わちゃわちゃする私 3
そっか…そこまでやったかユマちゃん…
可愛いな!
「…え、とでもね、」と、私もこの際なので秘密を明かす。「なんかちょっと恥ずかしい気もするんだけど…マフラー買っちゃったんだよね…」
へへっ、と恥ずかしさを茶化すように笑って見せたがユマちゃんは冷静に「へ~~」と答えた。
「完全に付き合いたての彼女じゃん」とユマちゃん。「付き合ってないとかあんな言っといて身に着けるものあげるとか」
「やっぱそんな感じに思うかな。止めようかな」
「なぜ止める」
「…」
「だってもう」とユマちゃんが言う。「ユズちゃんたち、ほぼ付き合ってんだろうなって思ってる子たちも多いと思うよ」
「…そうかな」
「このまま本気で付き合っててほしくないって思ってる子も多いと思うけど」
「でしょう!?だから明日はやっぱ一緒には回んないと思って」
「…」
なんで黙ったんだろうユマちゃん、と思って私も黙ったらユマちゃんが言った。
「私今なにしてると思う?」
「え、なんかしてんの電話しながら」
「ユズちゃんの事、うっすらバカにして笑ってんの」
「もう~~~~~~!」
という事で、「「じゃあ明日ね」」って言い合って電話を切る私たちだった。
とりあえずタダにラインで、明日は一緒に回らないでおこうって伝えよう。明後日、ヒロちゃんとユキちゃんが来た時に一緒に回ればいいし。4人だったら女子のみなさんの注目もそこまでは浴びないと思う。
でもどうしよう…マフラーどうしよう…
家に帰って明日やっぱり一緒には無理って思ってから、夕方速攻で自転車を走らせて駅ビルの中の雑貨屋にタダにあげるマフラーを買いに行ったのだ。キャメルっぽい色が似合いそうかなって思っていたけど、深緑もいいよねって迷って深緑色のマフラーを買った。レジに持って行くときに急激に恥ずかしくなったけれど、そこは頑張って包装紙も目立たないけどおしゃれな感じな紺色のを選んで包んでもらって、小さな銀色のリボンのシールまでつけてもらった。
…恥ずかしい事してるよね…きっといろんな子がタダに、選び抜いたプレゼント渡してくるのに私がマフラー渡すとか…中学の時、女子が何日もかけて選んだマフラーとか手袋を『受け取れない』ってスパスパ断ってたのを見てたからなぁ…どうかなって思うけど、でも私には『マフラー欲しいけど』って言ってくれたよね…
…あれ?じゃあ中学の時あんな感じで断ってたのは、その時も私の事を好きでいてくれたからって事?
…うわぁっ!なんだこの!なんだこの、私は好きって思ってもらえてたぞ満々の私が恐ろしいわ。あんなに何回もヒロちゃんに振られてんのに。
とにかく一緒に回れないけどプレゼントは用意したってラインを、いい感じでタダに送らなくちゃいけない。
「明日一緒に回ろうって言ってくれたけどクラスの仕事もいろいろあるから明後日ヒロちゃんたちが来た時に4人で一緒に回ろう」。そして、「どうしようかって思ったけどやっぱりマフラー用意してしまったから良かったら使って」
ぽん、ぽん、と勢いで送る。
そして、あ、そうだ大切なやつ忘れてた、と思って慌ててもう一つ送る。
「でも一緒に回ろうって誘ってくれてありがとう」
あ~~~~!と思う。なんか…すごく恥ずかしいかも。
『一緒に回ろうって誘ってくれてありがとう』だって。
恥ずかしいを超えて気持ち悪い気さえする。一瞬、柔らかげなスタンプまで付けた方がいいかなって思って止めたのは正解だったよね。
でもわかって欲しかったわけだ。一緒に回るのが嫌なんじゃないと。目立ったり、女子のみなさんにあれこれ思われるのが嫌だって事を。
プレゼントも誰かに見られたら嫌だから、特にハタナカさんに見られたら嫌だから学校に持って行くのは止めにする。帰りにうちまで寄ってもらって…って、それだと明日も一緒に帰る体じゃん私…
やっぱり誕生日のプレゼントだしいったん帰ってからタダのうちに届けた方がいいよね…
そんな事をあれこれ考えながらタダからの返事を待ったが来ない。見てないのかなと思ってラインを開いてみたら既読は付いてた。
あれ…なんで返信くれないんだろう…
怒ったのかな。せっかく誘ってくれたのに。でもタダはそんな事では怒らないよね。私の送ったラインを見返すが、怒らせるような感じでは伝えてないし。
なんでかなと気にして待っていたらしばらくして『わかった』ってそれだけの返信が来た。
良かった返信来たけどでも『わかった』だけだ。これで明日の放課後マフラー持って行くことまでまたラインしたらウザくないかなウザいよね。それは明日帰ってからでもいいか…
そして今日だ。文化祭の一日目。
明日の二日目は一般公開もされるが今日は校内だけの開催。
学校に着くとタダがまだ来ていない。
そうか、まだ来てないのか、と思ってしまう。いつもは私より早く来てるのに。どうしたんだろ。
朝のホームルームの時間が迫ってきて、女子のみなさんもそわそわとタダの席を見たり教室の入り口を見たりしているのがわかるのは、私もまだ来ていないタダの事が気になるからだ。そして男子も少し騒ぐ。タダが来なかったら売り上げに響くって言って。
「え~~~~、今日休み?」と誰かがこっそり言うのが聞こえる。「やだな、テンション下がる」
誰かがこっそり、っていうかサトウさんの声だよね。
「やだ今日誕生日でしょ?」とタナカさん。
「しっ!」とフクモトさんが止める。「大島さんが聞いてるって」
え~~~~!
『しっ』、って言われた子より私がドキッとしたよ今のは絶対。
「だってイズミ君いないんなら文化祭に何の意味あんの?」とサトウさん。
サトウさんはいつもそこまでタダに絡んだりせずに遠巻きに見てる感じなのに、今日はハタナカさんが今教室にいないからかそんなことまではっきり言うのかな。
私は実はハタナカさんより、サトウさんの方が苦手だ。男子には、特にタダにはだけど、すごく可愛い感じを出すから。そして私にはちょっと冷たいんだよね。ハタナカさんみたいにあからさまに私に絡んでは来ないけどたまに話さないといけなくて話すと見事な塩対応なんだよね…だからと言って別に意地悪されたりあからさまに避けられたりもしないんだけど。
いいのに私の事なんて気にせずにプレゼントあげたら。
と、一応は思う。そんなの止める権利私にはないし。もらうかもらわないかはタダが決めることだし。
でも嫌かどうかって言ったら…タダが喜んでもらったりしたら嫌だな。
…いや、大丈夫だよみなさん。なにがどう大丈夫なのかよくわかんないけど、それでも私は別に彼女じゃないから。それなのに私だってちょっと恥ずかしいプレゼント用意してるから。
…やっぱり止めた方がいいのかなマフラーなんて渡すの。タダも欲しいって一応は言ってくれたけど、それで似合う色も選んだつもりだけど、あまり気に入ってもらえなくて1回も着けてくれなかったら嫌だな。