31.獣の王子
「え?あの…僕は……」
爪を立てて威嚇しているクラウに対して戸惑いを見せるガイゼル第二王子。ちなみに見た目は小さい鳥みたいなもんなのでそんなに怖くない。
「ガウッ!ガウガウッ!!」
その時、ワンコたちがクラウの前に立ちはだかった。
「クラウ、とりあえず落ち着いて話そう?この子たちが守っているような人なんだから悪い人では無いはずでしょ?」
つかそもそも第二王子を襲ったりなんかしたら色々と問題になる。バッドエンドをわざわざ引き寄せないでください。
「まぁ、ここは勇敢な子狼に免じて話し合いをしようではないか。」
いやだからその人王子なの。偉い人なの。聞いててハラハラするからやめて?第一王子の方だったら多分だけど消されるよ?社会的に。
「ガイゼル様、レイラ。とりあえず座りましょう?」
そして私たちはまた先程のベンチに戻り話し合いを始めた。
「さて、ガイゼル第二王子といったか。貴様は何か悩みがあるようだな。」
「えっ!?なんで………」
「我がレイラの従魔と知った時、かなり重たい表情をしていたからな。」
「そういえば、その子たちはガイゼル様の従魔なのですか?」
「いいや、この子たちは僕が産まれてからずっと一緒にいてくれている…元は親がいなくて保護された魔獣なんだ。」
「へぇ〜、そうなんですか。素敵だなぁ。ガイゼル様からしたら家族のような存在なのですね。」
「!………君は魔獣を家族と呼べるのかい?」
「え?まぁ、クラウも家族ですし。何か可笑しかったですか?」
「いや、僕もそう思っているんだと思う………」
思う?自分の気持ちなのに確定していないような言い回しをするガイゼル王子。
「けど、そう思うのはいけないことなんだって思ってたんだ。」
「それはどういう?」
「僕と兄さんは母が違うのは知っているかい?」
「ええ、それはもちろん。」
「僕のお母様は第二王妃で、獣人族。野蛮なイメージは強いようだけど、お母様はとっても優しかったんだ。………けど、いなくなってしまった。」
そうだ。ガイゼル第二王子のお母様は出産と同時に力尽きて亡くなってしまった。
「お父様は色々と忙しいだろうから会うこともほとんどない。だから同じように親をなくしたこの子たちの気持ちもよくわかった。一時期は本当に家族のように接していたんだ。でも………」
「「でも?」」
「とある人に言われたんだ。獣人も、やっぱり獣と同じなんだな…って。………その時にね、お母様も馬鹿にされたように思えて嫌な感じになったんだ。この子たちは何も悪くないのに、少し関わりを減らしたりしたんだ。いっそ主従契約をして下に見ればいいんじゃないかなんて考えて、実行しようとした。周りの付き人からも勧められたしね。」
私たちは何も言えなくなっていた。そんなひどいことが………
「結果、僕の力不足で失敗。完璧な兄と違ってなんの才能も無い。余計に馬鹿にされたんだ。………それも、僕だけじゃなくお母様まで……!!」
ガイゼル王子は悔しそうに唇を噛み締めた。
「だから、同じくらいの歳で契約をできている君が羨ましくなったんだよ。きっと。」
ガイゼル王子は悲しそうに笑う。
「なんだか、私と似ているなぁ……」
突然ミルが誰にというわけでもなく呟いた。
「魔法貴族として名高いフォレスト家に生まれた落ちこぼれ。ずっとそう言われて、家族のことを悪く言われたりもした。私にいいところなんて一つも無いって、ずっと言われてきた。」
「お姉ちゃんは優しくしてくれたけど、周りの目が怖くなって、みんな敵に見えてきちゃって…」
でもね、 とミルは続ける。
「今日、嬉しかったんだ。レイラが私のことをすごいって言ってくれたこと。いいところを見つけてくれたこと。初めて、人と関わって良かったと思えたんだ。」
「まだ私が見てないだけで、ミルにはもっといいところなんて沢山あるよ。」
「うん、ありがとう。ただ、魔法に関しては一歩先に行かれちゃったけどね。」
「あ…まぁ…そうだね。」
なんだか申し訳ない気持ちになってきた。一緒に走ろうねって言っときながら先に走っていくような感覚…
「ちょっと意地悪な言い方してごめんね。でも…」
「絶対、追いつくから。」
数時間前はオドオドとして怖がるような様子だった彼女は、別人のように堂々と宣言した。その変化に、私が関われていたのなら、友人としてとても嬉しく感じた。
「…それじゃあ、勝負だね!」
「うん!」
「…僕にもそんな出会いがあれば…励ましてくれるような味方がいれば…」
その言葉を聞いて少し引っかかることがあった。
「本当に、味方が一人もいませんでした?」
「え?」
「…ごめんなさい、急に変なことを言って。でも、以前ベルリス王子とお話しさせていただいた時に、貴方様のことをお聞きしたのです。ベルリス王子がただ一つ、私に打ち明けてくれた悩みです。」
あの時、ベルリス王子はほとんどが模範解答のような話や立ち振る舞いをしていた。
その中で一つだけ、私に悩みを打ち明けてくれた。何故話してくれたのかは分からない。けれど、私が唯一ポーカーフェイスで勝てたような場面だったため覚えていたのかもしれない。だって、弟の話をする時だけは純粋な少年のような瞳をしてまるで自分のことのように自慢をしていた。そしてとても現在の様子を気にかけていた。
…まぁ、あの時は緊張のせいで少し驚いたくらいで反応が薄くなっていたんだけどね。
「ベルリス王子は貴方のことをとても気にかけていましたよ?」
「….あなたの前だからそのようにしたのでは?」
「そうでしょうか?あれ程ベルリス王子が嬉々としてお話しをされているのは私としても初めてだったのですが…詳しくお話ししましょうか?」
そして私はベルリス王子の話していた弟自慢をできるだけ再現して語った。誰にでも優しくて努力家でお母様が大好きで可愛くて………
本人が気づいていなそうな日頃の仕草まで話していた。
「本当にお兄様がそんなことを…?」
「ええ、私はガイゼル王子に嘘をつく度胸など持ち合わせておりませんので。」
というか多分ベルリス王子はブラコ…いや、やめとこう。うっかり口滑らしたりしたらまずい。
と、ここでミルが口を開く。
「私も似た状況だったので気持ちは分かります。けどレイラと出会って話してみて思ったんです。少し、私から他人を見てみようって。たしかに私が嫌いな人は多いかもしれない。でもレイラみたいに私を好きになってくれる人も見つけられるかなって。」
「………」
「大丈夫です、味方はいますよ。少なくとも、ベルリス王子と、ガイゼル王子が許してくださるのならば少なくともここにも二人…と一匹。いや、わんこ達も入れたら四匹?」
「まぁ、レイラが言うなら仕方ない。」
クラウも同意してくれるみたい。
「私も、まだ人が怖いです。だけど、向き合おうとおもうんです。できれば、ガイゼル様とも一緒に。だから、私たちと友達になってくれませんか?」
「……あ…ああ……」
幼い王子は涙を拭って前を向き、言った。
「僕も、変わりたい。だから、こちらこそよろしくお願いしたい。」
「「はい!」」
こうして私の二人目の友達、ガイゼル・ハーモニリカ王子ができたのであった。




