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Aの告白

「私、あなたに一目ぼれしたみたい」


 それが彼女との奇妙な関係の始まりだった。


 彼女――ミルクティー色の髪にターコイズの瞳を輝かせる現役高校生モデルのA――は、にこやかに微笑んだ。


「これからよろしくね、黒猫くん。いろいろと」


 またの名を、炎上モデルのAliceアリスという。




 ※




『鳩田さん、犯人はあなただッ!』


 とある屋敷の中。探偵を名乗る少年にびしっと指先を突きつけられた鳩田はうろたえた。腕を掻きむしりながら叫ぶ。


『ど、どこにそんな証拠があるんだ? 部屋は密室だったんだぞ』


『フフ、たしかに部屋の扉は自動ロック。窓にも内鍵がかけられ、完全な密室状態でした。ただし自由に出入りできる扉がひとつだけあったんです。そう、キャットドア……通称ペットドアがね』


 かたん、と音がしてペットドアが開いた。中に入ってきたのは一匹の黒猫である。驚愕する一同を見て「にゃあん」と可愛らしく尻尾を揺らした。


『簡単なことですよ。鳩田さん、あなたはあらかじめ自らの飼い猫にペットドアを覚えさせ、秘密裏にこの屋敷へと連れ込んだのです。殺害された蛯名さんは大の愛猫家。突然の猫に驚きつつも笑顔で受け入れたことでしょう。あなたはこう言った。飼い猫が勝手に入ってしまった、連れ戻したいので扉を開けてくれないか、と。言われたとおり扉を開けた蛯名さんを隠し持っていたナイフで殺害し、あとは扉を閉めれば自動でロックされる。これで密室殺人の完成です』


『バカを言うな。おれは大の猫嫌いなんだぞ、そんなおれが』


 鳩田の足元で、にゃあん、と黒猫が鳴いた。その視線は鳩田の腕を見上げている。


『鳩田さん、あなたは致命的な証拠を残している。猫アレルギーで触るのもイヤだとおっしゃっていたあなたの腕についているその毛……猫のものではありませんか? 調べればこの屋敷の飼い猫かそうでないかはすぐに分かります』


『う、うう』


『鳩田さん、猫に罪はないのです』


 とどめの一言で鳩田はがっくりと項垂れた。


『半年前に野良猫を拾ったんだ。ずっと猫は嫌いだと思っていたのに面倒を見るうちに愛着が湧いて、可愛くて仕方なかった。だけど蛯名が、珍しい三毛猫のオスだから売ってくれと持ち掛けてきて、断ったら嫌がらせをしてくるようになったんだ。蛯名の圧力で仕事は辞めさせられ、妻とも離婚した。アイツだけは手放せなかったんだ、どうしても。だからこの手で――……』


 泣き崩れる鳩田に甘えるように寄り添ったのは、彼が愛してやまない三毛猫だった。


 ※


『とても悲しい事件だったね、まっくろ太』


 相棒の黒猫・まっくろ太と並んだ黒猫探偵レイジはパトカーに乗り込む鳩田の後ろ姿を見守っていた。


『人が猫を愛しすぎてしまっただけの、シケた事件だったにゃあ』


 人間の言葉を喋るまっくろ太は手厳しく批判しながらもどこか淋しそうに尻尾を上下させている。


『ねぇまっくろ太。いつか人と猫が本当の友だちになれる日がくるのかな』


『よせやい、毛が逆立つじゃにゃいか』


『前にまっくろ太は言ったよね、この世界は猫によって支配されている。人間は知らず知らずのうちに操られているに過ぎない。でも、ぼくはそうは思わない。人間と猫の間にだって愛情や信頼関係が成り立つと思う。ぼくは世界中の猫たちと友だちになりたいんだ。ぼくとまっくろ太のようにさ。ぼくは鳴いている猫と女の子の味方だよ』


 尻尾をそよがせていたまっくろ太は呆れたように毛づくろいをはじめた。


『ま、せいぜい立派な探偵になってオレさまを二足歩行させてみろにゃ』


『うん、これからもよろしくね。まっくろ太』


 猫型パトライトが点滅する中、レイジとまっくろ太は手のひらと尻尾を触れ合わせて『もふタッチ』し、変わらぬ友情を確認したのである。



 ――黒猫探偵レイジ、つづく。

ご覧頂きありがとうございます。

ここまではプロローグ。次話より本編スタートします。

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