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閑話 騒動の後で

ベルリス王子視点


今回の騒動が一通り終わり、部屋の椅子に腰掛けて今日一日を振りかえる。弟が前向きになり、従魔との契約にも成功して、友達も出来た。今まで弟のことを焚きつけていた馬鹿共にはしっかりと話をしておいたし、弟の人生はようやく始まると言ってもいいほどだ。

…正直、申し訳なかった。いつも弟は私と比べられ、ついには自分に自信を持たなくなってしまった。弟を守りたくとも邪魔な王位継承権などのせいでまともに傍にいてやれもしない。ならせめて弟が楽に生きられるように動いたつもりだったが、それも上手くいかなかった。誰も弟を見てくれやしない。親の違い?だからなんだ。種族の違い?それがどうした。弟の良さは私とは全く別なものなのに。その一言を掛けてやることさえも出来ず、弟の心が沈んでいくのを見ていることしかできなかった。そんな弟を前向きにさせてくれたのはあの少女達2人…特にクリスタル令嬢。

フォレスト令嬢もクリスタル令嬢に…とフォレスト公爵は言っていたな。



…クリスタル令嬢…か。



久しぶりにクリスタル家へ訪問した時に、違和感を感じた。いつも作った笑みを浮かべ、愛想よく完璧に一連の動作をこなす僕と同じような存在の少女。一体何があったのか、笑みも分かりやすいぎこちなさがあって、移動の際には何度かつまづいて転びかけていた。まるで別の人間になったみたいだった。かつてのメイドについてドレクが働いた無礼に対しても以前なら受け流していたであろうに。しかし、ドレクもあのメイドに対抗心を燃やしているといえどあのようなことをするとはな…。恐らく向こうからは相手にもされていないのだろうに。


…話が逸れているな。


少し情報を集めた所、どうやら彼女は少し前から活発なおてんば少女のようになったらしい。それから件の怪我、それ以降の立ち居振る舞いが別人のようになった…というのが今の彼女ということか。


「ふむ…」


一人で少し声を漏らした。

いつも全てがつまらないというような彼女があのようになったのは本当に驚いた。だが、これで良いのではないかとも考える。私には弟という大切な存在ができて、この世界に価値を見出した。けれど彼女はいつまで経っても以前の私と同じままで生きていた。ならば今のように、楽しそうな彼女の方が………。


…本当に、別人になっていたとしたら。人格が変わったのだとしたら、元の彼女は一体何処へ行ってしまったのだろうか。


「お兄様、居ますか?」


気がつくと小さくコンコンとドアをノックした最愛の弟の声が聞こえる。今日の牽制をしたおかげで、少しは弟とも共にいられるようにもなった。


『とっても素敵な弟さんなんですね』


私がつい弟について語ってしまったのだが、彼女は呆れた風もなく、優しい目でその言葉を発した。その様子からよくあるお世辞ではないことはわかった。それがどれほど嬉しいことだったか。


ふと気づく。私が弟以外の人物について考えることなどほとんどないだろうに。たとえ彼女がどう変わったところで私には関係ないと、そう思うはずなのに。

…自分が思っているよりも私は彼女に興味を持っているのかもしれない。あれほど面白い子なのだから当然なのだろうか?まぁ、彼女については弟のついでに観察することにしよう。


「ああ、どうしたんだいガイゼル?」


部屋のドアを開けて軽い笑みを浮かべた弟を迎え入れる。


「ちょっと、お話がしたくて」


この笑顔が守れればそれ以外何もいらないと思っていた。しかし、世の中とは興味深いものが案外多いのかもしれないな。

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ラル公爵視点



「お姉ちゃん、一緒に寝よ?」


私の愛しい妹が、可愛らしい犬のぬいぐるみを抱きながら聞いてくる。


「ええ、そろそろ寝ましょうか」



それに応じ、読んでいた本を閉じ、机の上にある小さな明かりを消して二人で大きめのベッドへと入る。



「今日は、ちょっと怖い思いをさせちゃったかしら」


城での一部始終を思い出してそう呟くように問う。一人にさせてしまったし、クリスタル公爵の暴走、それにスーリオ伯爵など、元々ミルにとって恐怖の対象であった人間の醜さが晒された間に居合わせてしまった。外に慣れていないミルには刺激が強かったかもしれない。


「ううん、とっても楽しかったよ」


この子が外へ出て楽しいと口にしたのは初めてのことだけれど、それもそうなのだろう。


「だって、レイラやガイゼル王子と友達になれたもの!」


本当に嬉しいといった様子で話す妹を見て、思わず笑みが溢れる。


「フフッ…そう。なら良かった」


そのあとは今日私がいない所であった出来事を身振り手振りをつけながら嬉々として話してくれた。



こんなに嬉しそうなミルは久々だ。…いつも、私がこのくらいの笑顔にしてあげなければいけないのに。

この国の中に、私達の親と呼べる人物はいない。いたとしても遠い森の中…生きているかも分からない状態だ。だから、私が守らなきゃいけないのに。


「…お姉ちゃん?」

「ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしちゃってたわ。」


そうだ。今、妹は幸せそうだ。そのことを喜べなければ今後守っていくことなどできやしないだろう。

妹がこうして明るくなったのも…クリスタル令嬢のおかげなのだろう。あの子は、なにか不思議な雰囲気を纏っている。まるで、見るもの全てを包むような…。そしてその裏にもう一つ、これについてはハッキリとは分からない。私もミルも人の悪意には敏感だ。すぐ傍で見ても、彼女に裏があるとは思えない。けれど…


「お姉ちゃん、いつもありがとう。今日こうやって話せるのもお姉ちゃんのおかげだよ。」


唐突な妹の発言に戸惑いを表に出してしまう。


「そんな…だって、私は貴方を無理矢理そとに連れ出したりして…」


「できる限り断ってくれてたの、私知ってるよ。それだけじゃなくて、いつも私を守ってくれる。だから、ありがとうって」


「………」


「でもね、我儘を言うのは終わりにする。ちゃんと外にも出るよ。たとえ見た目を馬鹿にされたって、魔法を馬鹿にされたって。レイラやお姉ちゃんがいるって思えただけで頑張れる気がする!だから…」


「待って」


つい口に出してしまう。


ああ、私もまだ子供ね…。こんなにも弱いだなんて。妹の勇気を踏みにじってしまおうとしても…でも…


「これで終わりだなんて言わないで。ずっと、私に貴方を守らせて…」


気がつくと少し目元が濡れていた。…泣くなんて、何年していなかっただろうか。


「…うん。あんなことを言っても、まだ私は弱いからきっと挫けちゃう。だから私もお姉ちゃんと一緒にいたい。でも、守られるだけじゃいたくないから、私にもお姉ちゃんを守らせて?」


「ミル…」


こんなにも、ミルは成長していたのか。嬉しいけれど、少し寂しいものだ。


「あっ、お姉ちゃんったら泣き虫だ!」


そう言ってハンカチで私の目元を拭ってくれる。この子に口論で負けたことはなかったのに…。


そして晴れた視界には可愛い妹が満面の笑みを浮かべて言った。


「大好きだよ、ラルお姉ちゃん!」


「ええ、私もよ。ミル」


今この時、こうして妹と愛を伝え合えるのもあの子がいたからなのかしら。まだ、正体を掴めずにはいるけれど…今はただ感謝を。




もう日は沈み、辺りはすっかり闇に沈んでいる。子供達は深い眠りの中で、きっと良い夢をみていることなのだろう。

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