3-11.唯莉さんとの反省会と回顧。
〇ミナモ〇
「自分、まだ弱いんかなぁ」
と、今日、二回も負けたことを思う。
負けないと誓った拳ではあるが、勝てない相手がいることは確かだ。
慢心をしていたのかもしれない、
怪我はない。
頑丈に生んでくれた母に感謝である。
「十分強いと思うで?」
と、後ろに聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向けば、小学生もとい、妖怪ロリババァの唯莉さんだ。
「とまぁ、威力偵察ご苦労さん。
ここは一回探られたから、もう来ないやろ」
そう言いながら、縁側、隣に座ってくる。
上手い事使われたらしい。
「ほら、今日のお家賃と差し入れ」
高級アイスとお札が二枚差し出される。
割に合わない気がするが、勿体ないから食べることにする。
味は好きなコーヒー味だ。
唯莉さんも自分の分、氷砂糖味を取り出し、食べ始める。
「ミナモちゃん、利用させてもろたん。
ごめんやで?」
「いえ、自分の弱い所が判ったので勉強になりましたわ」
クフフと笑みを浮かべてくるので、それも狙いにあったと言われている気がした。
この人はなんだかんだ、おせっかい焼きだ。
「望、強いやろ?」
「強いというか、強かだった感じですわ。
まんまと軸が外されました」
有効はあったが、効果や致命にならなかった感じだ。
体質もあったし、択を狭められた感じもあった。
正面切って戦えば勝てる自信はある。
ただ、結果的に負け。
これが全てだ。
今日の占いを見なかったのが響いたのかな、と思うがそれも言い訳だ。
「未熟すぎる」
もう負けない。
これは水戸との約束。
「無力」
ごめんなさい。
これは平沼っちへの懺悔。
私が親の墓の前で涙しながら無視されていたことを吐露していたのを観て、声を掛けてきてくれたのが平沼っちだ。
唯莉さんが介入するまで彼女は虐められていた。
それを見て見ぬ振りをしていたのにだ。
友達となったのはそんな経緯がある。
「はぁ……」
ため息一つ。
そんな自分をニコニコと観てくる唯莉さん。
優しい目つきだ。
まるで平沼っちを観ている時と同じような温かみを感じる。
「コマキンにそっくりや」
私の目線に気づいたのだろう。
そう母を指す言葉を述べる唯莉さん。
「コマキンもだいぶ悩んでたんや。
ある人に勝てずにね。
結局、最後の最後で勝てたんやけどね」
誰との勝負の話か判らないが、懐かしむように言う。
「唯莉さんは結局、まだ勝ててないんやけどね。
ゆり姉、ほんまに強かったからなー」
自嘲する姿は珍しい。
この人は基本、自信家だ。
それだけゆり姉、つまり平沼・悠莉が強烈だったかが窺い知れる。
平沼っちの母で、自分の母と隣の墓で永眠している。
「唯莉さん、コマキン、ゆり姉の三人で、男一人を取り合ったこともあるんやで?
その時のゆり姉の本気は今思い出しても怖いわ。
高校の屋上から吊るされたし、コマキンは舞鶴城の木に磔にされるし」
爆弾発言である。
唯莉さんが平沼っちを虐めた連中を学校の屋上から吊るした現実があるが、これの影響かもしれない。
「最後に勝てたとは、恋人になったんですか?
おとんはそんなに魅力的に思えんので」
特に最近は酷い。
母に似てきたからって、母の洋服を着せようとかしてくる。
だから、私は伊達メガネが手放せない。
「ちゃうちゃう、あんなでくの坊、好みやない、
唯莉さんよりも弱いし」
唯莉さんが心底嫌そうな顔で続ける。
「それはウチラは負けたんや。
でなきゃ、美怜ちゃんが生まれへん。
勝負はな、病室で最後にしたんや、三人で」
唯莉さんがトーンを落とす。
「死なずに子供を産んだ人が勝ちやと。
……結局、ゆり姉は死んだ。
本人、判ってたんやろな。
自分から見た、母も祖母もその上もほぼ出産時に死んどる。
縁戚であるコマキンも難産、帝王切開して母子ともに命の危機に晒されたけど、これがあったから生きてたんやろし。
意地でも負けるかってね?」
凄く重かった。
ただ、自分がここにいられる理由の一端でもあると思うと、感慨深いものがあった。
「結局、生きてるのは唯莉さん一人になってもーたけどな。
自分は勝負の土壌にもたててへんけど」
母は病死だった。
幼稚園の頃、平沼っちがこっちに来る前の事だ。
ギランバレー症候群という珍しい病気で、筋肉が衰えていく病気だ。
それが重症化し、心臓が止まった。
泣き叫んだ。
その後、自分は母の意思をついで体を本格的に鍛えはじめ、才能を開花することになった。
「唯莉さんが最初に逝くと思ってたんやけどなぁ……。
成長でけへんし、絶対内臓に歪みが出ると思ったけど、ピンピンしとる。
初潮はまだきーひんけどな。
子供は産みたいけど」
と、最後に冗談やでと〆て笑う。
重すぎて笑えないのにどうしたらいいのだろうかと悩み、顔が引きつっているのが判る。
「コマキンにも挨拶したかったんや。
これから少しやることがあるから」
「やることですか?」
「せや、ゆり姉に勝つ勇気を貰いたかったんや。
ミナモちゃん私の作品読んでたり、見とるよな?」
「ええ、まぁ……」
昼ドラ系が多い。
特に姉妹で男を取り合うドロドロなモノだったり、疑似的な近親相姦、つまり妻の妹との関係を匂わせたりする。
あまり高校生に勧められるモノではないが、定番と言えば定番だ。
あと作風は変わるが、問題のある家族が、ホントに家族になるまでの物語なんかは映画にもなった。
家族の在り方を問うことが多い。
「あれは唯莉さんの願望や」
「ぇっと、つまり、平沼っちのお父さんを堕とすってことですね?」
「ピンポーン」
唯莉さんは大袈裟に丸印を両手で作る。
子供っぽい仕草を子供の姿で行われたが、内容と表情は女のモノだった。
眩しく思えた。
「何十年ごしの恋や、丁度、身体が成長しなくなってからやね?」
この人、自分の体を普通にネタにするのでやりづらいったらありゃしない。
と、ある考えが浮かんだ。
「――ちょっとまってください、
平沼っちと九条さんを唯莉さんの作品に当てはめると、
危ない関係なのでは?」
唯莉さんはクフフと笑うだけだった。




