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1-1.一緒に寝ようと思って。

のぞむ


「一緒に寝ようと思って」


 白く可愛らしいアルビノ少女、美怜みれいの第一声がそれだった。

 僕より二周り小さい彼女が座っているベッドは大きく見える。

 真っ白なパジャマに合わせた白いパーカーは耳のようなフード付きで、兎を思わせる。


「お風呂で疲れているのか、部屋を間違えたようだね?」

「……のぞむの部屋であってるよ?」


 頭の中を整える。

 家族だと美怜みれいを騙したのが一か月前。

 一緒に暮らし始めたのは今日、三月二十七日。

 その日までに取り決めたのは家の中では変装しないことが主で、後は掃除や食事の家事当番などだ。


「確かにお互いに部屋に入らないなどと取り決めなかったから別にいいのだが」


 自分も勝手に入る予定があるからだが。

 となると、


「なるほど、聞き間違いか。

 寝る前にお話でもしてほしかったのかね?」

「一緒に寝ようと思ったんだよ」


 何を言っているのだろうか、この少女は。


「待て待て……。

 僕らは双子だな?

 僕は君の足長おじさんの九条氏に預けられていて、君は唯莉さんに育てられていた。

 ここまでは間違いないな?」

「そうだよ?

 誰に説明してるの?」

「美怜にだよ。

 二人で寝る理由が無いということを言いたかったのだが?

 自分の部屋に帰りたまえ」

「家族だから、一緒に寝るんだよ?」


 何を言っているのだろうか、この少女は。


「そもそもに家族だからそれは出来ない。

 話したと思うが僕は足長おじさんでは無い。

 だから家族としてしか好感度を上げるイベントを行った記憶もない」

「でも、添い寝して欲しいんだよ」

「人の話を聴きたまえ……!」

「やだもん」

「男女性差って判るかね?

 僕と美怜は家族である前に、男と女だ。

 男女七歳にして同衾せずという言葉があるね? 

 だから、自分の部屋で寝たまえ」

「嫌だよ。

 そんなの知らないんだよ」


 美怜が声を震わせる。


「……起きた時におはようも、帰ってきた時におかえりを言う相手もいなくて。

 寂しくて、誰にも守ってもらえないと思うと怖かったんだよ。

 他人だった唯莉さんが居なくなっただけで、こう。

 明日起きたら家族である望がと考えると……怖いんだよ」

「なるほど」


 結論、洗脳が想定より進みすぎている。

 一番最初の邂逅で恐怖を想定外に刻みこんでしまったのが原因だろう。


「大丈夫だ、僕は居なくならない。

 朝、マラソンはするつもりだが、ちゃんと帰ってくる。

 二週間に一回は土曜日市外に出るけど、それも必ず帰ってくる。

 だから、自分の部屋で寝てくれ」


 誤魔化す様に微笑み掛ける。

 僕も自分が欲しい理想の家族像を持っているが、こんな異常を求めているわけではない。


「……」


 寝間着の袖を無言で掴まれた。

 赤い涙目を上目遣いにし、語りかけてくる。

 ウサギみたいに庇護感を煽られる。凶悪だ。

 確かに僕は他人に情をもって接することを重視してこなかった分、人形などの可愛いモノに思い入れをし易い傾向にある。

 事実、茶色いウサギのぬいぐるみ、バッテン口で目つきが悪く無愛想なペー太君を本棚の最上段に飾ってある。


「はぁ……胸をもむぞ?」


 少し好感度を落とすことを懸念しながら続ける。


「もちろん、胸だけじゃない! 

 お尻も触ってやる!

 思う存分、お前に僕の欲望を叩きつけてやる! 

 汚してやる! 僕色に染めてやる!」

「いいよ?」


 何を言われたんだ? と彼女に目線を向けると、


「私のチビでデブな体で満足してそ、それで一緒に寝てくれるならいいよ? 

 でも、何となくだけど、それ嘘だよね?」


 こちらを見る青紫色の瞳が上目遣いの角度で赤色に変わる。

 彼女の陶器のように白い頬は風呂上りでほんのりと赤みを帯びている。

 白い砂浜のようにサラサラと手から零れた髪も今はしっとりと濡れ――何というか艶かしい。

 子供っぽい顔つきも見る人が見れば背徳感を煽られる事請け合いだ。

 それに反して体つきはアンバランスだ。

 特にパジャマに納まらない胸はマシュマロの様に抱き着いたら間違いなく気持ちいいだろう。

 そんな風に冷静な観察をしながらも頭は現実の異常さに思考停止しそうになる。


「ダメ?」

「く……!」


 汚れきっている僕はその視線に耐えられなくなり顔を逸らした。

 自分の空回りが滑稽でとても虚しい気分になった。


「――仕方ないか、今日だけだぞ」


 好感度を下げても関係に影響が出ると、自分を納得させて諦めた。

 一度立ち上がって豆電球だけの明かりにし、美怜に背を向けながら寝転びながら掛け布団を羽織る。

 その掛け布団は美怜の体温で暖かく心地よかった。


「胸……揉まないの?」


 無視。


「こっち向いて、望」


 自分の戸惑いを隠そうと平素を装って拒否の姿勢を見せる。

 弱みを見せたら更に自分が譲歩を引き出されかねないからだ。


「……っ!」

「ふふ~」


 背に押し付けられる見た目からの想定以上にボリュームの有る柔らかい物体。

 温かみ……!

 そして何かをまさぐる様に僕の体を這う冷たい手。

 何をされているのかと想定外のことで頭が混乱で真っ白になる。


「望の手、暖かいね?」

「――手が冷たい人ほど心が優しいと言う。

 だから逆の僕は優しい人間ではない」

「優しいよ。

 だって今、私の手を振りほどこうとしないんだもん」


 言われ、気付く。

 彼女の手を受け入れている自分がいることに。


「私は抱き枕みたいだからこのままでもいいんだけど、上向きで寝なくてつらくないかな?」


 迷う。

 しかし、ここまで手玉に取られて意固地になっている自分が馬鹿らしくなった。


「降参だ、降参。

 だから一旦、離れてくれ」


 体中から美怜の体温から解放され、上向きになる。

 横を見ると美怜がニコーッと微笑んでくるので、反射的に顔を壁に向ける。


「手は繋いでて――お願い」


 左手に戻る彼女の手の感覚は震えていた。

 それでも右左と変わったものの手の冷たさは同じだった。

 困惑する自分へは今日だけだと言い聞かせた。


「何故、こんなことになったのだろうか?」


 そして原因を探るために、初めて出会った一ヶ月前のことを思い出し始めた。

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