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3-16.やりづらい大人。

〇望〇


「僕はチョコケーキが良いな」

「私はチーズケーキだよ」

「ソラもチョコケーキですが、ラム酒を利かせた方がいいかなと」

「ウチはチーズケーキ!」

「ワシはモンブランがよかったぞ?」


 と、ソラ君のケーキを食べ終え、歓談をしている。

 何というかワイワイという形である。


「御父様、残りは御母様にもございますのでお持ちください」

「あぁ、判った。

 とはいえ、食べるかは知らんがのお」

「いいんです、ソラが食べて欲しいだけなので」


 と、ソラ君が気を遣っているのは実ればいいなとは思った。

 血は繋がっていないとはいえ、どちらかが死ぬまでは付き合う仲だ。

 険悪より、良好……とは言えないでも、マシには出来るであろう。


「さて、本題に入ろうじゃないか、望君」


 と、お茶を出されて落ち着いた後、六道氏は僕に威圧をかけてきた。


「いつ、ソラと婚約するんじゃの?」

「その話は違いますね、今日の本題ではない」

「リクの方が良いのじゃな?」

「そうでも無いです」

「両方とも持っていく件かのぉ?」

「それでも無いです!」


 間合いを外されている感覚がある。

 前の二人が、残念がっているが無視である。

 横の美怜が赤い目をした怖い顔を六道氏と僕に向けているので、話を進めて欲しい。

 今の美怜は般若にも思える形相だ。

 なので、


「お父さんと唯莉さんの件です」

「あぁ、その件じゃったな」


 心底つまらなそうに言ってくれるので、イライラしてきた。

 それが演技なのが判っている分、特にだ。

 リク君からは聞いている。

 今日の件を話した時点で楽しそうにしていたと、だから即日にアポイントが切れたと。

 狸である。

 金髪なので狐の方が良いかもしれない。


「ヘタレな唯莉が九条に恋し続けている件じゃろ?」


 ヘタレ、僕の中ではそう評価されると少し違和感がある。

 街の中でも出てきた単語だ。


「……自身が当事者にならない話ですね?」

「そうじゃ、いつもあいつは自分が傷つくのを怖がっている」


 しかし、家族計画を自身でやらなかった事を考えると理解できてしまっている。

 唯莉ゆいりさんはいつも他人を動かすばかりで自分は動かないのだ。

 必ず事象から距離を置いている。


「とてつもなくどうでも良い話じゃ。

 あいつが攻め切れないのは昔からじゃ」

「つまり、どうでも良い話に対価を求める訳ですかね?

 それはオカシイ」

「ワシが出す理由が無いだけじゃ。

 ただ、ソラの許嫁相手じゃからの融通してもいい」


 想定内の回答。

 僕を許嫁だからと特別扱いしてそれを恩にしたいということだろう。

 彼は僕を縛りつけて、お父さんへの楔にしたいのだ。


「どうじゃ?」


 一瞬だけ、思考を巡らせて、解答を出す。


「ここの美怜、悠莉さんの忘れ形見のお願いに絡むと言っても?」

「ほう」


 乗ってきた。


「彼女は唯莉さんに育てられた。

 ずっと、母親の像を彼女に求めていた。

 しかし、ヘタレな唯莉さんはそれを拒否した。

 代わりに僕を家族にあてこむまでしてね?」

「そこまでは九条にも聞いておる。

 だからどうしたというのだ?」

「質問を質問で返して申し訳ないが、

 何故、唯莉さんの好意にお父さんは答えないと思う?」

「悠莉の事を思い続けているからじゃろうな」

「なら、思い浮かべて欲しい。

 悠莉さんのテープの中身を。

 これの中には、自分の事を忘れて欲しいという願いが込められているのではないかね?」


 鎌をかけた。

 この論拠は唯莉さんが悠莉さんを演じた時の言葉だ。

 彼女の言葉は確かに魂の込められていたモノで、唯莉さん自身の言葉ではなかった。


「――」


 六道氏が僕を品定めするように見てくる。


「それを叶える事は貴方が好きだった人の願いを叶える事と同義だ。

 貴方の尊い純愛精神に満足感を与えることが出来ると思うが?」

「――それだけでは三十点じゃ」


 思ったより渋い点数だ。

 ただ、三十点は貰えたので良しとする。


「あなたの罪悪感を消すことが出来る。

 あのテープ、本来渡すべき時に渡せなかった。

 それを解消しよう」

「マイナス三点じゃ」


 予想外だ。減点されてしまった。

 だが、ここからが本番だ。


「六道氏」

「なんじゃ」

「過去の払しょくを叶えてみたくはないかね?」

「――何?」


 予想外だったらしい。

 既にリク君から伝えていた理由、九条の息子が九条を苦しめるは想定内だろう。

 だから使わず、違う視点から殴りつけた。

 予想通り、興味を引くには十分だった。


「言おう。

 貴方は恐らくだが、悠莉さんの最期にも立ち会っている。

 このテープを頼まれた時に、そこまで敬愛する人が死を覚悟しているとしたらどうするかね?

 僕だったら最高の状態で迎えて欲しいと思い、援助を行う。

 そして立ち会う。

 だから立ち会えなかったお父さんを酷く責めた。

 あぁ、もしかしてあなたはそれをしなかったのかい?

 しなかったのなら、申し訳ない、貴方の恋はその程度だ。

 貴方には財力もあっただろうし、当然、医療にもコネがあったはずなのにね!」


 ソラ君にお父さんの症状を述べた際に、医療にコネがあると言われたことを思い出しながら断言する。


「唯莉に聞いたのか?」


 事実だと認めた回答だ。


「いいえ、全部、僕の推理です。

 ソラ君に聞いた部分もあり、貴方から聞いた行動を纏めた結果です。

 最後のは挑発ですが、こうでもしなければ感情が動きそうになかったので」

「許そう、続けろ。

 それが過去の払しょくになる理由をな」


 許可は貰った。続ける。


「お父さんと唯莉さんが結ばれるとどうなるか。

 そうだね、リク君に聞いてみよう。

 結婚したら二人の間には何が出来る?」

「――んっと、子供ですの!」

「正解だ、リク君は賢いな。

 これには美怜の協力もいるだろうがね?

 お父さんも唯莉さんも美怜には借りがある、子供が欲しいと言えば、ラグビーチームぐらいはこさえるだろうね?」

「そこまでは求めないよ!」

「『は』だね?

 美怜、弟とや妹は欲しいということかね?」

「うん、欲しいよ」

「妹はうちだけで充分ですの!」

「リクちゃんも妹に欲しいから、持ち帰っていいですか?」

「ダメですわ」


 話が脱線しそうになるので、コホンと一呼吸し、周りを落ち着かせる。


「子供が出来た時、母体となった唯莉さんはもつと思うかね?

 美怜はどう思う?」

「――もしかしてお母さんみたいに死んじゃう?」

「間違いなくそうだ」


 ここは完全に可能性の域だが、断言する。

 中学生レベルの体だった筈の悠莉さんが耐えれなかったのだ。

 小学生の体をした双子の唯莉さんが耐えられるワケが無いと言った方が、耐えられるというより説得力がある。

 それに唯莉さん自身が医者に聞いたことがあると言っていたのは確かだ。


「六道氏、貴方は唯莉さんを助けることで悠莉さんの時に出来なかった過去を払しょくできるのさ。

 それを無事に活かすことで、貴方の後悔を消し、尚且つ悠莉さんに胸を張って言えるだろう。

 自分は貴方の妹を救えましたと。

 それは最大限の栄誉ではないかね?」

「認めよう、プラス五十点だ。

 それは予想外のところだ。

 しかし、あと二十三点どうするのじゃ?」


 ニヤニヤとした意地悪い表情を向けられる。


「望君自身が九条を責め立てる話でもするのかい?

 それは恐らくリクの提案じゃろ?」


 想定通り、加算が期待できないと言われる。

 想定外としては、それがリク君の発想だとバレていることぐらいだ。

 まぁ、リク君の親だ。

 思考パターンの癖みたいなのは見抜かれている可能性はあるので、原因は探るだけ無駄だ。


「それは無いですね」


 とりあえず、否定をしながら、思い返す。

 三点減らされた部分は何処だ?

 お父さんへ渡していない、心の負い目か?

 違うな。

 それなら加点される。

 テープを渡したくなかったのは彼自身が最後の形見として持っていたかったのだ。

 彼にとってそれを渡すのは損なのだ。

 感情の部分は十分に詰めた。


「これにはおまけがある

 お父さん、九条・つむぎと平沼・唯莉ゆいりに恩を売ることが出来る」


 つまり利得の部分であろうと確信し、僕は攻めることにした。

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