わちゃわちゃする私 2
…そうか…好きか…
タダの事を好きなんだな私…
あんなにヒロちゃんの事が好きだったのに。ずっとずっと小学1年の時から好きだったのに。
ほんのこの夏くらいからタダに好きだって言われて、それで意識して好きになっちゃうってバカなんじゃないの私。そんなにか?そんなに誰かに好きだって言われたかったか?言われたらすぐか!?知らない相手からでも好きです付き合ってください、って告られたら私で良かったらとか言って即OKするタイプか!
いや、そんな事はない。私はヒロちゃんの隣にいたタダの事を知っているから。好きだって言ってくれたってだけで簡単に好きになったっていうわけではないんだよ。
…でも仮に、タダが本気で付き合おうって言って来たら私はどうするんだろう。
タダが私の彼氏になって、私がタダの彼女になる…
わぁ…それは…
それはどうなんだろう…
私がタダの彼女とか有り得ない気がする…誰もそれを許してくれないような気がする。
そして明日の文化祭で校内をタダと並んで歩く自分を想像する。女子のみなさんの目や言われそうな事を想像する。例えばタダと釣り合わないとかそういう事をだ。
釣り合わないか?そりゃあ私はタダに比べたら存在はだいぶん地味だけど、そこまで自分を卑下してはいない。何しろヒロちゃんに2回も面と向かって告っているからね。まぁきっぱり振られたけどさ。
嫌だなあと思う。人にあれこれ思われたり言われたくない。なぜならそれをとても気にしてしまうからだ。
目立ちたくない。
そして好きじゃない女子に別に好かれなくてもいいんだけど、嫌われたり、あげくには憎まれたくはないのだ。別に誰ともそこまでうまくいかなくてもいいから無難に高校生活を送りたい。
…タダももしかしたら、そこまでは思っていないんじゃないかな、ちょっと付き合ってるつもりだったって言ってたけど、それでも実際付き合おうってはっきり言わないのは、そこまでは思ってないからなんじゃないかと思う。
だって私がヒロちゃんの横にいたタダを見ていたように、タダもヒロちゃんをずっと好きでいた私を見ていてくれていたわけだし、振られるところも実際横で見ていたわけだし、ちゃんとした気持ちで好きだと思ってはくれてるんだろうけど、たぶんそこまでじゃないんじゃないかな…
そういう感じの『オレらそんな感じじゃないよな』的な発言だったんだと思う。
ていうか、そうだよ、タダを好きになって来てるけど私、ヒロちゃんに告ってばっさり振られてる所を見られてるんだった。おっぱいちっちぇえから、ってヒロちゃんに言われて振られてるところを。
…せつないな。
ダダの事を好きだと思えるようになった今は随分せつない。
よくそんな私を好きだとか言ってるよね…
確かに今タダの事をだいぶん好きになっているけれど、それでタダが『付き合ってるつもりでいた』って言ってくれた時も嬉しかったけど、本当に付き合ったりしたらどうなるんだろう。
やっぱり平穏な高校生活が送れないような気がする。まだ1年なのに。
…そうだよ1年なのに、これで仮に付き合ったとしてやっぱりなんか違った、みたいな事になって別れたりしたらもっと目立つよね!?
中学から付き合ったり、別れた、とか簡単に言ってる子たちもいたけど、同じ学校に別れた子がいるって気まずくないのかな。気まずいよね絶対。
ユマちゃんのところとかその心配はないんだろうか。ちゃんとお互いを好きだって気持ちが強いんだろうか。
なんか…付き合うってすごいな。よくヒロちゃんに2回も告ったよね。あれでヒロちゃんが『じゃあ仕方ねえからいっぺん付き合ってみるか』みたいな慈悲深い事をしてくれて、その後すぐ『やっぱ違えわ』って付き合いを解消されたらどんだけショックを受ける事になっていたんだろう。恐ろしい。
じゃあなおさらだな。タダの事を好きだなって思えてきて、好きだって思ってもらえるのも嬉しいけど、よくよく考えたら実際付き合うとか考えられないような気がする。今のままがいいような気がする。好きだなって思ってもらえて、私もそれを嬉しいな、好きだなって思って。
あ~~でもなぁ…。でも私、マフラー買っちゃったよね。彼女じみたプレゼント買ってしまった…
と、いうようなことをもんもんと思ったので、とりあえず夜ユマちゃんに、文化祭は彼氏のヒロト君と回るのかとラインで聞いてみた。
「回りたいねって言ってるけど」とユマちゃんからの返信。それから、「やっぱ当日のいろんな具合でどうなるかわかんないよねクラス違うから」って。そして、「ユズちゃんはタダと回るんでしょ?誘われたんじゃないのぉ?一緒に帰ってたもんねえ」
「誘われたけど、それは断ろうと思ってる」って正直に送ったらユマちゃんからすぐに電話が来た。
「なんで?」とユマちゃん。「なぜ誘われてるのに回らない。もしかして私がヒロトと回らないかもって言ったから?」
「ううん。目立ちたくないから」
「あそう。タダ可哀そうだな」
「タダだって目立つの嫌いだから、私が言ったら考え直すと思う」
「いや、それはないと思う。絶対ユズちゃんと回りたいと思う」
「いやほんとに。ほんとに目立ちたくない。しかも明日タダ、誕生日なんだよ」
「誕生日だから?誕生日ならなおさらでしょ?一緒に回んないでどうする」
「みんなお祝い言ったり何か渡してくるでしょ」
「だったらよけい隣にいなきゃじゃん。私の彼氏にそんなもん渡してくんな!みたいな感じでさ」
「彼氏じゃないもん」
「は?なにが『彼氏じゃないもん』だよキモいわ天然発動か。実際嫌じゃないの!?」
「嫌じゃない事はないんだと思うけど…でも他の子がなにかあげようとするのを止めたりすんのは…」
ハタナカさんもあげるって言ってたよね。タダが受け取りやすいようにシャーペンとかにするって言ってた。今タダは、勝手に取り換えた私のシャーペン使ってるのに。
「はあ?」とちょっとキレ気味のユマちゃんだ。「はっきりしないなあ」
「…」
「ユズちゃんだってほんとはタダの事好きになってきてるくせに」
うっっ!!「いやそれは…」
「なに『いやそれは…』とか言ってんの?キモいわ」
「いやキモいとか言わないでよもう」
「しみしみしてるからだよ!」
「私はずっとこんな感じなの!だからほんとに明日タダと歩いたりすんのは無理なんだって」
「…んん~~~」と唸るユマちゃん。「なんかイラっとする」
「んん~~~」と今度は私が唸る。「いいの。だってしょうがないよ」
「それで何あげんのプレゼント?いいの思いついた?」
一緒に文化祭回るのを誕生日プレゼントにって言われた事は黙っておく。
「そりゃあもうさぁ」とユマちゃんが言う。「やっぱチュウとかしてあげるほかないんじゃないの?」
言われてタダが今日帰りにしたヒロちゃんの話を思い出してドキッする。
ヒロちゃんが誕生日のプレゼントに私からキスをもらえってタダに言ったらしいのだ。ふざけたヒロちゃんが私の役をやってタダにシミュレーションして見せたらしい。
「しないよそんなのするわけないし!」と慌てて答える。
「あれ?」とユマちゃん。「やけに慌てて否定したじゃん。実はする気なんじゃないの怖いんですけど」
「もう~~~何言ってんの!自分だってヒロト君にしたくせに。ユマちゃんのが怖いわ」
「いや、私はする気満々だったからね。誕生日の前から何回もシミュレーションしてエアヒロトで練習もしての本番だったからね」
「マジで!?」
「マジで」