシミジミ思う。


「せやな、私は叱れんかったからなぁ……。

 あんまり叱る方でもない。

 そもそもあんまり他人に踏み込む方でもないんや。

 一歩引いて安全地帯から見守る。

 唯莉さんは生来怖がりなんや、ゆり姉と違って」


 今思えば、性格的な所があるのかもしれないと思う。

 余り踏み込んで来ないのは。

 いつもクフフと笑みを浮かべ、隠している。

 唯莉さんが怒りにかられるところなぞ、一度しか見たことがない。

 私が小学校で虐められた時に、吊し上げを行った時だけだ。


「ゆり姉ならまーた違ったんやろけど。

 唯莉さんから見ればヅケヅケとモノをストレートでいう人でな。

 ただ、彼の前ではシュンと乙女な部分が出てしまう、過激可憐な人やったんや。

 あぁ、ホンマあの人壁でしかあらへん……」

「唯莉さんが弱気なの初めて見ましたけどね」

「そりゃ、そうや。

 ゆり姉から彼を奪いたいんだから」


 弱気ながらもニシシと頑張って笑う唯莉さん。

 こんな姿、一度も見たことない。


「唯莉さん」

「なんやー?」

「やっぱり、私、唯莉さんがお母さんになって欲しい」


 唯莉さんが戸惑いを見せるが続ける。

 前までの私ならそうぶつけるだけだ、だけども今の私ながら続けられる。


「お母さんになれなかった、悠莉さんの分、お母さんになったら勝ったと言えるでしょ?

 あんたが育てられなかった娘を私は育てられたって、胸を張って」


 唯莉さんの赤い目が見開く。

 望のおかげで相手を動かす言葉を言えるように私は成長した。

 ソラさんのおかげで私は自分自身に自信を持てるように成長した。

 リクちゃんのおかげで私はこう言えるまでの家族観を成長させた。


「私は唯莉さんを応援するよ。

 私が成長出来たきっかけをくれた唯莉さんを」


 唯莉さんがくれた計画から始まった私の物語は確かに私の中に根付いているのだ。

 それだけじゃない、唯莉さんがくれたのは家族観しかり、基本的な家事スキルしかり、変装スキルしかり、様々ある。

 唯莉さんが居なければ、今の私ではなかった。


「……せやな」


 唯莉さんはポツリと、でも確かにそう言った。


「せやな。

 確かに唯莉さんは既にその点で言えば、勝っとる。

 美怜ちゃんを育てたんは、自分や」


 自分に言い聞かせるようにもう一度言う。

 そして拳を握る。


「ありがとうな、美怜ちゃん。

 勝てる気がしてきた。

 勝って、美怜ちゃん、娘にするわ」


 嬉しさが込み上げてきて、唯莉さんに抱き着こうとするが拒否られる。

 泣きそうになる。


「それはまだ早いでー。

 勝ったらの楽しみにしといてやー」


 そして唯莉さんはクフフと笑うのだった。

 それこそ今度は気張らずに自然体のまま。


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