表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

わちゃわちゃする私 1

 バタン、と閉まったドアの内側、玄関で靴も脱がないまましゃがみ込んでしまう。

 わ~~~と思いながらタダはもしかしてまだ玄関の外にいるかなと思うが開ける勇気はない。


 タダに、『自分はちょっと付き合ってるつもりでいた』って言われた…

 わ~~~~、とまた心の中で騒ぐ。

 文化祭の前日の準備を終えて、タダと二人で帰っていたのだが、昼間、『付き合うつもりはない』と言われたと思い込んでもやもやしていた私なのにその言葉で…

 その言葉で…

 その言葉で私、完全に喜んでるよね!?

 うわぁ…


 

 一緒に海にも行ったし花火大会にも行ったし、タダの弟の幼稚園の参観や私の誕生日とかも一緒だったからってタダは言った。だから自分はもう、ちょっと付き合ってたつもりでいたって。

 じゃあ、あの時も?あの時も?と、この夏からのいろいろな一緒に過ごしたタダを思い出す。ぐるぐるぐるぐる、私の頭の中でいろんな場面のタダが出て来る。なんだったら小学生の、転校して来たての気弱そうなタダまで出て来る。

 私を見るタダの優しい目を思い浮かべる。

 


 あの時タダはなんて言ったんだっけ…

 付き合うつもりはない、って言ったんじゃなかったのなら、ごみ置き場でハタナカさんやオオガキ君たちの前で、タダは本当はなんて言ったんだっけ…

 なんでちゃんと聞かなかったんだろう。オレらはそんな感じじゃないよな、みたいな事だったんだよ。だから私は、タダが私の事を好きだと言ってくれてても、ただ好きでいてくれるってだけで付き合うつもりはないんだって勘違いしたわけだけど、そう勘違いしてぐじぐじ思っていた私はいったい何なんだろう。

 付き合うつもりはないって事がちょっと嫌だったって事でしょう?タダの事を意識し過ぎだって思ってたけど、もうこれは私もタダの事を好きになってるって事だよね!?そうだよね!?

 って誰に聞いてんだ私…


 付き合ってるつもりでいたって言われて確かに嬉しいと思ってる。

 ちょっと冗談みたいな感じでタダが『オレはぶっちゃけ付き合ってるつもりでいたからな』って言ってくれた…

 

 …あれ?

 じゃあ、あれは冗談?

 そんな感じの冗談、タダが言う?

 でもその後もタダは、ハタナカさんとラインしてることを気にした私の事をからかうような感じで『可愛い』って言った…

 じゃあやっぱ冗談なの?付き合ってるつもりだったのにっていうのは、やっぱ冗談か?

 わかんないな。冗談のようにも思えるし、冗談めかして本気でそう思ってくれてるのかも…

 …許せんな、なんか。あんな恥ずかしい事、冗談でも冗談じゃなくても簡単に言うなんて。

 

 いや…でも優しい声だった。顔も優しかった。『また明日な』って。ずっと、ずっとタダの事を考えてしまう。

 そんなタダと明日、自分の学校の文化祭で一緒に回るのだ。ちょうど明日がタダの誕生日で、明日のタダの誕生日のプレゼントを決め切らなかった私に、その『文化祭を一緒に回る』を誕生日プレゼントにして欲しいって、タダが言ったから。 

 両頬を両手の平で抑える。顔が熱くなっている。

 


 「ちょっと!どうしたの!?」

母の怪訝な声にハッとして顔を上げた。

 玄関の閉まる音がしたのに私が入って来ないので、今日はパートが休みだったらしい母が奥から出て来たのだ。

 「気分悪いの?」

母にそう聞かれて、すくっと立ち上がり何事もなかったように「いや、なんでもないよ」ときっぱり答え、さっと靴を脱いで母の横をすり抜けそのまま2階に上がろうとすると言われた。

「ちょっと、」と言われてドキッとする。

 なに?母、何か見てた?一緒に帰って来る私たちを見てたのか?

母が少し私を睨んで言う。「ちゃんと手を洗いなさいよ」

「あ~~うん」

急に気をそがれてなまくらに答えてしまい、カバンを階段の下に置き言われたままに洗面所に向かう。

「どうしたの?なんかちょっと変な感じだよね」と後ろから声をかける母。

「いや、なんでもないよ」と少し慌てて振り向いて答えた。


 母は恐ろしい。すぐに私の異変に気付く。そして慌てた私の答えを無機質に流してじっと私を見つめまた聞いた。

「なんかあったの?」

「ううん!何にもない。何でもないよ」

「それさっきも聞いた」

「え、だって…なんでもないから」

「いや、何かあったね」

「何にもないってば」

「ほんとに?」

「ほんとに。しつこいなお母さん」

「なんだとぉ?」と少しふざけが入る母だが私は気を許さない。母の目が笑っていないからだ。

 そのまま洗面所に入る私に母がさらに後ろから叫ぶ。「ちょっと~~、何があったの~~?ほんとはなんかあったでしょ~~~」

「ほんと何でもない~~~」

洗面所の中から叫び返しジャージャーと手を洗った。



 いやほんとに…なんでもないわけないよね。全然なんでもないわけない。

 なんでタダはあんななの?あんな、私をすごく好きみたいな感じで言ってくるくせに、なんでいつもいつも普通の感じで、なんで私だけが赤くなってワチャワチャしなきゃなんないの!?

 それなのに!そんなタダの事をなんか私…うずくまって赤くなるくらいに意識してる…

 私もタダの事を好きだなって確実に思い始めてる。





 タダというのは多田和泉。タダイズミは私が小学1年の時から好きだった伊藤博人の親友で、今同じ高校、同じクラス、そして私を好きだと言っている男子。7月、夏休みが始まると同時にヒロちゃんにはっきりと振られ、それでも8月、夏休みいっぱいくらいは確実にヒロちゃんの事が好きだったのに、私の事を好きだと言ってくれているタダの事をだんだん意識するようになって来た…


 って帰ってから、夏からの事をどんだけ反芻して思い出してんだ。と心の中で自分に突っ込みながら、『付き合ってる気でいた』って言ってくれた時の事もまた思い出し、ぽっと赤くなりかけるが、ヒロちゃんの高校の文化祭に二人で行った時の事を思い出して我に返った。

 いやいやいやいやいけないいけない、恐ろし過ぎる。

 うちの学校の文化祭で一緒に回ったりしたら、ヒロちゃんの高校の文化祭を二人で回った時に感じた視線より格段に強い視線を浴びるだろうし、視線だけじゃない。何しろ明日はタダの誕生日だし、普段よりタダに寄ってくる女子が多いに決まっている。第一、今こんな風に意識しているタダの隣を、そのみなさん視線を浴びながら歩くのに私の心が普通でいられるかどうか…


 絶対だめだよね。ワチャワチャするに決まっている。今でさえこんな感じなのに。タダの隣に並んで校内を回るなんて考えられない…



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=501094151&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ