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わちゃわちゃする私 6

 校長先生から全校生徒へ向けての放送が入り、その後を水本先生が受け取る。

「今な、校長がくどくどくどくどしゃべってたように、お前らほんとにわかってると思うんだけど、絶対校内でスマホ使うなよ。ダメってわかってんのに、こういう学校行事だとザワザワしててバレないと思ったり、今日くらい許されるだろ感覚で持ってくるやつが確実にいるんだけど、ほんとに!ほんとに校長には見つかるからね。体育祭の時でわかったと思うんだけど、うちの校長はザワザワしてても必ず見つけるし、お祭りだからこそ違反を許さないからね。舐めてかかったらほんとダメだから。オレもそんな事で校長に呼ばれて説教くらったり何枚も手書きの改善書を書かされたりとか冗談じゃねえからな」

 そうなのだ。校長が放送で話していたことの大半は校内使用厳禁の携帯電話の事で、本気で今日明日、絶対に使うな持ち込むな、と言う注意を繰り返し、そう言えば体育祭の時もそういう注意があったにも関わらず、実際ハタナカさんがリレーで走るタダを撮ろうとして、スマホをタダに向けたところを即座にどこからともなく表れた校長に見つかった事件を目撃した事を思い出した。

 今の水本先生の隣に立っているハタナカさんはその話を素の顔で流してるけど。相変わらずハートが強いな。




 「じゃあ、一応掛け声やろう」と先生が言い出す。「タダがそういうの嫌そうだから仕方ないからオレがやるわ。がんばろう!お~~~~!」

 ふん?て感じでノリの悪い私たちに先生は苦笑いをしながら言った。「お~~~って声上げるんだって。みんな無視すんな先生恥ずかしいじゃん。ほら、片手を宙に突き出して、『がんばろう!お~~~~~』」

 今度は先生の掛け声に一応「お~~~~」と、まだやや力なく合わせて準備を始める私たち。それを見ながら、「もう~~~~~」となじり、それでも嬉しそうな先生だ。



 制服のブレザーを脱ぎ、家から持ってきたエプロンと三角巾をつける。私は家庭科の授業の時に持ってきていたのと同じ、母から借りたピンクとオレンジのチェックのエプロンと紺色の三角巾。

 するとあちこちで、「かわいい~~~~」と、口からどうやってもこぼれてしまいました…、みたいな溜息のような女子のみなさんの声が聞こえる。

 タダがエプロンをつけたのだ。

 あ、あのエプロン見たことある。私の誕生日にチーズケーキ焼いてお昼ご飯に呼んでくれた時につけてたやつだ。赤いチェックの。そして三角巾は黒。家庭科の授業の時も見たじゃんみんな、と思うが女子のみなさんはキラキラした目でタダをチラチラ見る。そしてだんだんみんなの目が私に移ってきて…あれ?なんか『ったく、もう~』みたいな、無音の舌打ちみたいな感じになってんのはなんでだ?


 「やだユズちゃん!」とユマちゃんが私に近付きながら普段よりキャラキャラした声で言った。「何気にタダとおそろいぽいじゃん!」

え?とすぐタダを見てしまったらタダも私を見ていた。

 自分のエプロンを見るが、チェックがって事?三角巾の色だって近いけど違うじゃん。こんなの言い出したらたいていのチェック着てる人とはお揃いだよ。前の家庭科の実習の時とかそこまで言われなかったのに。

「そんな事ない!」と力強く言ってしまう。

「ペアだペア、ペア」と笑うユマちゃん。

「しっ」とユマちゃんを黙らせようとする私。「チェックのエプロンなんか他にもいるでしょ?」

「そんなんいても関係ないんだよ。とりあえずユズちゃんとタダを見てんだからさ、みんな。もう困った子だなユズちゃんは」

「いや、ほんとにそんな事ないからユマちゃんつまんない事言い出さないで」

わ~~~もう…言われたら急激にこのエプロンが恥ずかしくなってきた。

「つまんない事?」とユマちゃんが唇を尖らす。

「じゃあユマちゃん…」と、ユマちゃんにエプロン取り換えてって言おうと思って即座に止めた。

ユマちゃんは胸に黒いドクロマークの付いたピンクのエプロンをしているのだ。なんでそんなわけわかんないやつ今日持って来たかな!


 どうしょう…と自分のエプロンを見ながら困っている私に、笑いながらユマちゃんは続けた。

「で?どのタイミングでタダにマフラー渡す…」

 言いかけたユマちゃんにどーん、と体当たりして止めた。

「いたっ!なにすんのもう~~」とにらむユマちゃん。でも顔が思い切り笑っている。

「ちょっともうユマちゃん!!お願いだから黙って!」

「黙るの?」と笑うユマちゃん。

「黙るの!!」




 私とタダの仕事がかぶらないのは確認していたが、私とタダの仕事の場所が微妙にかぶっていることに私は最初気付いていなかった。そしてハタナカさんと私のシフトが丸かぶりなのにも。

 なんとかタダにマフラーの事を早めに伝えようと思うのだけどなかなかその隙はない。仕事の場所は微妙に被っているけれど、話が出来るくらいには近いところにいないのだ。例えばタダが会計とか商品渡しの仕事の時は私は教室の中のテーブル席のセッティング係だったり、私が会計係りの時はタダが教室の中で食べる人の案内係だったり。

 

 「ユズりん」

ハタナカさんに呼ばれビクっとするが、振り向くとハタナカさんもチェックのエプロン!しかも私とほぼ丸かぶりのオレンジとピンクのチェックのエプロンだ。

「うそ~~~んやだユズりんとエプロンかぶった~~~」と大きな声のハタナカさん。「あれ?やだ~~~イズミ君ともお揃い~~」

「…」

「前、実習とかの時に見たから私も被ろうと思ったんだ~~~」

 マジか…。怖いな。

 …ていうかもしかしてチェックのエプロン着てる女子のみなさんはそんな感じでそのチョイスを!?私の事見て、なんだもう!みたいな感じだったのに?サトウさんも水色のチェック!!…怖い。怖過ぎる。


 「ていうかおはよ!」と明るく言うハタナカさん。

おはよう?

 怪訝な目でハタナカさんを見てしまうともう一度「おはよ!」、と言われる。そしてニッコリ。

 なに?まだ朝の挨拶を交わしてなかったからって事?エプロンの絡みして来た後で?

「…おはよう」と、怪訝な気持ちはぬぐえないままハタナカさんに返す。

 じっ、と私を見つめるハタナカさん。

 もう…なに?なにを言われるの私…と思ったがハタナカさんはなにも言わない。


 


 準備も終わって10時のチャイムで文化祭のはじまり。

 教室の入り口近くに並べた机に籐カゴに盛られた色とりどりの、可愛くラップされたラスクが並ぶ。

 近くはないけど遠くもないところにいるタダ、すごく近くにいるハタナカさん。そしてタダが売り子の仕事に立ったとたんに、どこからともなくわらわらと集まる女子のみなさん。

 いや、結構な数の女子のみなさんだ。来るとは思っていたけどこんなに来るか。1年だけじゃなく2年や3年のお姉様方まで。いくらタダがいるからって普通こんなに教室に女子が来たりはしないけど、さすが文化祭。祭り感覚っていうのかな…みなさんの目がキラキラし過ぎだ。

 ちょっと前まで、タダの事を別に意識もしなかった頃だったら、『すごい!』とか面白がって、ヒロちゃんに連絡出来る良いネタ出来た、って喜んだはずなのに。


 この状況確かにすごいよね。そしてタダを好きだと思い始めた今の私がすごく嫌かっていうと、そこまで嫌だって感じじゃないなっていう冷静な自己判断。

 なんだか『んんんんんんん~~~』っていう感じなのだ。嫌だ嫌だ!っていうんじゃなくて、もやもやもやもやもや~~~~って感じ。

 なんだこのはっきりしない私の気持ちは。


 そう思いながらクラスに押し寄せる女子を見ていたら、あれ?うちのクラスの女子のみなさんが苦々しい顔をしてるような…そしてそばにいたハタナカさんが大きく舌打ちした。

「ちっっ!!」

 いやほんと舌打ち大きいってハタナカさん。

「ユズりんのものだけになるんなら」とハタナカさん。「みんなのイズミ君でいて欲しいって言ったけどさ、それうちのクラス限定の話だよね。他クラの女子が図々しい」

吐き捨てるように言うハタナカさんだ。

 いやお客さんだからハタナカさん。

「どうしたの?ユズりんは嫌じゃないの?『どうせ私の事好きだから』って余裕ぶっこいてんの?」

言われてぶんぶんと首を振る私だ。

 これは…今日1日ずっと絡まれるのかな…冗談じゃないよね。

 


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