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3-23.平穏なお昼ご飯。

〇美怜〇


「望君~」


 いつものお弁当の時間。

 ソラさんがお弁当を持ちながら望の横に。

 表情が穏便ではない。

 特徴的な眉毛がキリリとして怖い。


「何かね、ソラ君。

 今日、ちょっと付き合ってほしいと思ってたとこだが」

「はい!

 お付き合いしますわ!」


 望の一言で一瞬で晴れやかな青空が広がる。

 愉快なソラさんである。


「で、何かね?」

「いえ、リクと朝、マラソンで逢引きしてるって話を聞いてですね。

 嫉妬しようかと」


 そんな様子をクラスの皆が暑い暑いと目線を送ってくる。

 いつもの事である。

 さておき、今日もお弁当を囲む。

 ソラさんはサンドイッチ、私も示し合わせたようにサンドイッチだ。


「リクちゃんとも偶然だよ?

 私も今日初めて参加したし」


 ソラさんの卵焼きサンドイッチと自分のを比べる。

 今回もお互いに卵焼きの質が違う。

 ソラさんのはとてもオシャレだ。

 クレープ状態の卵焼き。

 それにホウレン草、ベーコン、チーズを段に挟みこんだソラさんのはまるでミルフィーユのようだ。

 

「美味しい……」


 層になった歯ごたえが口の中を楽しくしてくれる。

 その上で確かな技術で裏打ちされた味が波のごとく押し寄せる。 

 私のを観る。

 分厚い玉子をどっしりとサンドした無骨なモノだ。

 よくネットで見るモノを真似しただけである。


「ふわっとして美味しいね、美怜。

 マスタードが良い味を出している」

「美味しいですわね。

 京都駅で売っているモノにも遜色が有りませんわね」


 っと、望とソラさんが私のを食べて笑顔で言ってくれる、

 嘘を意味なく言わない二人だ。

 とはいえ、味だけが料理ではないと比べると女の子として負けている気がする。


「サンドイッチか、これ?」

「どうみてもサンドイッチよ?」


 と、小牧さんも作ってきたお昼に眼を向ける。

 茶色い何かや緑色の液体がぬるりとあふれ出している、サンドイッチ……?


「まぁ、旨いんだろうけど。

 ……うん、旨い」


 躊躇せず食べる霞さんが笑顔になり、小牧さんが照れ隠しに背中を叩く。

 いつもの光景だが、……見た目も気にした方がいい気がした。

 美味しそうに見えないのは問題だ。


「望は見た目って気にする?」

「しな……うーん、小牧君のまで行くと流石に」

「見た目も料理のウチですからね。

 五感を楽しませることも重要かと。

 食感、見た目、嗅覚はソラも気にするところではありますので」

「中華料理だとおこげとかに餡を乗せる時に出る音も楽しませるね?」


 と、二人は真面目に検討をし始める。

 そんな二人を観て、思うことは、


「私のは華が無いよね……」


 望が私の料理にいいところがあると言ってくれたのは覚えている。

 それでも、比べてしまうのは致し方ない部分だと思う。


「いや?

 これはこれで良いと思う。

 つまり華美にして、それでよければというモノではない。

 ただ逆に侘びさびをしすぎても鼻につく。

 あるがままにあるがままを、それも一つの極致ともいえる」

「そうですわね。

 茶道の奥義とは曰く、名物による威圧でも、わざとらしい侘びさびではないですし。

 いつでも客が来ていい様に心を構えつつも、有る物で最大限のおもてなしをと。

 一期一会ですわ」


 ソラさんで言えば、いつも所作しょさが奇麗である。いつでもの前提が違い気がする。


「所詮、お茶も本来は相手との場を作るのが目的であって、

 相手を恐縮させるようなことは慎むべきかとも言われてますわね」

「つまり……肩肘を張ると、相手にもそれを強いてしまうということ?

ソラさんみたいに自然体に奇麗であればいいけど、それに見せかけようとするのはダメだという事かな?」

「そのとおりですし、

 ふふふ、美怜さん、褒めても何も出ませんわよ」


 と、笑顔がほころぶと奇麗さと優美さが増す。


「そういうことだ。

 ブランドマークとかも高いものほど、さりげなく成るからね。

 目立つほど、良いという訳でも無いのさ。

 ただ、進歩を辞める理由にはならないから、自身で直したいと思ったら研鑽すべきだとは僕は思うがね?」

「マラソンみたいに?」

「そうだね。

 結局、人間とは言葉で言っていても仕方ないのさ。

 この世界は行動しないと結果が出ないようになっている。

 悪かれ、良かれね?

 誠意努力が伝われば、決してみっともない行いにもならない。

 またアンダードック効果、すなわち相手に優位性を与えて好印象を与える効果もある」

「アンダードック効果?」

「簡単に言えば、出来ないところを見せ、教えたがりの人の意欲を刺激することだね」


 なるほどっと思う。


「マラソンといえば、美怜さんは大丈夫なんですか?

 その……体の件」


 ソラさんが私を心配そうに眉毛を下げてくれる。


「朝なら紫外線少ないし、そこまで長時間じゃないから平気だよ。

 涼しいから汗もかかないし、ウォーキングだから。

 望は全然大丈夫なんだよね?」

「僕はアルビノとはいえ、紫外線がそこまで脅威じゃないからね。

 プールの授業でも問題ない」

「そういえばプールかぁ……。

 私、絶対ムリだからなぁ」

 

 紫外線除けがプールを汚すのもあるし、紫外線がツライ。

 全部を落とすのに時間かかるし、全部を塗るのも時間がかかる。

 望は軽めのしかつけてないので、さっとながして、さっとつけれる。


「ぇ、平沼ちゃん参加できないのか。

 来週からなのに!」

「水戸、何か言おうとしたらひねりつぶすわよ?」

「いや、普通に心配しただけだが……腕ひしぎ十字がためええええ」


 いつもの光景だ。

 皆、流石に慣れたもので数人が面白そうに見ているだけである。


「スクール水着は持ってたけど、使い道なかったんだよ。

 海水浴も行ったことないし」


 リクちゃんに貸したのが初使用だ。


「保健室で暇になりそうなのが問題かなぁ……」


 一番の問題はこれだ。

 プールサイドでこんがり焼かれるぐらいなら、保健室に行く方が健康的である。

 勉強でもしていればいいだろう。


「僕もアルビノを理由に休もうか?

 美怜の居ない授業など無駄な時間にしかならない」


 と、普段から自分の勉強をしている望の言葉は事実なのだろう。

 

「ありがとっ。

 でもいいよ、望は望でちゃんと高校生活を楽しまなきゃ」

「しかしだな」

「望?」


 強めに言ってやる。

 そうすると、望は「判った」といって引いてくれる。

 私が青春をあげると言った手前、こういった積み重ねも重要だ。


「ちなみに望は泳げるの?」

「僕に不可能はほぼほぼない。

 当然、泳げる。

 というか、泳げなきゃ死んでる……」


 遠い目の望。

 何があったんだろうか。


「唯莉さん?」


 頷いてくるので何をしたかはあえて聞かないことにした。

 唯莉さんなら、まぁ、仕方ないなと。

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