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3-26.まるで兎に導かれるままに。

〇美怜〇


 商店街を歩く。

 今日も晩御飯の買い物だ。

 望はソラさんとデート中である。

 最近、望はデートばかりしている気がして、ちょっとどうかと思う。


「嫉妬ではないんだけどね……」


 私も、っと思う気持ちが日に日に増えている気がする。

 家族デートはまだしていない。

 期待が膨らんでいるのかもしれない。


「とはいえ、今日のはデートではないのは判ってるんだけどね?

 多分、誕生日プレゼント購入についての相談て所かな……」


 内緒にする、これからはズレるが、私には教えたくない理由は判る。

 私を嬉しがらせたいからだ。

 後はソラさんに頼む必要があるからだろう。


「私自身が最近、変なのもあるけど……」


 望とのキスがこじれてから、日に日に思う事である。

 自覚症状があるぐらいに行動が変なのだ。

 もどかしく感じながら望の顔が浮かぶ。


「いけないなぁ」


 と頭を振り。気を取り直す。

 唯莉さんの件に頭を切り替えることに……?


「唯莉さん?」


 小さくて逆に目立つ影。

 その姿が真那井商店街の中をかけていく。

 それを追って商店街の端へ。


「見失った?」


 尾行を振り切られた。

 本当に唯莉さんなら身体能力の差は歴然だ。


「あれ、ここのお店いつも締まってるよね……」


 ふと視線を感じて見れば、店頭のぬいぐるみが私を見ていた。

 どこかで見たことのある様な作りをしている。

 近付いてみる。

 白い兎のぬいぐるみだ。


「……ぺー太君?」


 そう、望の机に飾られている兎の人形に縫製の仕方がそっくりだったのだ。

 色こそ、褐色と白色の差はあれど、作りが似ている。

 目元が優しくどうやら女の子のようだ。

 可愛い。


「こんなキャラいたかなぁ……」


 っと頭の中を整理する。

 結論、居ない筈だ。

 ゾクブツの森の初出は十数年前なので幼少の頃の端役が抜けているかもしれないが。

 とはいえ、運命めいたものを感じる。


「こっちはポントライオンちゃんだよね」


 隣にはライオンのぬいぐるみ、こちらも女の子のようだ。

 こちらはゾクブツの森にいるキャラクターだ。

 若干、造形に差が有る物の間違いない。


「入ってみよっかな」


 店内は古いおもちゃ屋だった。

 プラモデルや古いおもちゃだったり、観たことのない怪獣のソフトビニール人形だったり……。


「あれ、店員さん居ないのかな?」

「ここにおるよ」


 と見れば、唯莉さんが机の底から這い出てくる。


「……何してるの、唯莉さん」

「店員」


 とはいえ、久しぶりにまともに会話している気がする。

 最後にあったのは、お父さんが退院する時だ。


「ここは友達が持っていた店でな、彼女が死んでからたまに掃除しとるん」


 と言いつつ、また机の底へ潜っていく。


「結構、プレミアモノもあってなー。

 とはいえ、ネットとかで売るのもしのびのーて、たまに開けて、その時にきた客に売ってる訳やね」


 今度は、段ボールと一緒に出てくる。


「で、冷やかしならでてってなー」


 と、唯莉さんはニシシと笑う。

 つまり、私の質問などは受け付けないという事らしい。

 とはいえ、この店に入った理由は唯莉さんではない。


「あの、ショーケースのぬいぐるみ、ウサギとライオンのを貰っていいですか?」

「貰うんはあかん」


 と言われ、気落ちする。

 割と一目惚れしていたのだ。

 それに目的に合うと感じていたのだ。


「買うのならええで?

 多分、運命やろし」


 ニシシと笑う。

 確かに、ここは店だ。

 弄られたようだ。


「二つ合わせて五千円でええよ」


 値札を見れば、ポントライオンちゃんだけで五千円だ。

 ウサギちゃんの方は値札が無い。

 一枚紙幣を渡す。


「唯莉さん、冷やかしじゃなくなったから聞くけど、何で舞鶴に?」

「ん?

 美怜ちゃんの誕生日を祝いに」


 嘘はない。

 けれども、何かを隠している感じだ。

 それだけならコソコソと小牧さんの家に足跡を残したりしない。

 それにその日を祝ったことは一度たりともないのだ。


「そんな疑いの眼差しされると悲しいんやけど?」

「ごめんなさい。

 ただ、唯莉さんの素行に信頼が無くて」

「うう、唯莉さん悲しい!」

 

 と笑いながら言うので、素行が悪いのには自覚があるようだ。


「ゆり姉の墓参りや」


 不意に笑いを止めて、ポツリと唯莉さんが言った。

 私の誕生日と同日の話だ。

 ただ、私は唯莉さんが口元を固くするのを見逃さなかった。


「唯莉さん、なんでお母さんの事は嫌いなの?」

「……美怜ちゃんはやっぱり賢いなぁ」


 一呼吸。


「あんたのお父さんを独り占めするからや。

 唯莉さん自身、ゆり姉は好きや。

 とはいえ、同時に私は嫌いなんよ」

「だから、私も娘とみられなかった……?」

「そういう訳や。

 好きな人と姉の子供を観て、自分の娘だと言える程、人間出来てないわけや。

 狭い人間なんや」


 と、自嘲しながら笑う。


「その上で言います、唯莉さん。

 私は貴方に母としてあって欲しい」

「……その上で、それを言うか……」


 唯莉さんは天井を仰ぎ観る。


「望にも言われたんです。

 そうあれるようにするのは自由だと」

「正論やな、確かに。

 唯莉さんも、美怜ちゃんには情が沸いとる。

 何だかんだ世話をしてきたかんな。

 娘だと、言えるかはさておきな?」


 唯莉さんが苦笑いを浮かべてくる。


「でもな、美怜ちゃん、とりあえずその話は置いといてなー。

 勝負があるさかい」

「勝負……?

 お父さんを寝取るってことですか?」

「せやでー。

 後な」


 唯莉さんは拳を握る。

 そして深呼吸。


「望からは聞いとる?

 唯莉さんにラブレターを送ってくれた話」

「――?」


 ――?

 思考が止まる。

 望とラブレターという単語が繋がらない。

 望がそう言った人間らしい感情、特に恋だとかは今まで見せたことが無い。


「幼少期、憧れを恋と勘違いしてな。

 今は全然、ちゃんと整理されとるやろけど。

 唯莉さんを望が苦手な理由や」


 そして拳を前に打ち出し続ける。


「苦手意識も欠片も残さず木っ端みじんに砕かなあかんし。

 ちゃーんと、伝授せなあかん。

 そこまでしたら、唯莉さんも逃げれんやろし」


 と、本気の顔をしている。


「だから、小牧さんと戦わせたんですか」

「概ねそんな感じや。

 それにミナモンにも対外道相手にも覚えなあかんかったし」

「師事した人が外道って話じゃないですか、唯莉さん。

 一番弟子って話も聞いてませんでしたし」

 

 クフフと笑う唯莉さん。

 

「隠し事はまだまだあるで?」

「話す気はないんですよね?」

「そりゃそうや。

 家族でなくてもあっても、秘密はあるもんや。

 美怜ちゃんやて、望にはあるやろ?」


 あったし、今もある。


「そういうことや。

 ゆり姉かて、あんたのお父さんには言えんことあったし」

「……私の事?」

「それもやけど……、まぁ、色々や」


 唯莉さんの顔が思い出し笑いをしている。

 そんな様子を見て、私は言うか、言わないか悩み……言うことにした。


「聞いたんだよ、私、お母さんの声」

「……なんやて?」


 唯莉さんが、興味深そうに眼を向けてきた。

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