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わちゃわちゃする私 5

 あ…サトウさんが振り向いて私を見た。

 別に睨みつけるような目ではないが、確実に冷たい目で見た。タダがさっき私に声かけて来た事気になってんの?

 もちろん反らしてしまうが、ここで反らしてはいけない事は私もよくわかっている。

 が、サトウさんだけじゃなく、チラ、チラ、と女子のみなさんが私を振り向いて見る。

 …あ~~~…前の席だったら良かったな…

 しょうがない。頑張ってなんでもない感出しておこう。誰とも目が合わないように、でも前を向いて、何でもない何でもない。



 

 こんな感じで、文化祭なんて絶対回れるわけなかったよね。

「あ、そうか!」と言う担任。

…なんか目をキラキラさせてこっちを見て来たけど、なに『あ、気付きましたよ!』みたいな顔してんの?絶対良くない事を言うよこの人!と思ったら案の定、全く案の定、良くない事を言う担任だ。

「そう言えばさ、タダが大島の誕生日にケーキ焼いたって言ってたな」

 今度はいっせいに、もう遠慮なく私の方を振り向くクラスメートたち。

 水本っ!

 そんな事ホームルームで蒸し返してどうするんだ…バカなんじゃないの水本。もう…もう『先生』付けないよ。もうずっと呼び捨てにしてやる!

 

 「そうかそうか、だからみんな大島の方チラチラ向いたんだな」と、ニコニコ顔の水本。

バカ担任め!と睨むが水本はニコニコしながら続けた。「そりゃみんな気になるよな!お返しに大島が何やるんだろうって。大島、みんなが気になって文化祭に身が入らなかったらいけないからタダに何あげるのか差し支えなかったらここで…」

 本気で何を言い出したんだこの担任、と唖然としていたら、ハタナカさんが恐ろしく低い声で言った。

「水本先生、プリント配らせてください」

「え?」と笑顔のままハタナカさんを見てきょとんとする水本。「プリント?…あ、プリントね!ごめんごめん」

 水本がごめんごめんとチャラけている間にも、ハタナカさんがシュシュシュシュっとプリントの綴りを一番前の席に配り、全員それをパサパサと後ろまで回していく。


 「まあな」とそのハタナカさんの手際を感嘆したように見ながら水本が言った。「今日はタダに頑張って売ってもらわないといけないけど、まあみんな平等に仕事回るようにハタナカがシフト表作ってくれてるみたいだし。ほんとハタナカ頑張ってくれたよな!ありがとう。はいみんなも一緒にさんはい!ハタナカさんありがとう!!」

水本先生の急な振りに戸惑いながらも、口々に、ありがとう、という私たち。結構みんなも手分けして頑張ったのだ。それもハタナカさんが率先して手際よくみんなに仕事を振り分けてたおかげだ。ハタナカさんはいつもタダに絡んだりする時の甘い感じとは全くの別人格を出して、誰もまねできないくらいできぱきと委員の仕事をこなしていた。なんならタダがいなくてもきちんと回せるくらい仕事をしてた。

「え、いいですそんな」と言いながらも、「みんなが頑張ってくれたから」と素気ない感じに返すハタナカさんだ。

 それでもハタナカさんがシフトを作ったのなら、私とタダが一緒に休めるような時間割は組まれてないんだろうな。ちょっとほっとする。そして同じくらいの感じで残念な感じもする私はなんなんだろう。一緒に回るのを止めにしようって、せっかく誘ってくれたタダに言ったくせに。

 本当は一緒に回りたかったんじゃないのじゃないの私…




 手元に回ったプリントを確認する私たち。

 ホッチキスで綴られた4枚のプリントには今日と明日の仕事の進め方を時間ごとに区切り、それに沿ってそれぞれの係りの割り振りと仕事内容の確認、校内だけの開催の今日と、一般公開される明日の進行との違いと注意事項。そして放課後の後始末までちょっとイラストまで入れて…細かいな!完璧だなハタナカさん。

 教壇からクラス全体を見回しながらハタナカさんが言う。

「この間のクラス全体のミーティングでまとめた分なのでそれぞれ把握してると思いますけど各自きちんと目を通して再確認してください。昨日渡そうかと思ったけど、忘れてくる人いたり、確認したと思って今日勘違いして仕事する人がいないように敢えて今日渡しています。わからないことは早めに質問してください」

「おおお~~~~」と言ったのは同じプリントの綴りを渡されてそれを確認しつつある水本だ。「さすがだよな!ほんと、委員ハタナカがやってくれて良かった。良かったよな、みんな!さんはい!良かった~~~~~」

よかった~~~~、とさっきよりはっきりした声で合わせる私たち。結構いいクラスだよね。

 「もういいですから」と事務的に言うハタナカさん。「仕事ですから」


 「ハタナカ」

急にタダが声を上げてクラス中がタダを見る。もちろん女子のみなさんはザワつく。

「ごめんハタナカ」とタダが言った。「オレも委員だったのに、ハタナカだけにいろいろやらす感じになって」

 ハタナカさんが急にぱあっと笑顔になった。水本にほめられている時とはまさしく雲泥の差。急にいつものハタナカさんに戻った感じだ。

「私、イズミ君と一緒だったからがんばれたの。一緒に委員になれて良かった。ありがとう!すんごい幸せだったぁ」

 急にいつもの感じに戻ったハタナカさんにびっくりしたのか無言のタダに、先生が振る。「だってさ、タダ」

「…」

「タダって」とまた先生。「ハタナカが言ってるぞ。聞いてんの?」

やっと「…こっちこそどうも」といつもの淡々とした口調で言うタダだ。でもハタナカさんは嬉しそう。



 プリントを確認するとやはり私とタダの今日の休憩は見事にかぶっていない。仕事の方も、販売の係りや追加のラスクの袋詰め、飲み物は持ち込みもOKにしているけれど、一応紅茶とゆず茶を50円で紙コップに入れで売る係りや、当日と明日の分のチケット売り、会計…全てかぶっていない。そっかそっか…もしかして?と思って見たがハタナカさんとタダが丸々かぶっているわけでもない。さすがだなハタナカさん。委員の仕事をてきぱきこなすだけじゃなく、シフトにも私情を挟まないなんて、なんて出来る女なんだ。見直してしまう。大人になったらものすごく仕事出来る人になるよ絶対。さっきも先生が余計な事言い出したのを邪魔してくれたし。

 そう思って感心していたら、あっ、タダが私を見た。やっぱりいろいろ係りもあるし回るのは無理だったよね、って思ってタダと目を合わせたまま、なんとなくヘラっと笑ってしまった。


 誕生日プレゼントのマフラーの件も早めに言わなきゃ。帰ってから持って行くって。やっぱり昨日のうちにラインしとけば良かった。そうしたらさっきみたいに『マフラーは?』とかみんなの前で聞かれずにすんだのに。

 …でももしかしてタダ、結構マフラー楽しみにしてくれていたとか…

 それだったらいいな。気に入ってくれたらいいな。


 それで明日は、と明日のシフトを見ると12時から私もタダも昼休み休憩が一緒だ。この時間に合わせて、ヒロちゃんとヒロちゃんの彼女のユキちゃんに来てもらえるように連絡したらタダと4人でご飯食べられるし…

 良かった。ありがたいシフトだよハタナカさんありがとう!




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