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美少女モデルに一目惚れされたけど目立ちたくないので放っておいてほしい。  作者: 芹澤
4.アリスと臆病なライオン

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16.俳優Mの目的

『レイジがどこにいるのか教えてもらえないかな?』


 突然カフェに現れた俳優・愛斗の言葉に凪人は戸惑いを隠せなかった。


「一体……なんのことですか」


 背中に冷たいものが流れる。


(まさかおれのことがバレた? でも、そんなはずはない)


 小山内レイジを辞めてからは、かつてのマネージャーどころか芸能界ワンダーランドには意識的に近づかないようにしていた。高度な顔認証や遺伝子の確認などをされたら言い逃れはできないが、そうまでして自分を追ってくる必要はない。


「とぼけるな。ここにいるんだろう、レイジにそっくりの猫が」


「――――ね、こ?」


 あまりにびっくりして反すうしてしまった。しかし相手は大まじめで頷く。


「そう、黒いニャンちゃんだ」


「えーと………」


 話が掴めない。それどころか頭が痛くなってきた。


「このカフェにはレイジとかなんとかにそっくりな黒猫がいるんだろう。だから俺もいつかここに来て存分にモフモフしてやろうと思っていたんだ」


 相手の言葉を聞いて、複雑に絡まっていた話の糸口が見えた気がした。


「質問ですが、愛斗さんは『黒猫探偵レイジ』を知ってますか? 六年前に放送していたテレビドラマなんですけど」


「いや? 両親の仕事の都合で五年前までアメリカに住んでいたから」


「なるほど、だからレイジを知らないんですね。もうひとつ質問――いや確認です。その話を耳に入れた相手はアリスですね?」


 『アリス』という個人名称が出たことに相手は心底驚いたような顔をした。


「きみはアリスのこと知っているのか?」


 解決。すべて解決した。

 レイジであればまっくろ太と『もふタッチ』するところだが、いまは喜びを心の中に留めておく。


「アリスは高校の同級生なんです。『黒猫探偵』に出ていた子役がおれに似ていると勘違いしているんですよ。愛斗さんはその辺の情報を誤解して受け止めたんじゃないでしょうか。マネージャーの柴山さんによるとアリスは時々日本語が変になるらしいですから」


「たしかにアリスとは時々立ち話する間柄だが――……その子役がきみに似ていると『勘違い』って言い方はなんだか妙だな」


(やばい、ちょっと意識しすぎた)


 絶対に知られたくない、という心理があるからつい言葉を盛ってしまうのだ。


「日本語は難しいな」


 相手が帰国子女で良かった。自分の語学力不足だと思ってくれたらしい。


(それにしても意外だな)


 アリスが自分や黒猫カフェのことを他人……しかも男性に対して話していたことは少なからずショックだった。もちろん誰に言おうとアリスの自由でなんら制限をかけられるものではない。胸に秘めておくのが美徳だなんて思わないが、アリスの言う片想いはそんな簡単に話してしまえる内容なのだ。


(あるいはこの人がそれだけ特別なのかもしれない)


 長身で容姿端麗、運動能力も高い上に俳優としての実力も確か。その上、帰国子女で語学堪能ときた。あまりにも設定を盛り過ぎだ。


 そんな愛斗は忙しなくあちこちに視線を向け、遂には膝をついて机やソファーの下まで覗き込んでいる。


「なぁ黒いニャンちゃんは?」


「あぁ、そうでした。すいませんけどこの店に本物の黒猫はいないんです。アリスが言う黒猫っていうのは――」


 にゃぁん、と外から声が聞こえた。愛斗はがばっと振り返って「ニャンちゃん!!」と叫ぶ。


(え?)


 驚く凪人をよそに「ニャンちゃんお散歩出てたのかー」とスキップで表に向かう愛斗。別人格かと思うほど口調が乱れている。テレビドラマだったらNGどころかお宝映像ものだ。


「ニャーンちゃん」


 満面の笑顔で勢いよく扉を開けた愛斗。その視線の先には。


「…………愛斗さん?」


 野良の黒猫を抱いたアリスと買い物帰りの母がぽかんと口を開けて立っていた。

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