3-13.お姉ちゃんの欲しいモノは?
〇美怜〇
「誕生日、何か欲しいモノはございますの?」
っと、聞いてくれるのはリクちゃんだ。
悩む。
確かに欲しくなったものはあるが、それはモノではない。
それにリクちゃんにはリクちゃんでいるだけで嬉しい。
「リクちゃんが妹であってくれるだけで嬉しいよ」
だから言う。
「ウチもお姉ちゃんがお姉ちゃんでいてくれたら嬉しいですの!」
相思相愛である。
なので、お互いにどちらからともなく笑みが浮かぶ。
アーケードの商店街の中に華が咲いたかのように、観光客が立ち止まり見てくるので少し恥ずかしい。
確かに私たちは目立つ容姿をしているので珍しいのだろう。
写真の音が聞こえたのは星川さんだ。
観れば黒服が人通りの中に確認できる。
無断撮影した人の写真を回収してるし、安心できる。
望はいない。
考え事があるとのことで置いてきて、晩御飯の買い出しに出た所だ。
「ずっと欲しかった家族は出来たから、特に欲しいモノは無いんだよね」
望の事だ。
そして私から見ればリクちゃんのことだ。
「望お兄様も同じような事言ってましたの。
それでお姉ちゃんも、何というかお金やモノとかに興味がなさそうなのでどうしたものかと」
「あはは、確かに。
それに今日は晩御飯も一緒だし、それで嬉しいんだよ?」
余り物欲がある方ではない。
引きこもりが抜け切れてないので、ゲームさえあれば割と十分である。
「そうしたら、リクちゃんには誕生日ケーキをお願いしようかな。
私と望とソラさんの分」
「ケーキですか……」
「イヤ?」
「いいえ、ソラ姉様、何かすごい勢いで自作しそうで。
今日も朝にケーキの本とにらめっこしてましたの」
「あー……」
やりかねない。
ソラさんは料理の腕前も凄い。プロ並みだ。
プレゼントとは別に用意してくる可能性がある。
さておき、
「ソラさんとは上手くやっているようで安心したんだよ」
「最近、ソラ姉様が愉快な人だと気づけたので」
「あー、確かに」
他の人と話している時は大抵、会話が理路整然としており、どこか威圧的な雰囲気を感じる。
ただ、望や私と雑談していると、隙が出来るのだ。
よく笑い、よく頬を膨らませ、素直で表情が変わり、楽しいのだ。
「姉らしくしようとして空転してるのも含めてですが。
この前はお弁当持たされましたし……美味しかったですが」
「うんうん、ソラさんのお弁当美味しいよね」
「お重で渡されても食べきれませんの。
二段とは言え。
結局、残したのは星川にあげましたが」
「あはは」
何となく想像がついた。
行動力がソラさんの魅力だ。
望にやるように何だかんだ、リクちゃんに構っている姿が想像できる。
微笑ましい光景だ。
「上手くいっているようでなによりだよ」
「少しウザいぐらいですの。
でも、前に比べて親しみやすくて家族って良いものだったんだなって思えましたの。
ソラ姉様と言うと嬉しそうにしてくれるのは、悪い気はしませんが」
「リクちゃんがそう言ってくれるだけでも嬉しいんだよ」
良い子良い子と頭を撫でると少し震えくすぐったそうにするが、ニコニコとしてくれる。
私も望が来てくれて実感したことだ
「でも、ちょっと嫉妬しちゃうんだよ。
リクちゃんをソラさんに託したとはいえね?」
と、感傷的に成ってしまうのはきっと望に抉られたせいだ。
意識しなければ、こんな感情には気づかなかったはずだ。
「お姉ちゃんは一人しかいませんの」
「リクちゃん……」
と頬を膨らませて言ってれて気を楽にしてくれる。
ありがたい話だ。
「そしたら今日はリクちゃんの好きなモノにしようか。
特に献立決めてなかったし。
星川さんも一緒にどう?」
今日はソラさんもお父さんも居ないとのことで、家で食べることになっている。
「星川はこの後、御父様の迎えに京都に行くとかで」
「それは仕方ないね」
「如何せん、あれでも有能なんですの。
この前のソラ姉様の件で刑期が終わってないのであれこれ使われてますの。
あと食事前に薬の摂取も兼ねるで時間が掛かるのであまり一緒には食べたがらないですの。
写真を撮る建前なきがしますが」
望とプラスアルファ相手に足止めしていたらしい。
あの許嫁事件の翌日、リクちゃんを迎えに来た時、無傷だったのを観るに優秀なのは確かである。
「そしたらスパゲッティとかどうですか、トマトを使ったので。
ウチのせいで置きっぱなしになってしまった、あれですの」
「お好み焼きになったんだよね……」
傍から聞けば謎である。
ともあれ、メニューは決まった。
ひき肉とトマトが必要だ。乾麺も必要になる。
財布からメモを取り出し、買い物の行き先を決めることにする。
「そうだ、短冊を商店街の受付に渡さないと」
っと、願いを書いた白い紙、財布に入れたそれを思い出す。
「願い事ですか?」
「うん、七夕のだよ。
リクちゃんも貰って書いたら?
私は他力本願するつもりはなくなったから、こうしますみたいな感じだけど」
「そしたら、ウチは『望お兄様を振り向かせます』ですの」
「リクちゃんは本当に真っすぐだね?」
こういう所はソラさんと全く持って姉妹である。
ソラさんも望への好意を隠そうとしない。
許嫁になった今、隠す必要も無いのだが。
さておき、
「そういえば、短冊って願い事一つなんですか?」
っと、ソラちゃんが続ける。
「ウチは『お姉ちゃんともっと仲良くなりたい』、『ソラ姉様に勝ちたい』というのもあるんですの。
後は『舞鶴高等学校に受かりたい』もあるますの」
「……あれ?」
言われ、どうだったかなと。
ゲームとかの知識だと、基本は一つ願いを選択している。
けれども実際はどうだったのだろう。
「望に聞いてみるかな?」
っと、ラインに質問を送るとすぐさまか返ってくる。
やたら長い説明だったので、省略して結果だけを観る。
「特に問題ないって」
「そしたら四枚頂きますの!」
と、嬉々として取りに行く。
そんな様子を配っている受付の人が楽しそうに渡しているのでこれはこれでありなのだろう。
私は増やすか悩むが、結局増やさないことにする。
「今、一番したいことはこれだからね」
っと、もう一度、自分の短冊を観て、思いを確かにした。




