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わちゃわちゃする私 4


 そう思っているところにやっとタダが教室に入ってきた。

 慌てて来た様子だ。髪は跳ねてるし、制服のシャツのボタンが上から2個が止まっていないし、そのシャツはちょっと裾がズボンからはみ出しているし、その前にネクタイをしていない。どうしたんだろうタダらしくない。ボロボロじゃん。

「「「「「「「「やっだぁぁ」」」」」」」」

ささやくように、でもしっかりと黄色い声を上げる女子のみなさん。

 …なんだろう…いつになくちょっと乱れた感じにきゅんと来てるんだろうか。

 なぜそんなに慌てて来た?寝坊か?


 「おせえじゃんタダ~~」と仲のいいホンダがさっそく絡みに行く。「お前来ねえと今日の売り上げだだべりじゃん」

 そうなのだ。私たちは市販のバゲットからラスクを作って販売、飲食する店を出すのだが、『タダも焼いたラスク』と言うのをうちの売りにして売り上げを伸ばそうとしているのだ。もともとそれはなかなか出し物が決まらなかったところに、文化祭実行委員のタダが自分から発案してそれに決まった。中学の時、私もタダと一緒のクラスだった時の文化祭で、隣のクラスがやって評判が良かったののパクリだ。それを金に目のくらんだ担任の水本先生に後押しされて決まった。タダは言い出しっぺだし実行委員だし、たぶんずっと店番をやらされるんじゃないかと思う。だから私と回る時間なんてそもそもなかった思うんだけど…

 ちょっと息を切らして髪の毛を書き上げるタダはホンダを見て何も言わない。ちらっとこちらを見たので目が合ってしまった。

 わ、目が合った!と思う。パッと反らしてしまう。

 いや、たいした事じゃないんだけど、なんかドキッとした。ダメだね、あんまりタダの事見てたら。好きなんだって意識したとたんじっと見るとかキモい私。でもタダが遅れずに来れて良かった。


 「どうしたどうした寝坊したんか」とホンダがさらに聞いてるのが聞こえたが見ないようにする。

 タダのはっきりした返事は聞こえなかったが、やだ寝坊なんだ~~~みたいな感じの女子のみなさんのほほえみが教室にほんわかした空気を作り出していた。

「珍しいじゃん」とホンダの声。「いつも朝からすかした顔してんのに」

「うるせえわ」とやっと少しいつもの感じに戻ったタダがばさばさと手で髪を整えながら言う。

あ、ダメだ。タダの声がしたとたんまたチラ見してしまった。いけないいけない。

「どうしたん」とハヤシの声もする。

「どうもしない。ちょっといろいろあってなかなか眠れなくて起きるの遅くなっただけ」


 いろいろあって?

 何がいろいろあったんだろ…

 見ないようにしながらも聞き耳を立ててしまう。

「いやいやいやいや」とホンダ。「タダが来なかったら今日話になんねえから。水本の期待も大きいから」

「知らねえわ」とタダ。

「いやそこは頑張ろうクラスの売り上げのために。オレらもな、イケメンとしては非常に微力だけどちゃんとサポートはするからがんばろうよタダ」

 タダはホンダと仲良いよね。…まあヒロちゃんと程じゃないと思うけど。今は結構一緒にいる。私はあんまりホンダと話したことはない。だって中学も違うから。

「いやオレは裏方に回る。委員だし」とタダの声。「雑用に専念するわ」

「それが許されるわけがねえって。もうこの際ホストになった気持ちで。な?」

「バカじゃねえの」と冷たくホンダをあしらうタダ。「ただのラスクじゃん」

まあそうだだよね、と思う。しかも高校生がつくって文化祭で売るラスクだもんね。

が、「ただのラスクじゃねえわ」とホンダが言った。「タダのラスクだって。って今オレすごく面白くねえ事言ったわ!うっわ、怖っ!無し無し無し無し今のは無しだからそんなアレじゃねえから」

「いや、ちゃんと聞いた」とタダが普通のトーンで言う。「震えるほど面白くねえ。なあハヤシ」

「オレも震えた」とハヤシの声。

女子のみなさんが微笑みを浮かべてる。

「いやでもな、オレがお前だったら」とホンダ。「オレがタダくれえモテてたらもうニーズに答えてずっと店番するわ」

「オレもオレも」とハヤシ。

そして「「「「「「「オレもオレもオレも!」」」」」」とそのあたりにいた男子たちが手を挙げて会話に参加する。

そして「「「「「「「ハハハハハ」」」」」」」と、ホンダとハヤシも含めて笑う男子たち。

でもタダだけは笑わずに急に私の方を向いた。あ…目が合った。まずい。また私、タダの方を見てたよ…



 「大島」とタダが私を呼んだ。

 え…どうしよ…呼ばれてるよみんなの前で…私が見てたから?

答えない私をもう一度呼ぶタダ。「大島!」

 わ~~~みんなが見てる。なんでこんな時に呼ぶ。

「…なに?」と消極的に答えた。

 やっぱりみんなが見ている。いやほんと、怖いくらいみんな黙って見てるから。

タダが微笑みながら言った。「朝迎えに行こうかと思ったんだけど寝坊した」

え?

 ザワザワザワザワ…ザワる教室。ニッコリ、と私に笑うタダ。「ひょぉぉ~~~」とはやし立てるのはホンダのみ。

 うわぁ、ホンダ!と思っていたらタダが続けて言った。「マフラーは?」


 へ?

 『マフラーは?』

 タダの言葉を心の中で復唱してしまった。

 なんで?なんでこんなみんなが見ているところでマフラーの事言い出した?

 ザワザワザワザワザワザワ…



 そこにちょうどハタナカさんが教室に入って来た。ハタナカさんは手にプリントの束を持っている。

 ハタナカさんは文化祭の実行委員なのだ。

「あ、イズミ君!おはよ~~~~」と朝から攻撃的に甘い声のハタナカさん。

 わぁ、ここで入って来たかみたいな空気のクラス全体をものともせず、「も~~~」と唇を尖らすハタナカさん。

「イズミ君今来たの?今日は朝、文化祭の委員は早く来なきゃいけなかったのに忘れたの?私、イズミ君いないのに頑張って一人で行って来たよ~~~」

「あ、悪い忘れてた」驚いた顔でそう言うタダ。

「ラインしたのに」

「全然見てなかった」

するととたんに低い声を出すハタナカさんだ。「嘘でしょ」

「悪い」ともう一度タダ。


 

 「もうイズミ君たらぁ」とまた可愛い声に戻るハタナカさん。「ほんとに悪いと思ってるぅ?」

「思ってる。ほんと悪かった来んの遅くて」

「うんわかった。じゃあなんか教室ザワついてるけど今朝の事は許してあげるから私のお願い聞いてくれる?今日、ほんのちょっとでいいからぁイズミ君と一緒に文化祭まわ…」

「いや、ほんと悪かったと思ってるから」タダはハタナカさんの言葉を遮った。「帰りの報告とかはオレが全部やるわ」

「…」

無言のハタナカさんが上目使いにタダを見つめる。それをしれっとした顔で見つめ返すタダ。それでもにっこりと笑うハタナカさんだ。

 …なんか怖い。

 


 そこへ担任の水本先生が教室に入って来た。

 良かった。ハタナカさんと立て続けに水本先生の登場で、タダが私に話しかけた事はうやむやになりそう。

「はいはいはいはいみんなおはよう~~」と言いながら、明るく教壇へ進む先生。

バタバタと席に着く私たちだ。みんなが着席するとまた水本先生は「おはよう」とみんなを見回して言った。

 おはようございます、と口々に地味で自堕落な挨拶をする私たちに水本が嬉しそうな顔で突っ込む。

「あれあれあれあれ、今日は文化祭だぞぉ、なのにどうしたテンション低いな」

周りの子たちと顔を見合わせて、でも取り立てて何も反論しない私たち。

「おかしいな、女子」と水本先生。

え?女子?

 先生が教室を見回して言う。「どうした女子。今日は文化祭初日の上にタダの誕生日だろ?ならもっとテンション高いはずだと先生は踏んでいたんだが」

 ザワザワザワザワ…



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