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美少女モデルに一目惚れされたけど目立ちたくないので放っておいてほしい。  作者: 芹澤
3.アリスの化粧ポーチ

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12.仲良いんだね

「いつまでもイチャイチャしてるな、着いたぞ」


 柴山が車を停めたのは学校近くのコンビニだった。ここで一服しつつ朝ごはんを食べるのだと言う。


「ありがとうございまーすッ」


 待っていれば自動で開くスライドドアを手動でこじ開けたアリスは元気よく飛び出していく。そうして反対側の凪人の方に回り込んできた。


「行こー!」


「先に行けよ。おれは目立ちたくないし」


 モデルと並んで登校したりしたら嫌でも注目されてしまう。そんなのは御免だった。


「えー?」


 アリスは置いてきぼりにされる子犬のような目をしている。思わず心が揺れた。

 そこへ柴山が横やりを入れる。


「こら、下手な演技で黒猫くんの心をもてあそぶな」


「……ばれたか」


 おどけたように舌を見せるので、凪人は(おれをもてあそぶな!)と叫びたくなった。


「でも上手くなったでしょう? アリサみたいに」


「まだまだだな。おまえの演技は浅いんだよ。男を落とすにはいいんだろうけど」


 アリサ、という知らない名前が出てくる。とは言え二人がいる世界はあまりにも広いので知らない名前が出て気にしていてはきりがない。


「じゃあ行ってきまーす」


 ぶんぶんと手を振って駆けていくアリスを見送ると自然とため息が出た。


「苦労させているみたいで悪いな」


 車のサイドポケットからタバコを取り出した柴山は呆れつつも穏やかな眼差しを浮かべている。マネージャーというよりは父親のようだ。


「アリスにAちゃんねるのこと進言したのは君かな? アリスの奴、もう何回も社長のところに出向いて話をしているみたいだけど」


「……すいません。おれなんかが出過ぎた真似を」


 事務所に所属してギャラが発生している以上、アリスはプロだ。そんな相手に余計なことを言ってしまった。

 しかし柴山の表情は明るかった。


「詳しくは言えないが、そう悪い方向に転ぶことはなさそうだ。アリスも相当参っていたみたいだし。そのくせ、誰にも相談せずに頑張ってしまうタイプだから」


「はい、なんとなく分かります」


「あの通り人当りはいいのに、今まで仲のいい友達がいなかったんだ」


「職業柄ですか?」


「それもあるかも知れないが、根本的に他人を信用してないと思うんだ。複雑な家庭環境のせいかな」


「なるほど……」


 そんな話を聞かされても、と戸惑う一方で、自分は振り回されてばかりで、肝心の振り回す元凶をよく見ていないというのも事実だった。

 ストーカーに啖呵を切ったあとに流した涙。あれが本当の姿の一部なのかもしれない。


「きみ、名前は?」


 柴山はバックミラーごしに凪人の顔を眺める。


「黒瀬です。黒瀬 凪人」


「以前にどこかの事務所に所属していたことないか? なんとなく見覚えがあるんだが」


 さぁっと血の気が引いた。


「――な、ないです。あるわけないです、おれみたいな地味な奴がそんな」


 カバンで顔を隠してガードしたが、目の前の人物が誰なのかなど知る由もない柴山は気にする素振りもない。


「ま、俺の思い違いだな。悪い」


 そう言ってタバコをくわえるとポケットから名刺入れを取り出した。


「これは別にスカウトでもなんでもないけど、俺に連絡したいことがあればここに電話くれ」


 グローブボックスの上に置かれた名刺が白く光る。まるで事件を解決に導くキーアイテムのようだった。

 今の凪人にとってアリスを制御できる人物は心強い。手に取った名刺は片面刷りのシンプルなもので、住所や名前、電話番号が書いてある。


「『ごーるでん・えっぐす』。変わった事務所の名前ですね」


「金の卵さ。愉快だろう。アリスは一番の稼ぎ頭で、ゆくゆくは俳優業にも挑戦させたいと思っているし本人もそれを望んでいる。なんでも、いつか復帰するかもしれない小山内レイジに会いたいんだとさ」


「……車、ありがとうございました。失礼します」


 凪人は制服の内ポケットに名刺を押し込んでから車を降りた。


 先に降りたアリスの後ろ姿そのものは見えなかったが数メートル先に不自然なほど生徒たちが集まって騒いでいる。その中心にアリスがいるだろうことは容易に想像できた。


(小山内レイジに会いたい、だって?)


 残念ながら小山内レイジが芸能界に戻ることは決してない。凪人にはそう断言できた。





「黒瀬くんって兎ノ原さんと仲良いんだね」


 靴を履き替えていた凪人に声をかけてきたのは福沢だった。


 先週の週番で失態をおかした凪人だったが、その後お互いに謝罪してわだかまりは解けている。以降、顔を合わせたときに一言二言話するようになり、型どおりの挨拶にプラスして言葉を交わすという意味では最も親しいクラスメイトということになる。


「な、なんのことかな?」

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