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3-15.六道氏とお母さんの遺言。

〇美怜〇 


 枯山水な庭が見える大きな会場にリクちゃんに案内される。

 自分の場違い感が自分にヒシヒシとする。

 望を観ると、別段緊張した様子もない。

 場慣れしてる感があり、ズルいと感じた。


「しかし、ポケバイが爆発するとはね。

 庭が様変わりしているのはそのためかい?」

「あの後、消火活動が大変でしたわ。

 せっかくなので庭もソラ好みにしてみました」

「渋いね、でも良いと思う」


 と、ソラさんと会話の余裕も出ているのが恨めしい。

 ソラさんと親しそうに庭の会話が出来ているのも羨ましい。


「あんまり緊張しなくていいですわよ」


 ソラさんに言われる。

 大人の余裕というヤツだろうか、自分の至らない点を理解し、恥ずかしくなる。


「……御父様は変な人ですが」

「それプレッシャーを与えてはいないかね?」

「事実ですから。

 最近、理解しましたけど」

「事実ですの。

 最近、御父様のことを誤解していたと理解したウチもいますから。

 無口で無力で御母様にモノを言えないと思っていたましたの」

「リク、ソラ、無口で無力な御父様の方が良かったかね?」


 と、黒服にあけられた襖から入ってきたのは年配の男性だった。

 金髪に白髪が混じり始めており、初老を感じさせる。

 しかし、身体はがっちりとしたモノであり、若々しくも見える。

 お父さんや唯莉さんと同じ歳だということは聞いているので、それで補正がかかっているのかもしれない。


「……御父様」

「いいえ、今の方が親しみやすいですの」

「リクは素直でいい子じゃの、ソラはもうちょっと堅くなるのはやめた方が良い」


 やはり望に似ている?

 第一印象はそれだった。

 目元あたりだろう、きついと思われるそのそれは、よく見れば優しみに溢れている。

 望のそういった目元と似ているのだ。


「ようこそ、婿殿と平沼・美怜君。

 ワシが鳳凰寺家、現当主、六道じゃ。

 和室だから正座になるが、まずは机を囲って座るがよい。

 正座がダメなら足を崩してもいいがの。

 ワシは崩す」


 と、私に向かって優しい目線で会釈してくれる。

 ふと、感じたのは何かを思い出すかのような、懐かしみを感じたモノだった。


「婿殿はまだ早いですよ、既成事実すらないんですから」

「ホホホ。

 ワシみたいに若い頃にバリバリいわせたほうがいいぞ?

 婿入りしてくれるなら、二人とも娶ってもいいのじゃぞ?」

「魅力的な提案ですが、それお父さんへの嫌がらせ目当てですよね?

 九条家の復興を阻止する狙いもある」

「それもある。

 だが、個人的に君を気に入っているのじゃよ。

 ソラの事を自分のだと宣言したそうだね?

 いいじゃないか、そういうの。

 昔のワシを思い出す」

「どう反応したらいいのかちょっと僕も悩みますね。

 六道氏の過去をなぞると、僕は舞鶴湾に沈みますし」

「ほほほ。

 純粋に親近感というヤツじゃの。

 高校時代に悠莉のことを自分のモノだと言い切って、沈められはしたが。

 そのおかげであの二人はくっついたのだから、ワシはキューピットじゃぞ?」


 望の口元がバッテンになる。

 初手から押されているのは初めて見た。

 相性的に悪いのかもしれない。


「で、三塚家に牛耳られるのはどうかと」

「いやいや、妻はワシの事を考えて、尽くしてくれただけじゃ。

 三塚の介入はないし、尽くされるのもいいんもんじゃぞ?

 ただな、ソラの件だけは譲れんかったし、九条が復帰したのでやるきでたわけじゃ。

 ワシが攻めになってからは夫婦仲は戻ったし、熱い夜を過ごして居る。

 ソラとリクや。

 弟か妹が増えるかもしれんぞ?」

「やった、リクもお姉ちゃんになれるですの」

「御父様から、そんな話を聞かされる思春期の娘の気持ちを考えてくださいませ」


 ゲンナリするソラさんと嬉しがるリクちゃんが対照的である。


「さておき、

 平沼君は悠莉によく似ておるな。

 どうじゃ、妾にならんかね」

「六道氏、それをされたら、僕は敵に回りますよ。

 あと唯莉さんも恐らくは協力してくれます」


 望が睨みという形で六道氏を観る。

 流石に本気だと感じ取ったのか、六道氏も顔を引きつらせている。

 唯莉さんという単語が効いたのかもしれない。


「冗談じゃ、冗談。

 唯莉とやりあう気は無い。

 実は悠莉に舞鶴湾に沈められてから、白肌には欲情できなくなってな?」


 アルビノの事を言われ、怒っていいのかな、とソラさんへ目線を送った。


「御父様!」


 すると、ソラさんがいい加減にしろと私の言葉を代弁してくれた。

 ありがたい話だ。


「おっと、娘が怖いので進めようかの。

 話をする前にそこの平沼君に渡すものがある。

 あれを出せ」


 と、黒服が入ってきて私の前にアタッシュケースが置かれた。

 開けられると袋に入れられた、何だかよく判らない四角モノが入っていた。

 中にはセロハンテープのように黒いテープが両サイドから伸びている。


「カセットテープ?」


 望に言われ、私の知識にもヒットした。

 初めて見るモノだ。

 昔、音楽を録音するための機材だった気がする。

 望も何だろうと、はてなマークを浮かべている辺り、想定外の代物だという事だけは判る。


「悠莉、君のお母さんの最後に残った音声が入っている。

 本来は九条に直接に渡すべきモノじゃが、君に託そう」

「――!」

「惚れた女の最後のお願いじゃからな。

 保存状態も完璧じゃ」


 今までお母さんの記録には触れたことがほぼ無い。

 確かにこの前、小牧さんの家でアルバムを手に入れたが、それだけだ。

 唯莉さんがお父さんのために家の中を処分しつくして、記録が残っていなかったのに、音声が残っているというのだ。

 私の中に早く聞きたいという気持ちが沸くが抑える。


「長い事、奴とは仲違いのままだったからな。

 望君は聞いておるかの?」

「詳しくは聞いておりませんが、痴情のもつれとだけ」

「あやつの口からは言いづらい件だからの。

 悠莉の死に目に会えなかった奴をワシは責めたんじゃ。

 と言っても、あの時は奴は既に廃人のようになっていたのじゃが」

「トラウマの件ですか?」

「あぁ、そうじゃ。

 ライバルとして、友として観ていたあいつの有様は観ていられんかった。

 だから、ワシはあいつを見限った。

 このテープの中身はそれらを全て予見した悠莉の言葉だ。

 収録にはワシも最新の機材で立ち会ったもんじゃ。

 本当に喧嘩別れするとは思ってもみなかったが」


 六道さんは昔を懐かしむように目線を外に向ける。

 

「とはいえ、悠莉自身は自身の死期を知られたくなかったのも理解していた。

 小さい男じゃよ、ワシは。

 仲直りしたら渡してくれと言われておった。

 しかし、この前、和解と礼を含めて尋ねられた時にこれを渡さなかったんじゃから」


 と、この人が小さく見えた。

 存外悪い人ではなさそうだ。


「ありがとうございます。

 お母さんの遺言を守っていただきまして」


 礼は考えずとも出てきた。

 リクちゃん然り、ソラさん然り、根はまっすぐな人だ。

 多分、その根っこはこの人から受け継いだものだろうと感じたからだ。


「ちなみに、盗撮画像もデータにしてあるから持っていくといい」

「御父様、見直した瞬間に自分の株を下げるのはどうかと思いますが?」

「ソラ姉様も望お兄様の画像がパソコンで保存されていますので、どうかと思いますの」

「リク?」


 と、ヲチがついた。

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