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3-24.屋上で整理整頓す。

〇望〇


 放課後。

 いつもの屋上。

 僕とソラ君は居た。

 あのころに比べて日が高くなり、まだ空は青々としている。

 カラリとした陽気は熱いぐらいだ。


「ようこそ、望君」


 先に来てくれていた彼女は僕に気付き、振り返ってくる。

 ゲジ眉が跳ねており、ソラ君もご機嫌だ。

 笑顔が咲く。

 褐色の肌もこの季節だと違和感が無い。

 ソラ君には夏が似合うのかもしれない。


「どうしました?

 ソラの顔を見て立ち止まってしまいまして」


 気づくと目の前に心配そうなエメラルドグリーンの眼。

 その頭にポンと頭を乗せて、


「ありがとう、ちょっとソラ君がまぶしくてね?」

「ふふ、照れてしまいますわ」


 紅く頬が染まり、顔をうつむけて隠すように僕に抱き着いてくるソラ君。

 そんな彼女の頭に置いた手で彼女の背中まで伸びる毛をすくう。

 それに併せ、くすぐったそうに僕の胸の中で頭を振るソラ君。


「望君、今日は何だか変ですよ?」


 ピタリと止まり、うつむいたままのソラ君がそう言ってくる。

 表情は読めない。


「ソラ君にはいつも心配をかけるね」

「いえいえ、ソラはいつも望君の事を観ていますので」


 見上げてくるソラ君の純粋な視線を嬉しく感じながら、今日呼んだ理由を述べる。


「……ちょっと過去の整理をしようとね」

「?」

「実は僕は二人に好きだと告白をしたことがある」

「……美怜さんとリクですか?

 リクはちょっとセメントしてきていいですかね」


 物騒な姉である。

 確かに二人ではあるが、美怜は家族だし、リク君も妹のようなものだ。

 

「違う違う、古い話さ。

 一人は今回、お父さんとくっつけようとしている、平沼・唯莉ゆいりさんなんだ」

「望君、実はおばさん趣味なんですか?

 お父様と同じ年だと結構上な気がしますが」

「違う違う。

 その唯莉さんという人は小学生から成長してなくてね」

「ロリコン?

 ソラも背を削らなければいけないですかね」

「そうじゃない。

 僕より少し上に見えるのに色々出来て、憧憬を抱いたんだ。

 それを好きという感情と勘違いして、ラブレターをだね?

 小学生の時代の話さ」


 僕が唯莉ゆいりさんに頭が上がらない理由の一つだ。


「なるほど。

 それで私にそれをお聞かせ頂いた理由は?」

「整理だね。

 美怜には話しづらい事でもあってだね?

 ぺー太君を使ってもよかったのだが、許嫁である君にはこれを聞いておいてもらおうかと思って」

「過去の女の話をされるというのも、何とも複雑な気分ですがね?

 とはいえ、整理ということは未練が無いという事でしょうし、嬉しくもなりますわ」


 ソラ君はそう自己解釈をしてくれるのでありがたい。

 美怜といい、ソラ君といい、裏をちゃんと読んでくれるので説明が少なくて済む。


「今、あの人は僕にとって師匠であり、越えるべき壁であり、美怜のために倒す必要がある人だ」


 意識的に拳を強く握る。


「その人と望君のお父様をくっつければよろしいんですよね?

 この前のお話的には」

「そうだ……とはいえ、まだ方向性が決まっていなくてだね」

「望君にしては珍しいですわね。

 大抵、想定内だとか、計画内ですから」

「だから、君に聞いてほしかったんだ。

 想定が出来ないんでね」

「なるほど、微力ながらお手伝いしますわ」


 と、ソラ君が目を見開きながら、了解してくれる。

 そして僕の腕を掴みながら床に座るように促してくる。

 いつかの河原の再現という訳だ。


「情報はおかげさまで六道氏から手に入れた。

 唯莉さんも僕のお父さん、九条・つむぎを好いているのも判っている。

 だが、お父さんの気持ちが全く分からない」


 結局のところ、ここなのだ。

 ここが定まらないため、僕は計画を練り切れずにいる。

 家族になる本人同士に気持ちが無い限りは、詰め切れないのだ。


「美怜さんのお母様をトラウマになる程、愛していた方ですよね……。

 愛が深いことで」


 でもと、ソラ君は続ける。


「それが壁になるんですか?」

「ふむ?」


 ソラ君の顔は真剣なものだった。


「体から始まる恋なんてのもあるそうで、最近はABCが恋の順番ではないそうです。

 HIJK、つまり、エッチをして愛が生まれて、妊娠して、結婚するとのことで」

「確かに、出来婚が増えている現代社会ではそうだろうね」

「そもそもに、本人同士の気持ちなんて生まれるモノであって、それが先かは些細な事なんだと思いますわ。

 恋愛婚が重視されるようになったのは近代。

 ……お見合い文化なんてそういうモノだとは存じますし」


 僕の手、床に置いておいたそれを強く握りしめるソラ君。

 あのお見合いの件を思い返しているのだろう。


「ソラ君、僕はここにいる」

「望君……」


 赤らめた頬、緩んだ目元、呆けた顔になったソラ君。

 彼女は頭を振り、元の真面目に戻る。


「つまりですね、今回の件において本人の意思を尊重する必要があるのかということですわ。

 美怜さんへの義理でもいいです。

 そのずっと慕ってくれていた唯莉さんとやらの義理でもいいです。

 まずはくっつけることを前提で考えてみては?」

「確かに……」


 ソラ君の件があって、本人の意思を尊重するように考えが固定概念していた気がする。

 もともと僕は、自分の為に他の人の意識を誘導してきた。

 お父さんだから、唯莉さんだからと気を使ってしまっていたのかもしれない。

 またこれもいつものことだが、家族概念で凝り固まっていた気がする。

 家族というモノになるには本人同士が納得した上で、つまり僕と美怜のように、がベストなのではないかと。


「確かに僕らしくなかったね」


 気持ちが固まる。

 そして頭の中で方向性も固まる。


「一番、重要なのは美怜の為に行動することだったね。

 全く、自分に言い聞かせてはいるが、甘い。

 反省点だね」

「ふふ、いつもの望君に戻りましたわね」


 クスクスと少女の年に似合った笑みを向けてくれる。


「ソラ君はパンジーのような笑顔を向けてくれるね。

 正直、嬉しい」

「パンジー……私の事を思ってですわね。

 言い得てしっくりきますわね」


 だってと、彼女は続ける。


「美怜さんの次で良いので、私を思ってほしい訳です。

 それに黄色の花言葉は英語で『Remembrance』、つまり『記憶からの喜び』です。

 私に思いを馳せていただくことで望君の元気になれればと常々」


 つつましい幸せ、故郷の喜びというのもそういったものから来ている。


「全くありがたいことだよ。

 とはいえ、こう言った関係があるのも美怜のおかげでもあるからね。

 これだけは譲れないさ」

「いいですわ。

 望君のシスコンを直して差し上げるまで頑張りますので」


 そして笑いあう。

 いつも通りの僕らだ。

 とはいえ、もう一つ、やらなければいけないことがある。


「ソラ君」

「はい、何でしょうか?」

「指のサイズを測らせてくれ、指輪を送りたいから」


 ソラ君が固まった。

 思考が停止したようだ。

 とりあえず、頬をつねって放す。

 それでも再起動しない。


「ソラ君、大丈夫かい?」

「ぇ、あ、はい。

 今、指輪がどうとか、幻聴が聞こえた気がして。

 ソラの願望が漏れ出たのかと」


 割とソラ君は乙女である。


「指輪作りたいから、寸法を測らせてくれと言ったわけだが?」


 言葉を変えて判りやすく言ってあげる。

 次の瞬間、ソラ君が言葉にならない声をあげて、後ろに倒れこんだ。


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