5.貴族としての闘い………?
「お久しぶりです。クリスタル公爵令嬢。怪我をなされたとのことでしたがお体は大丈夫でしょうか?」
「お久しぶりです。ベルリス第一王子様。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」
ついにやってきたベルリス王子。子供な挨拶とは思えないやり取りだがどこもおかしいことはない。
「今日はよくいらしてくださいました。どうぞ、こちらへ。」
メリルが案内をする。私はベルリス王子の隣を歩いて世間話をする。そう、これが普通なのだ。
ベルリス王子は私より年上……しかし2歳しか変わらない9歳である。だがこれが普通……私も普通にできて当たり前なのだ。
………
こんなの当たり前にできるわけないでしょ!!
こちとらまだ7歳なんだぞ!(精神年齢で言えば19歳)
めちゃめちゃ心臓が鳴っています。冷や汗かきそうです。ヤバイ逃げ出したい。駄目だ、逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ。
あくまでも表向きは平常心を保って接している。
現在は庭でティータイム中。ボロが出る前に終わって欲しいところ。
ベルリス王子を見る。9歳にして既にイケメンなその笑顔からは何も感じ取れない。
その話の中、王子が新たな話に切り替えた。こちらが飽きないようにという配慮の下だろう。
「そういえばメイドさんがいつもの方と違いますね。何かあったんですか?」
「それは……」
「あ、話にくいのならば無理はしなくとも…」
「いえ、私が怪我をした際に庇ってくれて現在は療養中なのです。」
「そうでしたか。早く治るといいですね。」
「ええ。」
そうしてこの話は終わりそうだったのだが王子の護衛の人……確かフリアンと無駄に張り合おうとしている人が口を開いた。
「つまりあの付き人はあなたを守りきれなかったということですか?それで付き人が成り立つのですか?」
嫌な言い方だ。この人はフリアンのことが嫌いだ。なのでやりたいことはなんとなく分かる。」
「どうですかね、この際に付き人を変えると「今のところそのようなことは考えておりませんね。」
私はつい遮ってしまった。
「しかし主人を守れぬ無能など……「フリアンは私が最も信頼しているメイドです。今回だってその身を呈して私を守ってくれました。決して無能などではありません。ですので変える気はありませんし、そもそも彼女の代わりになるような人はいません。」
ここまで言うべきではなかったかもしれない。だが私を守ってくれた人を悪く言われたくない。大切な人を馬鹿にされたくない。
「みんな大切な人なんです。悪し様に言うのは私が許しません。」
7年間だが、元の私もみんな大切に思っている。その気持ちが心の内側から湧き上がってくる。
「今はフリアンは休養中、ですので私に謝罪を要求します。」
「わ…私は善意で提案しただけであって……」
「ドレク、謝罪しろ。」
「しかし……」
「悪意が無かったにせよ彼女の気分を害したことは事実。……謝罪しろ。」
9歳とは思えぬ迫力で、そして有無を言わさない口調で放った主の言葉で男は折れた。
「申し訳……ありませんでした…。」
「僕からも本当に申し訳ございません。彼女にもよろしく伝えておいてください。では今日はこの辺りでお暇させていただきます。ありがとうございました。」
「いえ、ベルリス王子様さえ良ければまたいらしてくださいね。お待ちしています。」
ベルリス王子は完璧な笑顔をこちらに向けて帰っていった。ドレクは顔を赤くして少しこちらを睨んでいたので貴族スマイルをかましたら慌てて視線をそらした。まったく、あれで王子の護衛が務まるのかねぇ。
そうしてベルリス王子との闘い(?)は終了した。
だが色々とやらかしてしまった……
何回か転びかけたし、おまけに最後の強く言い過ぎたかなぁー。後悔はしてないし一応問題なく終わったけれど……
「お嬢様。」
メリルがこちらにきた。お説教になるのかな?
するとメリルは深々と頭を下げた。
「アンさんのこと、ありがとうございました。……私、あの人は真面目過ぎるくらいに仕事熱心で、誰よりも凄いのに、いつもあの男に馬鹿にされるのが悔しくて、でも何も言い返せなくて……それで……」
「メリル!?どうしたの?」
急に泣き始めてしまった。
「お嬢様が私達のこと、アンさんのことをちゃんと見て、大切に思ってくれているのが嬉しくて…」
ミリアは前からあの男に何度もフリアンを馬鹿にした言葉を聞かされていたらしい。
「ごめんなさい……こんなところで泣いてしまって…」
「大丈夫、みんな私の大切な人だよ。メイドという関係はあっても家族だと思っているから。きっと私が守ってみせる。」
「…お嬢様、ありがとうございます。でも、守るのは私たちの方ですからね。」
「フフ、これからもよろしくね。メリル。」
「はい!」
というか、ついムキになってしまったけど今の私ってこんな感じじゃなかった気がする…まぁ、いっか。