3-12.お兄様の欲しいモノは?
〇望〇
「誕生日、何か欲しいモノはございますの?」
っと、聞いてくれるのはリク君だ。
毎週日曜日、リク君とは約束通り、朝から勉強を教えている。
美怜はというとテキパキと家事を行い、今は部屋で昼寝している。
「欲しいモノか」
と急に言われても浮かばない。
美怜やソラ君は本人たちで考えているので、この質問は出てこなかった。
悩む。
「お金とかモノとか自分でご用意できそうですので、何とも浮かばないんですの。
ソラも部屋で悩んでおりまして、ウチに相談するぐらいですので」
確かに、お金は株やそもそもにお父さんからの生活費という名の高校生には分不相応な給料がある。
手に入らないものもネットが発達した現在、お金さえあれば買える。
「今までは家族が欲しかったんだけどね。
それは叶ってしまって、そこからは僕は目的や趣味がない」
空っぽになっている自分を自覚しているのは確かだ。
だからこそ、美怜への依存度が高いのかもしれないが。
さておき、
「毎日、走っているのは鍛錬で趣味ではない。
確かにぬいぐるみとか、動物とか、愛くるしいモノは好きだが、買おうとは思わない。
ぺータ君の出てくる『ぞくぶつの森』は一日少しずつやればいいスタイルだから、課金もしないし」
ちなみに美怜とは『ぞく森』でフレンド登録されている。
が、美怜は効率を求めまくっており、無課金ながらどんどん開発が進んでいる。
ビルが立ち並んでたと思ったら、次にはピラミッドが立っていた。謎だ。
ゲームとなると例の能力で想定されるのが動画作成者とか進んでいる人が対象になって、十全に発揮されている結果であろう。
もしTASさん動画を基準にしたらリアルタイムで再現できる可能性がある。
恐ろしい。
「家族……。
リクと子供を作りますか?」
と、不意に言われ僕はリク君の眼を見た。
そのエメラルドグリーンな眼は淀みなく純真さと好意が浮かんでいた。
違和感があったので聴く。
「リク君、子供ってどこから来るかわかるかい?」
「勿論ですの。
コウノトリが運んできますの」
自信満々なリク君。
姉と違い無垢な反応が新鮮だ。
当然に生殖行為が浮かんだ僕が汚れているのかもしれない。
「それは男の人に言ったら襲われるから言わない様に。
教えてやろう! ってな具合にね?」
「?
望お兄様なら、リクは何でも受け止めますよ?」
と、言ってくれるので嬉しいと思い、リク君の全体に目線を回してしまったのは男のサガであろう。
入念なく手入れされている金髪ロールは工芸品のようだ。
またソラ君と違う味わいのある肌色の頬に浮かぶ一筋のサクランボ色。
体の作りも、特に手が小さく壊れてしまいそうだ。
なのに、不釣り合いの胸が女であることを強調しており、女子中の制服なのが背徳的。
陳腐な表現になるが美少女である。
兎のような可愛さのある美怜との大きい違いで言えば、気品がある。
モデルのようなソラ君のように凛々しさがあるとも違う。
清流のような無垢さと清廉さがある。
「ぐ」
反面、どう説明しようか悩む。
ストレートに説明するのはありだが、実演をせがまれる可能性がある。
それはお互いのために却下だ。
今の僕から見たらリク君は妹みたいなモノだ。
それに許嫁の件で僕は立場を縛られている。
万が一も起こすべきではない。
あと、ソラ君にバレたら絶対に捕食される。絶対だ。
とりあえず、
「ソラ君に聞いてみるといいのではないかね?」
他人任せにする。
ソラ君なら旨い事やってくれるだろうと、信頼がある。
美怜?
家族観が読み切れてなくて怖いから却下だ。
何を説明されるか、たまったものではない。
「はいですの、機会があれば」
ともあれ、話を戻す。
「あるヤツの話では、記憶に残るプレゼントをするのが良いらしい。
僕も美怜とソラ君のプレゼントは悩んでいる訳でね?」
実は困っているレベルである。
美怜もリク君も何でも嬉しそうにしてくれるのは判っている。
だから困っているのだ。
「リクも祝ってほしいですの!」
「誕生日は?」
「十月十二日。
体育の日ですの」
まだまだ先である。
「とはいえ、ソラ君から聞いてるが誕生パーティーするのだろう?
僕も美怜もパーティーには参加したくないのでね。
個人的にお祝いをすることにしよう」
将来的には必要もあるだろうが、今現状で僕は余り顔を割りたくない。
美怜はそもそもにそういう場に連れて行きたくない。
「はい!
約束ですの!」
っと、小指を差し出されるので僕も小指を差し出す。
最初、小指を交わした時、こんな関係になるとは思わなかったことを思い出すと笑みが浮かんでしまう。
「さておき、ソラ君は何をあげたら喜ぶと思う?」
「ソラ姉様は婚約したら喜ぶと思いますの」
とんでもないことを言われて、口がバッテンになる。
確かに強烈なインパクトはあるし、忘れられない誕生日になるだろう。
「ただ、これ以上はして欲しく無いですの。
許嫁の時点で物凄く心がイヤになったので」
椅子に座っていた僕に抱き着いてきて見上げてくる。
少女の顔が女の顔になっている。
「望お兄様を奪うって決めているんですから」
微笑みで少女の無垢さに戻る。
こういうあどけなさとのギャップはリク君の魅力だと思う。
「ありがとうと言っておこう。
リク君。
お陰でプレゼントを思いついた」
「お聞きしても?」
「ふあー、おはようー」
っと、昼寝を終えた美怜が降りてきた。
「お姉ちゃん、おそようございます」
「おそようだよー。
ちょっと待ってね、おやつ用意するから」
っと、エプロン片手にキッチンへ。
「望お兄様。
お姉ちゃん、何か変わりました?
言葉にしづらいんですけど、魅力がましている気がしますの」
「リク君も感じたということは勘違いでは無さそうだね」
エプロン姿の美鈴。
確かに僕もここ最近、気になっていた点だが、明瞭な答えを得られずにいた。
「キスで僕を窒息させそうになってから変なんだよね?」
「キスですの?」
リク君の翠色の眼が驚きに開かれる。
言ってなかった気がするので、
「欧米だね?」
「あ、確かにありですの
そういえば、いつものお姉ちゃんは可愛いんですが、
何か、その誘われるような色気、そんなのを感じますの。
キスをされたからですか?」
「確かに、抱き着きたくなる感じが増えたね?」
いつもと言えば、いつもなのだが、特に最近、美怜の可愛らしさが増しているのは確かだ。
自分の中での甘やかしたい度が増したのかと思っていたのだが、そうではないらしい。
二人で顔を突き合わせて悩む。
「どうしたの?」
美怜が水ようかんと麦茶を持ってきてくると、不思議そうに僕らに質問を投げかけてくる。
「美怜が奇麗になったのはどうしたのか、リク君に聞かれて悩んでいた所さ」
色気は省略する。
「何もしてないよ?
望にキス出来るようになったからストレスが無くなったのかも?
あるいは、ううん、これは内緒でお願い」
と、美怜は途中で誤魔化すように言葉を切った。
誕生日のプレゼントに関わる話なのかもしれない。
なら聞くのも無粋かもしれない。
お互いに相談しないことを決めたので猶更だ。
「望お兄様、リクもキスしたいですの」
「奇麗になりたいからかね?」
「はいですの!
それにウチも望お兄様が大好きですので!」
と、頬を赤らめながらも満面の笑みで言ってくれるので嬉しくなる。
ジー。
一方、美怜が笑みで見つめてくる。
表情からは思考が読めないが、恐怖を感じさせる笑顔だ。
「ダメだ、美怜もソラ君も僕の基準を超えたからだ。
この前言ったね、楽しませてくれる存在だと?
リク君はまずそこからだね?」
「はいですの!」
っと、頷いてくれたのを観て美怜の表情が普通のモノになる。
安堵の息が漏れた。




