わちゃわちゃする私 7
これは…マフラーの事がハタナカさんにバレたらどんな嫌味言われるんだろう…
絶対にバレたくない。
タダのところにわらわら寄ってくる良く知らない女子のみなさんより俄然ハタナカさんの反応が気になる。が、寄って来る女子の声はいつもよりキャピっていて気にしたくないのに耳に入って来る。
「やだどれも美味しそう~~」
タダの前でラスクは見ず、タダをガン見して迷う髪の長い他クラの名前のわからない女子。
「どれもおいしいよ~~~」とその女子に媚を売るタダの隣のホンダ。
タダは素。
やっぱりちょっと面白いからヒロちゃんに教えたいかも。
「後が詰まってるんで」とシビアに次のお客を呼び込もうとするうちのクラスのマミちゃん。
それ負けず、「イズミ君、これとこれくださぁい」と語尾をとろかして注文するその女子。
「…」
無言のタダはたぶん、よく知らない女子にいきなり名前呼びされたのが嫌なんだと思う。
中学の頃タダが言っていたのを思い出した。「同じクラスとかになって何回か話した事あるやつだったらわかるけど、知らないやつがいきなり下の名前呼びしてきたらキモい」って。周りにいた女子がドン引いてたよね。それもチャラくなくてイイ!って余計騒いでる子もいたけど。
男子でもイズミって呼ぶのはヒロちゃんくらいだもんね。それでイズミっていう名前が女の子みたいだから嫌だって、転校して来てヒロちゃんと仲良くなり始めた頃言ってて、それでヒロちゃんが『そんな事ねえよカッコいいじゃん』て言って、それで本当に仲良くなっていったよね、あの二人。
小さな声で「ありがとうございます」とだけ言って、ラスクを包んだ袋を素っ気なく目の前の女子に渡すタダ。
「ありがとうイズミ君!!」と俄然渡したタダより大きな声でお礼を言う女子。
あ、ダメだ私。自分の仕事しなきゃ。教室の中で食べる人に注文したお茶を入れる係りなのだハタナカさんと一緒に。
大抵の女子は買ったラスクを教室で食べようとする。ていうかまだほぼ女子しか来てない。高校生男子は朝からラスクなんか買いに来ないよね。
教室で食べる女子は、タダのいる空間に出来るだけ長くいたいのだろうが、席の数は決まっているのであっと言う間に満席だ。するとハタナカさんが奥の物置からなにか持ってきた。見るとそれは、
『お席が込み合っております。申し訳ありませんがお席での飲食の時間は20分とさせていただきます』
という張り紙で、それを教室の前と後ろのドアの脇へ貼っている。
「こうなると思ってた」と苦々しく言うハタナカさん。
そして言葉とは裏腹に私にテヘっと笑って見せる。
さすが。
それでも込み具合はあまり変わらず、さっきの女子のようなやり取りにすぐに疲れて無言になっていくタダだ。隣のホンダがタダを小突く。
「ここは頑張れや。売り上げを上げる事だけに集中しろって」
「ちっ」と舌打ちしたタダをまたホンダがちょっと小突いて少し笑いながら言った。
「ホラ、大島もお前の事心配でちょっと見てんじゃん」
わ~~~~!!
ホンダが私を見て「ね!」って言いながら笑う。
ゆっくり首を振って見せる私。もちろん「見てませんでしたって」っていう意味だ。
「大丈夫だよね大島」と、さらにホンダが言う。
なに?何言うつもりなんだホンダ、ハタナカさんが隣で聞いているんだぞいい加減にしろ。
「売り上げのためだもんね」とホンダ。「タダがみんなに愛想よくしても大丈夫だよね?」
ばかホンダめ。これ以上ろくでもない事をこの場で言うんじゃないぞ、という目で睨んだのにホンダは続けた。
「今日だけみんなのタダって事で」
いや別に私のタダじゃないじゃん、て突っ込めんわ。恥ずかしい。『私のタダ』とか!
ホンダが笑顔でしつこい。「ね?、ね?、ね?って大島」
もうホンダを黙らせたくて、うん、とうなずいてしまった。ニッコリ笑うホンダを睨むタダ。そして私の事も睨むタダ。
しょうがないじゃん、という目で見返してみる。だってクラスのためだし。もともと私のタダじゃないし。
「ほんとに大丈夫なのぉ?」とハタナカさんが私の顔をわざとらしく覗き込んで聞く。「イズミ君がみんなに、お金のためにニコニコしても」
「いやタダはニコニコはあんましないと思うけど…」
「ほら、あの子なんかラスク買いに来たくせに自分の手作りのクッキー渡そうとしてるけど」
え?マジで!
タダの方を見るとまさに女子が可愛く包装された何かを渡そうとしている。確か1組の子。キャラキャラした感じの結構男子人気高い子だ。
「なんで手作りクッキーってわかるの?」とハタナカさんに聞く。
「口の動き」
こわっ!
ラスクを売っている人間に手作りクッキー渡しに来る女子も怖いけど。
…嫌だな受け取って欲しくないな。私の見てるところでは受け取って欲しくない。
って今確実に思った私。
さっきはタダのところにたくさんの女の子が来ても、んんんん~~~~、だったのに。ホンダに乗せられて『みんなのタダ』を黙認したのに。
本当は私の見ていないところでも受け取って欲しくないかも…
絶対受け取って欲しくないよね。
私があげるつもりのマフラーも、付き合ってもいないのにどうかと思うよ?でも誕生日に手作りですってはっきり言って渡してきたものを、「ありがとう」って受け取ってしまったら、その女の子は「あ、これイケる!」って思わない?
思うよね!
それで逆にみんなの前ではっきり断るとか、せっかく手作り作って来た子に悪くてさすがにタダもそんなこと出来ないかも…
あ、やっぱ断った。すごいな。簡単に断った。
良かった~~~。
「今、良かった~~~、って顔してるよ」とハタナカさんに耳元でささやかれ、うわっ!と思う。
「だってね~~~」とハタナカさんが微笑みながら言う。「ずうずうしいよね~~~ユズりんいるのに手作りとか。だいたい知らない相手から手作りもらって食うかっつの」
こわっ、と思いながら実際私もそう思っていたので笑ってしまった。
あ、まずい。近くの子に聞かれた!
ハタナカさんて…好きなタダに対する気持ちの当て方も激しいし、そのせいで私に対する絡みの塩さもすごいけど、でもなんか…どっちかって言ったら好きかも。はっきりしてるし、仕事出来るし…
「でも私さ」とハタナカさんが言った。「私も手作りのクッキー持って来た」
「マジで!!」と大きな声で言ってしまい、慌てて口を押えるが遅い。
「なにそれ」とハタナカさん。「マジで、ってなに?」
「いや、…なんでもないけど」
「なんでもないわけないじゃん。ほんとは嫌でしょ?」
なに言ってんだハタナカさん。自分は他クラの女子ディスっといて。
でもその子が渡すのを試みたからか、当たって砕けろ的にラスクを買いに来た女子がタダになにか渡そうと試みる事何人か。
でもタダは受け取らないし、だんだんあからさまに機嫌が悪くなっているような気がする。
そんなタダとちょっと目が合って、頑張れタダ、という思いを込めて見返してみた。もうちょっとで交代で別な仕事に行けるから、って思いながらヘラっとちょっと笑ってみせると、なに?なんか今めっちゃ睨まれたんですけど!