3-9.足跡探しとバカップル。
〇望〇
『ずっと小学生のままの姿』『小学生を吊るしたことがあるなど、過激な言動が目立つ』『面倒見がいい』『大の大人が数人がかりでも勝てない、容姿に騙されてはいけない』『現代の酒呑童子二号』『ヘタレ』
と、平沼・唯莉とは街の人にこういう感想を抱かれており、僕も概ねこれらには同意である。
一番、多い感想はやはり容姿に関してだ。
あの成長の止まった姿は特徴的だ。
「なんだい、望君、唯莉さんのことを聞きたいとは。
美怜ちゃんを連れずに」
行きつけの肉屋のおじさんがそう笑いながら応対してくれる。
「あの人に勝ちたいので」
「……それはやめときな。
無謀というモノだよ?」
と、青筋を顔に浮かべながら諭される。
「唯莉さんは、何というか、人類のバグの集まりみたいな人だから」
「僕も同じ感想です。
所で平沼・悠莉、僕のお母さんについてはお聞きできませんか?」
お母さん、双子だと認識させているため、皆にはこう問うている。
「悠莉さんか――」
他の人にも聞いてみた所、大抵はもう彼女が何年も前の事だ。
唯莉さんと比較して例えられることが多く、意図的に唯莉さんが自分の行動で塗りつぶしていることが多い。
屋上から人を吊るしたことがあるというのが、良い例だ。
本来、悠莉氏に唯莉さんが吊るされた事件だが、それを習うように唯莉さんが美怜を虐めた連中を吊るしている。
そのため、唯莉さんの行動だったと認識を誤魔化しているのだ。
そういった例が多々あり、人物像を追うのが難しいのだ。
また、そもそもここ十年の再開発で入ってきた人も多いため、そもそも知らない人が多い。
「――口止めされている」
他の人には無い反応が帰って来た。
誰にとは聞かない、唯莉さんだ。
この人は陰ながら美怜を観察してきた人だ。
それに代々、給食に肉の卸しをしている舞鶴での経歴が長い店でもある。
「それは美怜に対してですよね?」
と、鎌をかける。
本来、僕のような存在は想定外の筈である。
だからこそ、美怜は連れてこなかった訳だが。
「他言無用で頼む。
ちょっと裏へ」
っと、誘われたのでお店の裏側に二人になる。
「バレたら怖いんでね」
「それは重々承知しております」
はぁ、っとため息と共にする。
そして思い出を絞り出しながら彼は話し始めてくれた。
「仲が良かったんだよ、あの二人は。
唯莉さんも悠莉さんも、程度の差はあれ度成長が止まる体質でね。
それに悠莉さんはアルビノもしていた」
「僕や美怜のようにですよね?」
「そうだ。
だから、虐められることは……無かったな、小牧さんのトコの道場で鍛えてたから。
大体は返り討ちにしてた。
美怜ちゃんはその点、か弱いからね。
小学生の時は難儀したことがあるみたいだが、唯莉さんが虐めてた小学生吊るしたから……」
この前出た情報と合致する。
「過激な人でね。
唯莉さんは最後にヘタレることがままあったが、それが無かったんだ。
真っすぐな人でね」
「鳳凰寺・六道氏を舞鶴湾に沈めたとか聞いてますからね……」
「あぁ、あったね。
高校時代、同輩の九条さん、君のお父さんとラブコメしている所だったね。
唯莉さん、悠莉さん、小牧さんの三人が取り合ってて、凄くうらやまし……くはなかったね。
いつもボロボロだったよ、君のお父さんは。
全員、強かったから。
笑ってはいたが」
今のお父さん、僕が見続けていたお父さんからは想像がつかない。
ただ、小牧家で見た彼の写真は確かに楽しそうではあった。
「事件は六道氏が自分のモノだと悠莉さんを校内放送で全校宣言した夕方だったかな。
怒り狂った悠莉さんは、皆の止めるも聞かずに帰り道に拉致して、海に投げ捨てた。
今となっちゃ笑い話だねぇ。
ついたあだ名が『白童子』、酒呑童子のような鬼のようなパワーから
「普通に危険行為でひきますけどね」
「まぁ、その時代は緩かったのさ。
よくもまぁ、悠莉さん、闇に葬られなかったと思うね」
「さすがに馬鹿な事をしたのが六道氏ですし、処理したら恥でしょうから」
「違いないね」
くくく、とつい近日のように笑うおじさん。
「その事件で、自覚したんだろうね、君のお父さんは。
悠莉さんが好きだと。
次の日、自分のモノだと宣言してたよ。
そこで彼のラブコメは終わって、二人のラブラブが始まって――あー、凄くあてられたことを思い出したわ」
「今のお父さんからは想像つきませんがね」
「君のお父さんが関東行ってからは僕は知らないが。
仲直りしていた筈の鳳凰寺さんとは、完全に縁を切ってたとは聞いてはいる」
っと、概ね重要な情報はこんな感じで実感を交えて教えてくれたのでありがたい事である。
ただ、あまり目新しい情報は出てこない。
寺や神社にも聞き込みをしてみたが、肉屋のおじさんと同程度だった。
特に成人してからの情報が無いのだ。
「あれ、望君?」
西舞鶴駅。
そのベンチで、今日は聞き込みすべきか悩んでいた所に声を掛けられた。
眼を向ければ、褐色の肌に金髪、そして特徴的な眉毛をしたよく知っている美人の許嫁だ。
ソラ君だ。
制服姿は見慣れているが、ここで見るのは珍しい。
「調べ物は順調ですか?」
「正直、手詰まりだ」
最近、放課後はすぐ調査に向かってしまっているため彼女に対してのコミュニケーションが不足している気がする。
美怜にもソラ君にも誕生日の調べ物をしていると誤魔化している。
結局、プレゼントはお互いに相談しない事にしたので、美怜の洞察力もかわすことが出来ている。
「ソラも結構、悩んでいるですよね」
「楽しみだね、どんな凄いものを貰えるか!」
「意地悪ですわ。
望君、実はもう決めていらっしゃるんでしょ?」
「決めてないから安心したまえ」
「意地悪」
ふふふとソラ君が笑ってくれるので、僕もつられて笑う。
大体、悩んでいると僕に助言をくれる彼女の存在はありがたい。
初見こそ、お互いに最悪だったモノの、僕らの距離は良好だ。
「先ずは美怜の誕生日プレゼントを決めたのだが、それを実際に行うための方向性が決まらなくてね」
「いつも美怜さん優先されますよね」
「ダメかい?」
「いいえ、全然、そうでなくては望君じゃありませんもの」
嘆息するソラ君。
けれども、彼女はそれを嫌がらず、嬉しそうに笑む。
「でも、嫉妬ぐらいは許してくださいますよね?」
「それぐらいはね?
勢いあまって、美怜を刺す! とか、僕を殺して自分も死ぬ! みたいに危害にならなければ可愛いもんだよ」
「ソラも難儀な人を好きになったモノです」
「嫌いになるかい?」
「いいえ、私は望君のですから」
そう言って僕に抱き着いてくる。
彼女が好んでつけるシトラス系の香りが鼻孔をくすぐる。
僕も合わせて軽く、胴回りに手を回し、受け入れる。
慣れたものだが、嬉しくはなる。
「ふう、望君成分補給完了!」
「そんなものは無いが、確かに人体は触れ合いにより幸福物質を作るからね。
これぐらいならお安い御用さ。
まぁ、周りの眼が気にならなくなるぐらいにはお互いにバカップルするのはどうしようかと思うがね?」
学生からは『あぁ、噂の』と言われている辺り、許嫁宣言が浸透してきている気がする。
不順異性交遊にも、事実上当たらないので、風紀委員あたりも五月蠅く言ってこない。
美怜とのスキンシップの件でコテンパンにしているので、触りたくも無いと思われている可能性もあるが。
「気になされますか?」
「あの発言の後に、それは今更だね」
さておき、
「ソラ君が放課後にここで降りるのは珍しいね。
何かあったのかい?」
「待ち合わせですわ」
っと、言うと電車が綾部方面から入ってきたアナウンスが聴こえる。
そして待ち合わせ相手が現れた。




